令和6年度診療報酬改定~医療DXについて①~
長 幸美
医業経営支援今回の改定は、物価高騰や賃上げ、人材確保、など「少子化・超高齢化社会」における医療・介護の提供体制を見据えつつ、その対策の一つとして「医療DX」についてもあちらこちらに取り上げられています。つまり、効率よく人材を活用しつつ、質の高い医療提供・介護提供を行うためには、「情報共有」や「連携」における医療DXについて、取り組みを進めていく必要があると考えられているのです。
今回は、診療所に関係するものをまとめて掲載しています。
目次
そもそも、「医療DX」とは?
「DX」とは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える(Transformする)こと(情報処理推進機構DXスクエアより)と定義されています。
また、「医療DX」とは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることと定義されています。
具体的に言うと、
①オンライン資格確認(マイナポータルの活用)
⇒令和6年12月2日以降保険証の発行中止、電子処方箋の活用促進
②電子カルテ情報の標準化・標準型電子カルテの検討・・・3文書、6情報(※)
⇒令和7年度運用開始予定の電子カルテ情報共有サービス活用
③診療報酬DX
⇒診療報酬改定に短期間で作業が集中するための業務負担の軽減のため、施行時期を6月1日へ
④医療ビッグデータの活用(分析)
⇒NDB(レセプトデータ、DPCデータ)、介護DB、公費負担医療DB、等
などが、挙げられています。
(※)3文書・6情報とは・・・
3文書:診療情報提供書、退院時サマリー、検診結果報告書
6情報:傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、
検査情報(救急時に有用な検査、生活習慣病関連の検査)、処方情報
ポスト2025年の医療・介護提供体制
2025年問題といわれていましたが、今回改定はその2025年を目前にした「医療・介護・障害」のトリプル改定であること、そして、すでに2040年問題に視点は移っているということも意識しておく必要があろうかと思います。
「治す医療から、治し支える医療へ」
前回改定の時から、このフレーズは幾度となく、言われてきました。
「治し支える医療」とはどういうことなのでしょうか? これは医療や介護が必要になった方の「生活を支えるために必要な医療」と訳すことができると思います。となってくると・・・
「かかりつけ医機能」の充実・・・つまり、
①「地域に健康や医療介護等に関する相談ができる」こと、そして、
②患者が「自ら、公開されている情報をもとに、適切な医療・介護を選択できること」が大事なわけで、このためには、
③健康・医療・介護情報に関する情報基盤が整備されていることが重要になります。
地域完結型の医療・介護提供体制の構築~共生社会~
今回の改定では、「賃上げ」に対する基本診療料の上乗せ等によりプラス改定のイメージがあるように感じていますが、実際には、個々の個別改定項目を見ていると、なかなか厳しい内容であることが見えてきます。じっくり読みこんで行くと、良い評価がついているように見える項目でも、実際には算定要件に「ガイドラインを参考にすること」や実際の対応(体制も含め)について求められるものが多く、なかなか現状を維持し続けるのも難しいな、と感じることもあります。
上記の図で言うと医療・介護情報の整備・・・つまり一か所に集めることにより、それぞれの事業所が見に行くことで、情報の共有を図っていく・・・ということを目指し、それぞれの分野で計画を立て、地域の中で完結できるように融合していくこと、この取り組みに協力してね・・・と表現されているようです。
令和6年度診療報酬改定における医療DXの見直し
では、この改定の中で、医療DXがどのように見直されているのか、診療所の先生方に影響しそうな 外来や在宅に絡む部分を見ていきたいと思います。
医療情報・システム基盤整備体制充実加算の見直し
現在「オンライン請求」や「オンライン資格確認等システムの導入」が義務化され、医療情報システムの基盤整備が進んできていると考えられています。あとは、できるだけ活用してもらうこと・・・つまり、集約できているデータ(診療情報や薬剤情報等)をいかにして活用してもらうか、ということを次の課題とした見直しが行われているといえます。乱暴な言い方をすると、患者さんに「マイナ保険証を使ってもらう」ということへの評価から、医療者が「マイナ保険証を活用して過去の医療情報を取得して診療する(活用する)」という方向にシフトしているのです。
初・再診料等について医療情報を取得する加算として評価されていた「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が「医療情報取得加算」と名称変更され、算定要件として、初診料を算定する場合は、マイナ保険証を活用せず診療した場合に「初診料_医療情報取得加算1(3点加算/月1回に限り)」そしてマイナ保険証を使用し十分な医療情報を取得して初診診療を実施した場合又は他の医療機関からの診療情報提供を得て初診を実施した場合には「初診料_医療情報取得加算2(1点加算/月1回に限り)と変更されました。
