
令和6年度診療報酬・介護報酬改定~特別養護老人ホームの嘱託医(配置医師)の変更点
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
お客様から寄せられるご質問の中でも、「特別養護老人ホーム(以下、特養)の配置医師の役割と報酬の算定」に関するものが増えてきました。
特に令和6年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、配置医師に関連する制度にも見直しが入りましたので、今回は令和3年のコラム内容を振り返りながら、最新のポイントを整理します。
※令和3年に記載したコラム「【医療介護あれこれ】特別養護老人ホームの配置医師はどう算定する?(QAより)」をまだご覧になっていない方は、ぜひこちらもご覧ください!
目次
先ず、特別養護老人ホームとは・・・?
特養とは、在宅での生活が困難な高齢者に対し、食事、排泄、入浴などの生活援助と、健康管理を提供する介護保険施設です。要介護3以上の方が主な入所対象となります。
施設には、定期的な健康管理を担う医師の配置が義務付けられており、この医師を「配置医師」と呼びます。配置医師の役割は以前のコラムの内容と変更はありません。
主な役割は、①入所者の定期的な診察(回診)、②処方箋の発行、③緊急時の対応、④看取りへの対応、⑤医療機関との連携や家族への説明 などがありますが、これらのうち、定期的な診察は介護保険の「基本サービス費」に含まれている為、診療報酬(医療保険)での再診料や訪問診療料などは算定できません。この為、配置医師の先生は、配置医師としての契約を特養と締結して報酬を得ることになります。
この役割については変更点はありません。ではどのような変更点があるのか、整理してみましょう!
令和6年度改定による介護報酬の変更点
今回の改定では、時間外についても緊急時配置医師対応体制加算が認められるようになりました。
さらに、緊急時等における対応方法を施設と配置医師・協力医療機関で協議する体制の強化が求められてきています。変更点を見ていきましょう!
「緊急時配置医師対応体制加算」の評価
「緊急時配置医師対応体制加算」については、令和6年度の改定で新たな加算単位が設けられ、通常の勤務時間外(早朝・夜間・深夜を含まない時間外)の対応についても新たに評価されるようになりました。
この「緊急時配置医師対応体制加算」については、施設が請求(介護保険)するものになります。
この改定により、勤務時間にかかわらず、配置医師が緊急対応を行った場合に介護保険での評価が可能になりました。これは大きな変更点といえます。
時間帯 | 単位数 | |
通常の勤務時間外(新) | (8時〜18時以外) | 325単位/回 |
早朝・夜間 | (6時〜8時、18時〜22時) | 650単位/回 |
深夜 | (22時〜翌6時) | 1,300単位/回 |
体制整備の義務化
今回の改定では、緊急時等における対応方法を施設と配置医師・協力医療機関が協議し、年1回以上の見直しを行うことが義務付けられました。これは特養における医療提供体制の質がさらに向上することへの期待だと思います。
この取り決めには以下の項目を含む必要があります:
①医師への連絡方法と時間帯ごとの対応体制
②緊急時に誰が、どう判断して連絡を取るか
③対応内容の記録と共有方法
前回令和3年度の改定時点では「具体的な取り決め」について明文化義務はありませんでしたが、今回の改定では義務化され、監査・指導の対象となります。
看取り・ターミナルケアに関する算定要件の明確化
これは、特養が「看取りの施設」であることを明確化したということになるのではないでしょうか?
末期の悪性腫瘍など特定の状態にある入所者に対して、配置医師であっても、さらに協力医療機関の医師が対応した場合であっても在宅扱いとして、以下の医療保険算定が可能ということになります。
①在宅患者訪問診療料(死亡日から30日以内)
②施設入居時等医学総合管理料
③看取り加算 など
前回令和3年度のコラムでも解説しておりましたが、令和6年度通知「保医発0327-9」により、これらの要件がより明確に示されたことになります。
まとめ:ポイントの振り返り
今回のポイントを最後にもう一度簡単に整理すると・・・
項目 | 令和3年度改定時点 | 令和6年度改定(現行) |
夜間・深夜の緊急対応 | ◯(加算あり) | ◯(加算あり+単位数変更) |
日中の時間外対応 | ×(加算なし) | ◯(325単位新設) |
緊急対応体制の整備 | 努力義務 | 年1回以上の見直し義務化 |
看取り関連の算定 | 条件付きで可能 | 通知により要件明確化 |
配置医師は、施設に常駐していませんが、施設運営の一翼を担う重要な役割を果たしています。
医療と介護の境界を適切に理解し、制度に則った算定を行うことで、医療機関と施設の双方にとって持続可能な運営が可能となります。
今回の改定を通して、配置医師の役割はより明確に「生活施設における医療の支柱」として位置づけられたといえます。
在宅医療との整合を図る形で、看取りや緊急対応も制度の中に取り込まれ、より現場に即した評価体系へと進化している印象です。
制度を正しく理解し、現場での運用に落とし込むことが、利用者にとっても、医療機関・施設にとっても有益な対応に繋がるのではないでしょうか。
<参考資料> 確認:令和7年5月25日
〇「医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項及び医療保険と介護保険の相互に関連する事項等について」の一部改正について(通知) (令和6年3月27日老老発0327第1号、保医発0327第8号)
〇「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」の一部改正について(通知)
(令和6年3月27日 保医発0327第9号)
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
最新の投稿
- 2025年7月24日医療系事務職員応援隊併算定できるのに見落としがち!~生活習慣病管理料(Ⅱ)と同時算定可能な項目~
- 2025年7月11日医療事務基礎講座実績報告の準備は大丈夫?~令和6年度ベースアップ評価料、提出忘れにご用心!~
- 2025年7月8日医療介護あれこれ「一般名で処方する」とは?~一般名処方加算をめぐる背景とポイント~
- 2025年7月2日電子カルテ電子カルテを入れれば業務が楽になる?~