接遇レッスン「あなたの一言が患者さんの勇気になる!~医療系事務職員の素敵な話~」

長 幸美

医業経営支援

5月8日から新型コロナウイルス感染症が5類に引き下げられ、早いもので1カ月がたちました。
少しずつ、行動の制限が解かれ、お友達との会食やイベント等の開催も増えてきましたね。

新型コロナウイルス感染症の拡大を経験し、医療機関によっては、非接触・・・つまり、予約はWeb予約、受付は診察券のバーコードの読み込み、そして保険証の確認は顔認証のカードリーダーで・・・、そして支払いも自動精算機で・・・など、受付を通さずに診療が完了することも出てきています。

  じゃあ~、受付はいらないのでは?

そんなことはありません。今日はそんな医療系事務職員のお話です。

医療系の事務職員のお仕事は?

単なる受付やレセプト作成の専門家としての「医療系事務職員」特に医療事務は、実はICTの発達により、いらなくなる職業とも言われています。事実、受付のチェックイン機能から、会計まで、無人で実施しようと思えば、無人でやれるくらいのデジタル技術は進歩しています。

日々の診療費の計算やレセプト請求を遠隔で実施できる仕組みもできていて、実際に運用されている医療機関もあります。電子カルテをクラウドで繋ぎ、沖縄の事務所で、各地にあるグループ全体の医療費のレセプト請求を行っている医療機関もありますし、派遣会社では、職員が本社の中に居て計算やレセプト点検業務を行うような商品を売り出している会社もあります。
インターネットの発達とともに、医療事務の世界でもテレワークが可能になってきているのです。

しかし、本当にそんなことでいいのかな~と、昭和生まれの人間としては考えるわけです。
便利な時代だからこそ、ヒトが寄り添うことが必要になるのではないか・・・。
医療系事務職員だからこそできる役割があるのではないか・・・?

機械で代行できないことは・・・?

このところチャットGPTというAI技術を使って、世界中の情報を集約し回答を出してくれるような仕組みが出てきました。AI君が日々学習していて、その学習した中から、適切と思われる答えを出してくれる・・・というものです。まだまだ完全ではないですし、聞き方によっては、おかしな回答もありますが、聞き手が上手に質問すると、かなり精度の高い回答をもらえます。

こんなこと聞いたら恥ずかしいかな・・・なんて考えは、機械相手なのでありませんので、比較的気安く聞くことが出来るところもメリットだと思います。困っていることに対し、寄り添い的確にアドバイスしてくれることもあります。しかし、情報が古い場合もあり、うのみにはできないなと思います。

同じことを聞く場合も、聞き方の具体性により答えは変わってきます。
コンサルタントとしては、標準分析も評価もしてくれるわけですから、便利な反面、ウカウカしていられないなとも思うわけで・・・このお話は長くなりそうなので、また別の機会にしたいと思います。

話を戻しましょう。単純な作業については、機械で代行することはできても、その方の言葉の真意を測ることや相手に寄り添うことは、AI君には難しいのではないかと思っているわけです。患者さんやそのご家族の状況は様々で、配慮しないといけないことも求められていることも様々です。そんな不安を聴き取り寄り添っていくことは、機械ではできないのではないでしょうか?

医療系事務職員にとって大事なポイントは?

今は様々にロボットや機械が対応してくれるように開発が進んできていますが、私たち「ヒト」が対応することについて、どんなメリットがあるのでしょうか?どんなことに留意したらいいのでしょうか?

患者さんへの思いやりと共感

患者さんにしっかりと向き合い、患者さんの話に心を寄せて話をきく・・・こうすることで、患者さんは自分自身が受け入れられ、サポートしてもらっていると感じます。このためには、「聴く力」「寄り添う力」というものがとても大事です。患者さんの感情に寄り添い、共感の想いを伝えることで、安心感を感じることも出来るでしょう。治るのかわからない、将来仕事が続けられるかわからない・・・というような不安な思いを、「病を治したい」「今はつらいけれど明日がある!」と思い、つらい治療にも立ち向かえる勇気にも代えることが出来ると思います。

正確な情報の提供とわかりやすい説明

患者さんに対し、適切な情報を提供し、平易な言葉で説明することがとても大事になります。患者さんやそのご家族は医学の専門家ではありません。医療用語や専門的な言葉はとても分かりにくいものですが、できるだけわかりやすい言葉で説明することで、患者さんやご家族は治療や処置に対する疑問や不安を和らげることが出来るようになり、治療にも前向きに取り組んでいけるようになると思います。
医療は医療者が提供するだけではなく、患者さんの協力も必要になります。必要に応じて、視覚的なツールや情報資料を活用し、患者さんにとってわかりやすい形で伝えることも必要です。

これは、医療職同士の場合でも、同じだと思います。職種が変われば、視点が変わってきます。
情報を伝える場合、つい自分の考えを入れたくなります。しかし、客観的な情報や現状起きている問題と「こうしたらいいのではないか」という自分の考えをごちゃまぜにしてしまうと、本来の課題がぼやけてしまう可能性もあります。正確な情報を意識し、わかりやすい言葉で伝えることで、コミュニケーションエラーの防止にもなると思います。