再診料を算定する場合は、他の医療機関からの診療情報提供等による場合はマイナ保険証活用しなかった場合に「再診料_医療情報取得加算3(2点)」、マイナ保険証活用した情報を得て診療行った場合は「再診料_医療情報取得加算4(1点)」、再診の場合はいずれも3月に1回限りの算定となります。
なお、10月以降はマイナ保険証の利用率の要件が導入されることになります。
よく整理しておきましょう。
「医療DX推進体制整備加算 8点/月1回に限り」の新設
オンライン資格確認の導入による診療情報・薬剤情報の取得・活用の推進に加え、「医療DXの推進に関する工程表」の中では、利用実績に応じた評価や、電子処方箋のさらなる普及や電子カルテ情報共有サービス(令和7年運用開始予定)の整備を進めることが計画されています。
具体的には、オンライン資格確認により取得した診療情報・薬剤情報を実際に診療に活用可能な体制を整備し、また「電子処方箋」及び「電子カルテ情報共有サービス」を導入し、質の高い医療を提供するため医療DXに対応する体制を評価するため、新たな加算が作られました。
この施設基準を見てみると、9つ設定、さらに経過措置も設定されています。
経過措置 | ||
(1) | 電子情報処理組織の使用による請求を行っていること (いわゆるオンライン請求) | ― |
(2) | 電子資格確認を行う体制を有していること (いわゆるオンライン資格確認の体制整備) | ― |
(3) | 医師が電子資格確認を利用して取得した情報を診察室・手術室・処置室等 において、患者情報の閲覧又は活用できる体制を整備 | ― |
(4) | 電子処方箋を発行する体制を整備 | 有:R7.3.31迄 |
(5) | 電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を整備 | 有:R7.9.30迄 |
(6) | マイナ保険証利用実績を一定程度有している | R6.10.1~ (適応開始) |
(7) | 院内掲示(以下の2点) ア 医療DX推進の体制に関する事項、 イ 質の高い診療を実施するための十分な情報を取得し、及び活用して 診療を行うこと) | ― |
(8) | (7)の掲示事項について、原則としてWebサイトに掲載していること | 有:R7.5.31迄 |
(9) | 包括範囲外/B001-2 小児科外来診療料 B001-2-7 外来リハビリテーション診療料 B001-2-8 外来放射線照射診療料 B001-2-11 小児かかりつけ診療料 B001-2-12 外来腫瘍化学療法診療料 | ― |
「在宅医療DX情報活用加算 10点/月1回に限り」の新設
居宅同意取得型のオンライン資格確認等システム、電子処方箋及び電子カルテ情報共有サービスの導入により、在宅医療における診療計画の作成において取得された患者の診療情報や薬剤情報を活用することで質の高い医療を提供した場合について新たな評価が新設されました。
具体的な対象患者は、在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の1、(Ⅰ)の2、(Ⅱ)及び在宅がん医療総合診療料を算定する患者となります。
施設基準は以下の通りで、経過措置が設定されています。
経過措置 | ||
(1) | 電子情報処理組織の使用による請求を行っていること (いわゆるオンライン請求) | ― |
(2) | 電子資格確認を行う体制を有していること (いわゆるオンライン資格確認の体制整備) | ― |
(3) | 電磁的記録をもって作成された処方箋を発行する体制を有していること | 有:R7.3.31迄 |
(4) | 電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していること | 有:R7.9.30迄 |
(5) | 院内掲示 ア 医療DX推進の体制に関する事項 イ 質の高い診療を実施するための十分な情報を取得し及び活用して 診療を行うこと | ― |
(6) | (5)の掲示事項について、原則としてWebサイトに掲載していること | 有:R7.5.31迄 |
「訪問看護医療DX情報活用加算 5点/月1回に限り」の新設
在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料及び精神科訪問看護・指導料について、居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムが導入されることを踏まえ、初回訪問時等に利用者の診療情報・薬剤情報を取得・活用して、指定訪問看護の実施に関する計画的な管理を行い、質の高い医療を提供した場合について、新たな評価が新設されました。
対象患者は、在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料、及び精神科訪問看護・指導料を算定する患者です。
施設基準は以下の4点で、経過措置が設定されています。
経過措置 | ||
(1) | 電子情報処理組織の使用による請求を行っていること (いわゆるオンライン請求) | ― |
