【医療介護あれこれ】特別養護老人ホームの配置医師はどう算定する?(QAより)
長 幸美
アドバイザリー弊社には、顧問先様を始めとして、様々な質問が寄せられてきます。最近では、「かかりつけ医の役割」や、「在宅医療」についての質問が多くなりましたが、医療と介護のはざまにどう算定するのか、というような内容や在宅支援に対する質問も数多く寄せられています。
介護と医療の給付調整・・・これはなかなか難しく、「介護はやりたくな~い」という医療機関様の苦手意識の根底にあるものだと思います。
今日はその中から、特別養護老人ホームの配置医師が算定できるものについて、整理してみたいと思います。
【特別養護老人ホームとは】
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)とは、常時介護を必要とし、在宅での生活が困難な高齢者に対して、生活全般の介護を提供する施設、つまり、生活の場です。
このため、入浴、排泄、食事などの介護、その他の日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行います。
入居に際しては、要介護3以上が対象になります。
定員29名以下のものは、地域密着型サービスといわれます。
■配置医師とは・・・
この「配置医師」は、特別養護老人ホームにおいて、運営規程に定められている、「入居者の健康管理」「入居者の定期健康診断及び予防接種」「入居者の支援」を行う医師で、施設との契約に基づき医学的業務を行うものです。いわゆる施設内の「かかりつけ医」の役割があります。
特別養護老人ホームには、人員基準として入居者の健康管理及び療養上の指導を行うために必要な医師と、設備として、医務室(医療法に規定する診療所の扱い)の設置が必要です。
「配置医師」は、定期的な入居者の診察(回診)を行うことを主たる業務としています。
これは介護保険で、「基本サービス費」として評価されていますので、配置医師がクリニックの診療報酬として算定することはできません。
配置医師となった先生は、特別養護老人ホームと契約し、契約(委託)料をいただくことになります。
■「配置医師」に求められる機能とは・・・
① 定期的な回診
⇒健康状態、生活環境の適正・心身の状態にふさわしい食事・入浴等への意見(アドバイス)
② 必要に応じた処方箋の発行
③ 臨時の往診及び処置
④ ターミナルケアから看取りへの関わり
⑤ 主治医意見書の作成
⑥ 外部医療機関との連携(紹介状の記載)、家族への説明等
⑦ 急変等への対応(指示照会等) /等
【医療と介護の給付調整】
給付調整というのは、利用者への医療行為について、介護保険として評価するのか、医療保険として評価するのか・・・つまり、先生方のクリニックとしてレセプト請求(保険請求)ができるかどうか、ルール化されていてこのことを、医療と介護の給付調整として、告示により整理されています。
上記で言うと、基本的な「①定期的な回診(診察)」については、介護保険で評価されていますので、再診料や往診料・訪問診療料の算定はできません。
但し、「②必要に応じた処方箋の発行(投薬)」等の医療行為については医療保険にて保険請求ができます。給付調整の表でご確認ください。
また、併設医療機関を含む配置医師については算定に制限がありますが、「看取り」や「急変時の対応」については、「特別の必要があって行う診療」として除外され、一部算定が認められています。
配置医師以外の診療については、専門性が違うなどの要件がありましたが、配置医師の求めに応じて対応が可能に変更になっています。患者や家族の求めに応じて配置医師以外の医師が診療を行うことに対しては制限がありますが、この辺りも緩やかになってきているのではないかと思います。
詳細なルールに関しては、下記「告示」「通知」等をご参照ください。
【介護保険_特別養護老人ホームの加算について】
平成30年度の介護保険改定において、特別養護老人ホームで看取りや緊急時対応について、配置医師に連絡を入れ、対応することに対し、介護保険の評価が付き、「緊急時配置医師対応体制加算」として、特別養護老人ホーム側で請求ができるようになりました。
これは介護保険での特別養護老人ホームに入る報酬となります。
このことにより、ターミナルや看取りに対し、特別養護老人ホームでの取り組みが進んでいくことが期待されていますが、実際はどうでしょうか?
介護保険の報酬としてきちんと算定されていますでしょうか?
■算定要件
・配置医師が早朝または深夜に施設を訪問し、診療を行うこと及び診察の内容を記載すること
・入所者に対する緊急時の注意事項や病状についての情報共有の方法、曜日や時間帯ごとの医師との連絡方法や診察を依頼するタイミングなどが、配置医師と施設の間で具体的に取り決められていること
・複数名の配置医師を置いている、若しくは、配置医師と協力医療機関の医師が連携し、施設の求めに応じて24時間対応できる体制を確保していること
・看護体制加算Ⅱを算定していること
■留意事項
・事前に届け出た配置医師が、施設に訪問して診察を行わないと算定できません。
配置医師以外の医師が施設にて診察を行っても、算定できません。
・緊急時の医師の対応を評価する加算であるため、計画的に早朝・夜間・深夜に診察を行っても算定の対象となりません。
・診療の開始時刻が対象の時間帯に含まれる場合に加算が算定できます。
ただし、診療時間が長時間にわたり加算の対象となる時間帯(早朝夜間及び深夜)における診療時間が全体の診療時間に占める割合がごくわずかな場合には、加算は算定できないということになっていますので、注意が必要です。開始時間や対応等の記録をきちんと取っておく必要があるでしょう。
【よくある質問】
■配置医師は処方できるのか?
結論から言うと、できます!
これは、診察料が算定できないので、処方してもお薬代も持ち出しになるのではないか、という質問が多いのですが、基本診療料については算定できませんが、処方や検査、処置料については、通常通り保険請求して問題はありません。
なお、配置医師と処方医師・・・つまり患者の医療行為を行っている医師が別の場合は、診察料も算定できますが、配置医師の場合は、①の基本サービス部分に含まれ往診料を含めて算定ができません。
■緊急時の対応はしてはいけないのでしょうか
緊急時の対応を妨げるものではありません。緊急時の往診の加算算定は、配置医師の場合、基本サービス費(上記①②)に含まれるため、算定はできません。(配置医師以外の医療機関では算定は可能です)
但し、特別養護老人ホーム側には緊急対応を施設内で行うことに対し、前述した通り加算が算定可能です。いくらかお手当てを交渉してみてもよいのではないでしょうか?
■ターミナル対応なども算定できませんか?
末期の悪性腫瘍患者の場合と看取り加算の施設基準に適合している特養で在宅療養支援診療所(病院)又は特養の協力医療機関の医師により、死亡日から溯って30日以内の場合は在宅患者訪問診療料(I)や施設入居時等医学総合管理料、在宅患者訪問看護・指導料の算定が可能になります。
細かな条件はありますが、がん患者の看取りなどは、特養であっても在宅と同じように算定が可能となっています。特別養護老人ホームにおける療養の給付の取扱いについて(通知「令和2年保医発0327・4」を参照していただければと思います。
【最後に】
特別養護老人ホームは、生活の場であり、医療提供施設ではありませんが、介護保険の施設として基本サービス費の中に「医師の配置」が規定され、医療行為を行う医師や看護師等により「介護保険と医療保険の給付調整」により、整理されています。大変わかりにくい仕組みではありますが、特養の中での先生(配置医師)の位置づけを考えてみると、合点がいくこともあるのではないでしょうか?
末期の悪性腫瘍患者と在宅療養支援診療所(病院)又は協力医療機関のターミナルについては、「ターミナルケア加算」「看取り加算」と大きな加算がついていますので、在宅医療全般に、確認が必要だと思います。
<参考資料>
■告示7 医療保険と介護保険の給付調整
■通知 特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて(令和2年度保医発0327-4)
医業経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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