
Q&Aより「それって採取?それとも処置?」~具体事例をもとに解説~
長 幸美
医療介護あれこれ日々の医療事務業務のなかで、「これは採取料?それとも処置として算定するの?」と点数算定に迷う場面は意外と多いのではないでしょうか。特に「穿刺」と聞くと、どれも処置料として扱ってしまいそうになりますが、実は“目的”によって点数の算定方法が大きく変わります。
診療所に訪問して現場を見てみると、この「検査(採取料)」と「処置料」で、誤った請求をしている事例が多くみられます。質問の多い項目でもありますし、今回は、どのように考えて算定をしたらよいのか、皆さんで一緒に考えてみましょう!
目次
点数算定の原則を理解する
事例を見る前に、まずは原則を整理しておきましょう!
診断の為なら検査料、治療も行うなら処置料(手術料)
目的が診断(検査)の為に検体を採取する場合、患者さんが自分自身で採取できるもの・・・例えば、尿や便、唾液については自分自身で排出して採取することができますね。この場合は採取料の算定はできません。しかし、血液や体液、粘液、組織等になると、針を刺したり、剥離したり、切除したりして、採取する必要があります。医療職(医師や看護師)の手によるわけですが、この場合、原則手技料が算定できます。
また、診断のために検体を採取した後、薬剤を注入したり、組織をちょっとつまんでとるだけではなく、病変そのものを切除して検体に出す場合があります。つまり「治療」を合わせて行うわけです。その場合には、採取料の代わりに、処置料や手術料を算定することになります。
たとえば、採血は検査のために血液を採る行為です。これは典型的な「採取料」に該当し、点数表上も「静脈血採血料」などとして別枠で算定します。
一方で、関節穿刺や胸水穿刺のように、針を刺して体内の液体を排出したり、診断や治療のために行う行為は「処置」として評価され、「関節穿刺」「胸腔穿刺」などの処置料が算定できます。
見た目にはどちらも“針を刺す”という行為ですが、報酬上は「検査のために材料を取る行為」なのか、「直接的に患者の状態を改善・診断するための医療行為」なのかで分類されているのです。
さらに注意すべきは、同じ「穿刺(針を刺す)」という行為でも、目的次第で算定が変わることです。
例えば腹水を抜いて検査に回す場合は、「処置としての腹腔穿刺」と「採取料」では算定する点数が違います。整形外科で良く行われる例として検体を採るための「関節穿刺」と「関節腔内注射」「処置を伴う関節穿刺」とそれぞれの目的で点数が作られているのです。
このような場合、目的や主たる行為に基づいてどちらかを選んで算定することになります。併算定不可の場合も多く、算定ルールの確認が必要です。
医療行為別の事例集
さて、ここまでのお話しが、「漠然としてよくわからない・・・」という方も多いのではないでしょうか?ここからは、この「検査」と「治療」について、具体的な事例とともに考えていきたいと思います。
事例1:関節周辺の処置(整形外科)
整形外科では、「関節に水がたまる」ことや「痛み止めの注射をする」ことなど、比較的よく遭遇する検査であり、処置です。
ケース | 行為 | 内容 | 算定区分 | 備考 |
A(薬液注入) | 関節腔内注射 | 関節に薬剤を注入(例:ステロイド等) | 注射料(G010) | 治療目的の注射。薬剤料と注射手技が算定対象 |
B(排液) | 関節穿刺 | 関節液を抜去し、痛み腫脹の軽減を図る | 処置料(J038) | 診断または治療目的の穿刺行為 |
C(診断) | 関節液採取(検査目的) | 関節液を採取して検査に提出 | 採取料 (D009等) | 穿刺を行うが、目的が検査であれば採取扱い |
この関節周辺の算定のポイントは、「穿刺して何をしたか」ということがとても大事になってきます。点数も下記の通り違ってきますので、誤算定しないように気を付ける必要がありますね。
■薬剤を入れる ⇒ 関節注射(80点)
■関節液を抜く ⇒ 関節穿刺(120点)
■関節液をとって検査する ⇒ 採取料(100点)
また、関節液を抜いた(B)あと薬液を注入(A)する場合があります。その場合は、処置料で算定します。さらに・・・関節液を抜いて(B)そのあと診断のための検査(C)に出す場合があり、この場合は採取料で算定します。
※弊社の過去のコラムにもQ&Aで解説していますので、ご覧ください。
⇒Q&Aより「関節腔内注射時の麻酔は算定できない?」は(こちら)
事例2:内視鏡を用いた処置と検査
消化器内科を中心に内視鏡検査の時に、何らかの所見(病変)があり、除去(切除)する場合は手術の項目になり、病理組織検査等に検体を出しても「採取料」は算定できない(含まれる)ことに留意が必要です。
一方「切除まではしない」けれど、一部組織を採取して検査(生検)することが主目的となる場合は「内視鏡下生検法」で算定することになりますので、留意が必要です。
ケース | 行為 | 内容 | 算定区分 | 備 考 |
A(診断) | 内視鏡下生検 | 粘膜を一部採取し病理検査に提出 | 採取料 (D414) | 組織検査目的のため |
B(手術) | 内視鏡下ポリペクトミー | ポリープを切除し治療 | 手術料 (K653) | ポリープ除去が治療目的。点数も高い |
C(診断+手術) | 切除と病理組織検査 | 切除したポリープを組織検査に提出 | (手術料に含む) | 採取料は算定できない |
健康診断等でポリープ等の異常所見があった場合、病理組織検査等の細かな診断については健康診断の範疇外になりますので、病理組織検査等の検査料(診断料)は保険請求できます。しっかり整理しておきましょう!