(2) | 電子資格確認を行う体制を有していること (いわゆるオンライン資格確認の体制整備) | ― |
(3) | 院内掲示 ア 医療DX推進の体制に関する事項 イ 質の高い訪問看護を実施するための十分な情報を取得し及び活用して 訪問看護を行うこと | ― |
(4) | (3)の掲示事項について、原則としてWebサイトに掲載していること | 有:R7.5.31 |
併算定ができないものに注意すること
新設された「医療DX推進体制整備加算」「在宅医療DX情報活用加算」「訪問看護DX情報活用加算」については、併算定できない項目もありますので整理しておきましょう。
その他、情報通信機器を用いた診療について
情報通信機器を用いた診療についてもいくつか見直しが行われています。
B005-11_遠隔連携診療料の見直し
これまでは「てんかん」の治療を目的としたもののみが認められていましたが、難病の患者に対する医療等に関する法律第5条第1項に規定される指定難病の患者についても、実施することができるようになりました。これは難病の治療を受けられている患者さんにとっては朗報で、地域の診療所に受診されている患者さんと医師が一緒に専門医の診療を受ける・・・つまり「 D to P with D 」の診療が有効であることが認められたものです。
また、へき地医療においては、「 D to P with N 」が有効であることを踏まえて、「看護師等遠隔診療補助加算」が新設されています。これは情報通信機器を介して再診を行うことに対し、評価されたものです。
C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料の見直し
情報通信機器を用いた診療における閉塞性無呼吸症候群に対する持続陽圧呼吸(CPAP)療法を実施する際の基準が新設されました。これも継続的な治療を行う上では有効だと認められたものと思われます。
B001「4」小児特定疾患カウンセリング料の見直し
発達障害等、児童思春期の精神疾患の支援を充実する観点から、「小児特定疾患カウンセリング料」についても要件及び評価を見直され、医師による小児の発達障害等に対する情報通信機器を用いたオンライン診療の有効性・安全性にかかるエビデンスが示されたことを踏まえて、発達障害を有する小児患者に対する情報通信機器を用いた医学管理について評価が見直されたものです。
I002_通院・在宅精神療法の見直し
情報通信機器を用いて通院・在宅精神療法を行った場合についても、評価の見直しが行われています。これも特徴的なものではないかと思います。
情報通信機器を用いて行う「初診料・再診料」について、情報通信機器による初診料・再診料については、「向精神薬を処方しないこと」を当該保険医療機関のWebサイトに掲載していることが、施設基準の中に追加されています。
書面要件の見直し
医療DXを推進する観点から、診療報酬上書面での検査結果その他の書面の作成又は書面を用いた情報提供等が必要とされる項目について、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の遵守を前提に、電磁的方法による作成又は情報提供等が可能であることが明確化されました。
これは安全な通信環境を確保するとともに、書面における署名又は記名・押印に代わり、本ガイドラインに定められた電子署名を施すことが求められています。令和7年に運用開始が予定されている「電子カルテ情報共有サービス」を用いて提供する場合には、電子署名はなくても共有可能とされていますが、運用開始がまだですので、詳細はわからないというのが現状です。
掲示物は、ホームページ等に掲載が必要に!
療養担当規則の改正により、書面掲示することとされている事項については、ホームページ等のWebサイトに掲載しなければならないこととされました。これは、病院・診療所の他、訪問看護ステーションや保険薬局においても同様です。介護事業所(訪問看護ステーション等)については、重要事項説明書も掲示要件・Webサイトへの情報開示が必要になりますので、ご留意いただければと思います。
終わりに
今回の改定で、診療所に関係する医療DXに絡む事項をピックアップしてみました。
実は病院をはじめとする医療機関については、入院基本料加算等において、さらに医療DXに絡む取り組みが求められています。働き方改革においても、システムを活用して情報共有を行うことや、他医療機関との連携についても、システム活用が進んでいくことでしょう。
令和7年に運用開始される予定の「電子カルテ情報共有サービス」については、生活習慣病管理料の計画書交付のところでも、出てきています。
我々も含め、しっかり状況を把握しついていくことが大事ですね。
<参考資料> 令和6年3月5日確認
■厚生労働省:答申「個別改定項目について」(令和6年2月14日発出)⇒(こちら)
■厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について ⇒(こちら)
2024年3月12日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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