
医療事務基礎講座~施設基準の管理について~
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
皆さん「施設基準」って聞いたことありますか?
病院ではなじみが深い「施設基準」ですが、診療所ではなかなか馴染みがなくて・・・「そんなこと知りません。先生に聞いてください!」という方もいらっしゃいます。しかし、毎日診療費を計算して、保険請求を行っている皆さんにとって、この施設基準を理解することはとても大事なことになります。
コロナ禍以降4年ほど、個別指導や適時調査など厚生局の訪問が無く、また、集団的個別指導もeラーニングになり、自主点検が主になってしまいました。結果として何となく過ごしてきた・・・という診療所さんの声を聞くことがあります。今はコロナ禍が空け、医療機関の適時調査は現地調査が復活しています。最近は新規開業の個別指導も忘れたころに入っているということも聞いています。集団的個別指導もeラーニングになり、自主点検が主なために何となく過ごしてきたという診療所さんや新規開業の個別指導を受ける医療機関にとっては意識を変える必要がある状況になったということです。
適時調査については、以前のコラムをご確認ください。
⇒教えて!適時調査って何ですか? (2023.11.29) もご覧ください。
目次
施設基準とは・・・?
さて、それではまず「施設基準」から話を進めていきましょう!
そもそも「施設基準」って何ですか?
厚生労働大臣が定めた医療機関の機能や設備、診療体制、安全面やサービス面などの基準のことを指しています。保険診療の中で、一定の人員や設備を満たし、その旨を地方厚生局に届け出ることによって、個別な診療報酬を算定できる場合があります。その「基準」のことを「施設基準」といいます。
施設基準は、厚生労働省告示で定められ、細かい取扱いは通知で示されています。施設基準の要件は、厚生局Webサイトや「診療報酬点数表の解釈」などで確認できます。施設基準の適切な管理・運用は、法令遵守だけでなく、診療報酬の点数を左右することにつながります。この為「施設基準」がしっかりと満たされているかどうか確認していないと、適時調査で基準の不備が発見された場合は返還金が発生することになります。基準管理はとても大事で医療機関経営にとって欠かせない取り組みといえます。
確認の結果施設基準を満たさなくなった場合は、遅滞なく変更の届出を行う必要があります。
ではどうしたらいいのでしょうか?
「施設基準」の届出は・・・?
保険診療を行うためには、保健所に「医療機関」としての届出を行い、その後、地方厚生局に「保険医療機関の申請」を行います。つまり、保険医療機関では健康保険法など関連法令にもとづいて「保険医療機関の指定」を受け保険診療行うことで、「診療報酬」を算定できる仕組みなのです。このとき、勤務する人員や院内の設備などで施設基準を満たす規定がある場合、地方厚生局に届け出て初めて点数が算定できます。
一定の基準を満たした医療機関が診療報酬の加算を受けられますが、「基本診療料」や「特掲診療料」の「加算」にあたるものです。この点数にはそれぞれに求められる要件の項目と基準が明示されています。その内容は点数表とは別に厚生労働大臣告示が定められ、細かい取扱いが通知で示されています。
施設基準の届出が必要なものには、点数表に「別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして保険医療機関が地方厚生局等に届け出た~」という一文が入っています。
施設基準の中では、医療従事者の人数や職種、資格、経験などを規定されています。また医療機関内の設備や構造に関する基準も定められています。基準内容には、診療実績を規定されているものもあります。その内容を満たしているとして届出を行っていますが、その基準(内容)は満たし続けていることが必要とされます。従って、結果として管理が必要になるのです。
どのような施設基準の管理が必要か?ここでいくつか事例を示して考えていきましょう。
入院基本料と特定入院料
事例の一つ目は、入院施設をお持ちの医療機関はおなじみの「入院基本料」です。
入院基本料では、それぞれに看護職員の配置等が定められています。
それと同時に通則で、①入院診療計画、②院内感染防止対策、③医療安全管理体制、④褥瘡対策、⑤栄養管理体制の基準の明確化、⑥人生の最終段階における意思決定支援、及び⑦身体的拘束の最小化の取組が要件化されました。つまりこれらの基準を「このように整えています」という内容を添えて届出しているわけです。これは有床診療所についても同様です。
また、それに加えて、それぞれの入院基本料の施設基準に合致しているとして、人員配置(看護職員及び看護要員)等を配置している状況を届出しています。さらに、特定入院料(地域包括ケア病棟(病床)や回復期リハビリテーション病棟、等)についてはそれぞれの病棟の機能(特徴)に合わせた基準が設けられており、それらを満たしていることが確認されて初めて受理番号が与えられます。
基準の内容としては、地域包括ケア病棟(病床)については、入院経路別の患者数や在宅復帰率、在宅医療の提供数など、回復期リハビリテーション病棟については、患者さんの入院時と退院時の改善割合い・・・つまりアウトカムを数値化したものが基準の中に設定されています。
それらの基準については、維持し続けないと入院料は報酬として算定できないわけです。
ここでは地域包括ケア病棟(病床)と回復期リハビリテーション病棟のみ事例として見てきましたが、その他の特定入院料についても同様です。
在宅療養支援診療所(病院)
もう一つ事例を見ていきましょう。今回の事例は、在宅医療を積極的に行っていることを示す「在宅療養支援診療所(病院)」での事例です。在宅を積極的に行う医療機関には届け出ることで算定できる報酬が多々設けられています。訪問診療を行った医療機関であっても届出内容で算定できる「在宅時医学総合管理料」の点数が大きく違います。実績のある医療機関とそうでない医療機関では収入に差がつきます。在宅療養支援診療所1.2は最も高い点数が設けられています。
届出要件として人員配置の他、どのように在宅医療を実施しているか・・・という実績が必要になってきます。実績とは、直近1年間に何人の患者を看取っているか、緊急往診が何件あったか・・・ということが必要とされます。
施設基準の管理に必要なこと
最近の診療報酬改定では算定基準の中に、人員配置基準や掲示物だけではなく、「実績値」と管理しておく必要があるものも増えてきています。管理していく数の例を挙げると、「外来感染対策向上加算」は、連携している医療機関のカンファレンスの参加実績、などが必要となります。
他に数値を必要とされる診療報酬があるか、いくつか簡単に事例を出してみましょう!
例① 在宅療養支援診療所1.2については、直近1年間の看取り件数と緊急往診の回数が必要です。
例② 後発医薬品使用体制加算については、「処方・調剤における後発品の数量割合」や「カットオフ値」の基準値を満たすことなどが要件とされています。
例③ 外来感染対策向上加算については、感染対策向上加算1を算定する医療機関若しくは医師会が開催するカンファレンスに年2回以上参加することが必要になります。
例④ 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)については、初診時・再診時にベースアップ評価料の算定をした結果の収入金額、そして実際に支払ったベースアップの金額を集計する必要があります。点数算定後年に1回計画書の作成と実績報告が求められます。
ま と め
このように、いわゆる「診療実績」について集計をしておくこと・・・これが大事で、施設基準管理の中でも、とても重要になります。
今回事例として挙げた以外にも、算定要件や施設基準の中で大事な統計がありますので、このコラムをお読み頂いた方は、ぜひ施設基準の中で実績統計が必要な内容がないか、一通り見直しをお願いできればと思います。
クリニックの事務員さんであっても、必要な内容を確認してみましょう!
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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