事例3:胸水貯留の場合
様々な理由により胸水や腹水がたまってしまった場合、また、気胸により呼吸困難や疼痛が起こってしまった場合など、胸腔や腹腔に針を刺して抜く(排液する)ことがあります。また、持続的・カテーテルを留置している場合もあります。事例は胸水を穿刺した場合を事例にあげています。
このような場合は、「主目的は何か?」ということを考えてみましょう!!
ケース | 行為 | 内容 | 算定区分 | 費用 |
A(治療) | 胸水穿刺 (排液、排気) | 呼吸困難の緩和目的で排液 | 処置料(J008) | 治療目的の排液。処置として算定 |
B(診断) | 胸水穿刺 (検体採取) | 胸水を採って検査 | 採取料 (D419等) | 診断目的での検体採取。採取料を算定 |
C(治療+診断) | 胸水穿刺 (排液+検査) | 胸水を抜き、ついでに一部を検査提出 | 原則、処置優先(J008等) | 主目的が治療なら、採取料は算定不可 |
事例4:婦人科領域(粘液採取と掻爬術)
さて、次は婦人科の領域です。妊婦健診など産科・婦人科の領域では、自由診療との線引きが必要になります。妊婦健診の時の内容とどのような目的で実施するのかで算定できる報酬が違ってきます。
検体の採取は、一部をつまんで検体に出す、若しくは粘膜・粘液を採取します。
しかし、処置の場合は、子宮内膜掻爬や病変を切除等の外科的処置を行い、その組織を検体として提出します。
ケース | 行為 | 内容 | 算定区分 | 備考 |
A(診断) | 子宮頸部粘液採取 | 子宮頸部の粘液や分泌物を綿棒などで採取し、検査提出 | 採取料 (D418など) | 細胞診・細菌培養などが目的。軽微な採取行為 |
B(治療) | 子宮内膜掻爬術 | 子宮内膜をかき取って出血の原因確認や止血、病変除去 | 処置(手術)料 (K861など) | 診断・治療目的。侵襲性が高く手術扱いが多い |
C(治療+診断) | 掻爬組織を病理検査へ提出 | 掻爬術後に組織を提出する 処置の一部とみなす | 原則、処置優先 | 採取料は算定できない |
事例5:眼科領域の採取と処置
眼科の場合、涙道・涙嚢の閉塞等の原因を診断(検査)し、その原因の除去を行う(処置)など、があります。
眼科処置では、「両眼に異なる疾患を有し、それぞれ異なった処置を行った場合は、その部分についてそれぞれ別に算定できる」とされています。ただし、注意書きの中で、「一眼瞼ごと」や「片側」などのように書かれている場合、算定の仕方が変わりますので、留意してください。
眼科検査の場合は、「片側」と指定されていない場合、「両眼」でも「片眼」でも1回の算定となるので、これも注意が必要ですね。点数表の「注」もしっかりと読むようにしましょう!
ケース | 行為 | 内容 | 算定区分 | 備考 |
A(診断) | 眼脂(目ヤニ)・涙液採取 | 綿棒などで分泌物を採取し、細菌検査へ提出 | 採取料 (D027など) | 軽微な採取で、目的は検査。採取料として算定 |
B(治療) | 涙嚢洗浄 | 涙道の閉塞確認や洗浄目的 | 処置料 (J087、K226など) | 診断や治療目的であり、明確な処置 |
C(診断+治療) | 涙嚢洗浄し、その洗浄液等を検体として診断する | 涙道の閉塞確認や洗浄目的での生理食塩水注入 | 原則、処置優先 | 治療目的。侵襲を伴う場合もあるため処置・手術扱い |
まとめ
今回、医療事務の算定の場面で質問が出てきていた内容を取り上げてみました。
手技の名称だけで判断せず、「診療行為の目的は何か?」「医師の指示は?」「診療録にどう書かれているか?」という視点で診療録を確認し算定することが大切です。
本日事例として掲載しているもの以外でも、様々な診療科で同じような状況が発生していることと思います。その時に慌てないためにも、しっかりと診療報酬の考え方を整理しておくことが求められます。
また、検査における診断穿刺・検体採取料の場合では、通則に「手術に当たって診断穿刺又は検体採取を行った場合は算定しない」さらに「処置と共通の項目は同一日に算定できない」とされていますし、各部位の穿刺・針生検においても、「同一部位において2ヵ所以上行った場合にも、所定点数のみの算定とする」とされていますので、留意が必要です。
分厚い「診療点数早見表」を目の前にすると、何処を開いたらいいかわからない~! 大変~! 難しい~!と思われるかもしれませんが、その都度確認する癖をつけていくことにより、適正な請求点数の算定ができるようになっていくと思います。
最後に、皆さんのクリニックではカルテの記載や算定ルールは如何なっていますか?
確認してみましょう!
✅穿刺を伴う医療行為で、目的(治療 or 検査)は明記されていますか?
✅医師の指示とカルテ内容は一致していますか?
✅採取料と処置料の併算定をしていませんか?
✅点数の高い処置料に安易に合わせていませんか?
これを機会に、先生方の診療内容にも興味を持って確認し、正しい報酬算定に向けて一緒に頑張っていきましょう!
<参考資料> 令和7年5月18日確認
■診療点数早見表(医学通信社)
※厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」にも同内容の掲載あります!
⇒特掲診療料_D 検査/第4節「診断穿刺・検体採取料」
J 処置/「一般処置_穿刺」
K 手術
■「検査画像診断辞典」、「臨床手技の完全解説」(医学通信社)
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント