
知っておきたい「医師法」あれこれ
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
私たちが働くクリニックには、医師・看護師・事務職員など、様々な職種が協力して患者さんを支えています。その中でも“医師”の役割は法律によって明確に定められており、それが「医師法」です。
何となくわかったつもりになっていたことだと思いますが、今回は、クリニックの事務職員として知っておきたい「医師法」の基本ポイントを、条文を交えてわかりやすくご紹介します。
目次
まず「医師法」とは?
医師法は、医師の資格、仕事の範囲、守るべきルールなどを定めた法律です。
具体的には、医師免許の取得、医師の業務内容、診療義務、罰則などが規定されています。
医師の定義
医師とは、医師国家試験に合格し、医師免許証を受け、医籍登録された者を指します。
医師はこの「免許」がなければ医業を営むことはできません。
医師の義務
医師には、診療義務(応招義務)、診断書等の交付義務、処方箋の交付義務、保健指導を行う義務、診療録の作成・保存義務など、様々な義務が課せられています。
医業の定義
医師法における「医業」とは、医師の医学的判断と技術をもって、人体に危害を及ぼす可能性のある行為(医行為)を反復継続する意思をもって行うこととされています。
医師でなければ医業はできない(医師法第17条)
診察、診断、処方、治療など、“医業”とされる行為は、医師だけが行うことができます。
たとえば、事務職員や看護師が患者さんから症状を聞いて「風邪でしょう」「胃炎ですね」などと断定したり、医師の判断なしに薬の処方を示したりするのは、違法行為になりかねません。事務職員として、自分の立場と役割をしっかり理解し、業務の境界線を守ることが大切です。
応召義務ってなに?(医師法第19条)
この、医師法第19条には「医師は、診療に従事している場合において、正当な事由がなければ、診療を拒んではならない。」と記載されています。これがいわゆる「応召義務」と呼ばれるものです。
つまり平たく言うと、「診療を求められたら、正当な理由がない限り断ってはいけませんよ」というルールです。
このように説明をすると、「え?土日や夜間も受けないといけないの?」と質問を受けたり、「正当な事由とは何か?」という議論になったりします。
この「応召義務」は、「~診療に従事している場合において~」とありますので、通常の診療所であれば、「標榜している診療時間内」と読み替えることもできるのではないでしょうか?
医療法で診療所を開始するときに、「診療時間」として届出をしているのだから、その時間帯はしっかりと診療してくださいね・・・ということだと思います。
診療を断れる「正当な事由」とは?
断ること前提で話をするのは心苦しいのですが、この「応召義務」には診療を断ることができる正当な事由も厚生労働省のQ&Aや判例等で示されています。一部表にまとめてみました。
例 | 具体的内容 |
①専門外の疾患である場合 | 皮膚科等で歯の痛みの診療は出来ない |
②急患対応中 | 医師が他の緊急処置中で対応困難 緊急往診対応中で対応困難 |
③医師の体調不良 | 診療に支障が出る状況 |
④診療費の未払い | 支払う意思がない、繰り返しの未払いがある場合(厚労省Q&Aによる) |
⑤カスタマーハラスメント | 暴言・威圧・診療妨害などがある場合(厚労省マニュアルによる) |
社会一般的に見ても、致し方ないよね・・・という理由があれば、断ることができますが、①②については、対応可能な医療機関を紹介したり、②については、どの程度時間がかかるのかということを説明し、お待ちいただくか、出直していただくか、判断してもらうことも必要だと思います。
また、④については「単に支払いがない場合は診療拒否できない」といわれています。
ただし、2019年12月25日の「医師の働き方改革の推進に関する検討会資料」の中で、応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について明確化し、上記④⑤については、
〇診療内容と関係のないクレームを繰り返す患者
〇悪意を持って医療費を支払わない患者(支払う気がない患者)
・・・については、診療を行わないことが正当化される―ということが議論されていました。
事務職員としては、これらの事情をしっかりと理解し、医師と相談しながら冷静に対応することが重要になります。この場合、診療拒否の理由も診療録に記録しておく方が良いでしょう。
無診察治療は禁止されています(医師法第20条)
医師法第20条では「医師は、自ら診察しないで治療をし、診断書その他の文書を交付してはならない。」と記載されています。これは「無診察治療の禁止」といわれています。
つまり、「診ていないのに薬だけ出す」ことや、「今日は注射のみ」「リハビリ希望」等で、医師の診療をせずに治療のみ実施すること、そして「電話だけで診断書を出す」といった行為は原則NGです。
ただし、慢性疾患で定期受診している患者さんや「リハビリテーション診療料」などの算定要件に合致している場合など、状況によっては例外もあります。
事務職員が患者さんから「薬だけほしい」と言われた場合には、安易に引き受けず、必ず医師に確認するようにしましょう。
カルテ(診療録)は記載・保存が義務(医師法第24条)
医師法第24条には「医師は、患者を診察したときは、遅滞なく、診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」こと、そして、施行規則第23条には「診療録は、5年間保存しなければならない。」ということも規定されています。これらは、療養担当規則にも記載があるものです。
カルテは、医師にとって法律で義務づけられた大切な記録です。
事務職員はカルテの印刷やスキャン、電子カルテの補助入力、保管などに関わることもあります。
個人情報としての取り扱いに細心の注意を払い、保管ルールを守ることが求められます。
おわりに
医師法は、医師だけでなく、医療に関わるすべての職員にとって関係のある法律です。
私たち事務職員が、法的な枠組みを知り、役割を正しく理解することで、患者さんにとって安心できる医療環境が生まれます。
トラブルの予防や適切な対応のためにも、日々の業務に少しだけ“法律の目線”を加えてみましょう。
<参考資料> 令和7年7月23日確認
■医師法
■厚生労働省/「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」
(令和元年12月25日)
■厚生労働省/保険診療のための指導・監査
⇒保険診療の理解のために(令和6年度)
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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