プライバシーの尊重と機密保持

患者さんとの会話やカルテをはじめとする書類の取扱いに関して、適切なセキュリティ対策を実施する必要があります。オンライン資格確認の義務化により、医療機関を取り巻くネット環境も広がり、適切な取扱いを行わなければ、患者さんのプライバシー等の個人情報が外部に漏れてしまう等の事故が起きてしまいます。個人情報の管理は厳密に行い、機密保持に努めなければなりません。
サイバー犯罪は日々進化しています。そして、プライベートでもSNSの使用など、気やすく情報を発信できる機会が増えています。私たちのITリテラシーを高めていくことが大事になります。

医療系事務職員もチーム医療の一員

上記の3つのポイントですが、どれもとても大切なのですが、その中でも私は患者さんへの配慮と共感がとても重要だと感じています。3番目の患者情報の保護やセキュリティ対策については、医療機関の職員であれば、基本的なことでありとても重要なことですが、接遇の観点からすると、やはり「患者さんへの配慮と共感」そして「正しい情報をわかりやすい言葉で伝える」ということではないかと思っています。

患者さんは体調が悪く、とても不安な思いを抱えてこられます。ご家族にとっても、治るのだろうか、どのくらい費用がかかるんだろう? 生活費は?子供の学校は?・・・と、きっと心配なことがたくさんあると思います。このような状況下で事務職員が寄り添い、共感と思いやりの心を示すことで、患者さんは安心感を得ることができます。患者さんの真の心配事をお聞きできれば、詳しい人につないでいくこともできます。先生方や看護師さんには言えないことも、受付にいる職員には打ち明けてくれることもありますし、この些細な会話の中で、患者さんの胸の内をキャッチできると、患者さんとの信頼関係を築くための小さな芽になります。

あなたの顔を見ると安心する、また来るね!

私が初めに入った医療機関は、がんの患者さんや難病の患者さんも数多く通院されていました。完治するということは無かったり、再発や悪化の恐怖を抱えておられる方も数多くいらっしゃいます。
その患者さんたちの中には初診の時の担当者や入院手続きの相談等で顔見知りになった職員に会うのを楽しみに来院される患者さんもありました。職員にとっては、ただ単に話をきいただけであっても、不安を抱えている患者さんにとっては、話すことで心の負担が軽くなることもあります。困難な治療や長期的なケアに取り組む患者さんにとっては、このちょっとした会話が、心の支えとなり、治療への勇気を与えることにもなり得るのです。立派なチーム医療の一員です。素晴らしいことだと思いませんか?

事務系職員の可能性

医療系事務職員の大切な役割は、単純に業務遂行だけではありません。
ほんの少しの行動が、患者さんやご家族にとっては心の支えとなり、治療が続けられる・・・ということも経験してきました。

あるとき、抗がん剤治療を頑張っておられた患者さんの白血球の数値が悪くなり、治療を中断を余儀なくされた患者さんがいらっしゃいました。医療者にとっては、一時的な数値の変化かもしれませんが、抗がん剤治療にかけている患者さんにとっては、気持ちが落ち込み、もう駄目だ・・・とふさぎ込む方もあります。がん治療だけでなくても、障害を負ってしまって以前のように体が動かなくなってしまった方も、絶望される方もあります。私も事務職員になりたてのころは、何もできない自分に不甲斐ない思いを感じていましたが、そんな患者さんの様子を医療者につなぎ、患者さんが医療者に相談できる時間をとったり、病院の行事に誘って一緒に参加したりすることにより、患者さん自身が活路を見出す場面を何度か経験しました。
あなたの一言や行動が、まさしく「一歩を踏み出す勇気」にもつながっていくのです。

このように考えてくると、事務職員って素敵ですよね!

おわりに・・・

チーム医療は、「事務職にはできない」ということはありません。
今回、ひょんなところで、病院勤務時代の患者さんにお会いして
「最近の病院は機械で受付して、番号で呼ばれて、自動精算機で支払って・・・。なんか機械的でさ・・・ベルトコンベアに乗っているみたいなんだよね」
「昔、病院に通っていた頃は、受付の人と冗談を言って帰ることが楽しみになっていたんだよね」
「誰に相談したらいいかわからなかった時に、話をきいてくれて、いろいろな人につないでくれて、あの時は助かったなあ」
昔話の中から、こんな言葉が出てきて、改めて医療系の事務職員って素敵だな、と思ったので、皆さんとも共有させていただきました。

医師事務作業補助や診療情報管理、そして総務も経理も、間接的に医療にかかわり、病院の運営を支えています。一人だけで完結できる仕事はほとんどありません。医療専門職ではないから気付くこともありますし、皆さんの一言が患者さんにとって希望の光に見えることもきっとありますよ!
一緒に頑張っていきましょう!

2023年6月19日

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