患者ファーストの落とし穴

長 幸美

医業経営支援

数年前の流行語大賞でノミネートされていた「〇〇ファースト」という言葉、最近またちらほら耳にしていますね。これは、「〇〇について、まず最優先に大事に考えましょう!」という意味合いです。
○○に「患者」と入れて、患者ファーストの視点が大事、とされている医療機関も多いと思います。しかし、この「患者ファースト」・・・考えようでは当然、と思われがちですが、患者さんの要求をすべて叶えるということではありません。

最近になって「勘違いの〇〇ファースト」による困った事例も見受けられるようになってきましたので、今回、一緒に考えてみたいと思います。

■窓口で一番多いのは、待ち時間のクレーム?
窓口で大きな声を出す患者さんの多くは、待ち時間のクレームです。
「俺は具合が悪いんだ、具合が悪い患者を一体何時間待たせるんだ!」と大きな声を出される患者さんに、窓口では、「順番ですから!」と応戦する・・・すると患者さんは「院長に一言言わないと収まらない!!」といきり立つ・・・。
以前はよく見かける光景でした。受付も患者さんも殺伐として、ピリピリとした空気が流れています。では、どこの医療機関もそうかというと、そうではないクリニックもあります。
別のクリニックでは、それなりに患者も多く、待ち時間も長いのですが、すさんだ空気はありません。この違い・・・いったい何が違うのでしょうか?

■患者ファーストの落とし穴
「患者ファースト」という言葉、「患者さんの要望をすべて叶えて差し上げます」ということではありません。診療上、優先すべき事項もあり、要望通りにいかないことも多いものです。待ち時間もあり、検査や治療の結果が思わしくない場合もあり・・・。
悩ましいことが多いものです。

あるクリニックで、「待ち時間が長い」とクレームを言う患者さんに、看護師が「△△クリニックならすぐ見てもらえますよ」と言って、もめたことがあります。
看護師は「待ち時間が長いというクレームだったから、待ちたくないなら、他のクリニックに行ったらいい」と安易な気持ちで言ったようですが、患者さんは「そんなことではない!」と怒りをぶつけてきたのです。

この状況を聞いた院長は大変ショックを受けていました。
「地域の患者を支えたい」「〇〇クリニックに相談してよかった!と思えるクリニックにしたい」という思いで診療をしているので看護師の対応にショックは大きかったと思います。

■患者さんのためと考えた看護師の言動は・・・クリニックの為であるかどうか?
患者さんの気持ちはどうでしょう。なぜ当院を選んだかといえばいろいろな理由があると思います。ある患者さんは身体の具合が悪く、助けてほしいと思ってきています。どこの先生でも良かった・・・という理由で来院される患者さんはそう多くはないと思います。
ほかにも「家が近い」「家族が病気になった時に助けてもらった」「先生が専門だから見てほしい」など・・・様々な理由があり、数ある医療機関から選んで来院されています。
そういう患者さんに対し、私たち医療機関に勤める職員はどう対応したらいいのでしょうか?
困難な対応を要求されたときに、どう患者さんに向き合うか?何を基準に行動に移すべきか?「この答えは患者さんのためにbestだろうか?」
「今の回答は医療機関の方針や使命を果たす行動になるだろうか?」
という視点で、我々に何ができるのか、ということを考えて、話し合い行動することが必要なのではないでしょうか?

■本当の患者ファーストを考える
これまで見てきたように、「患者ファースト」とは、患者さんの要望をすべて叶えることではありません。患者さんを中心として、一人ひとりに向き合い尊重する(大事にする)姿勢が大事なのではないでしょうか。
保険医療機関では健康保険法や介護保険法、そして療養担当規則に則り、保険診療を行っています。
その法律の中で縛られている部分もありますので、どうにもならないこともあろうかと思いますが、できる範囲で患者さんに寄り添い、話をお聞きする中で、地域サービスを利用したり、院内の掲示やパンフレット等を作成したりすることにより、患者さんにわかりやすい仕組みを作り上げていくことができると思います。
このとき患者さんに寄り添う人は、看護師さん、事務員さん、だれでも良いと思うのです。
患者さんの声を聴き、事務職が理解できない相談・専門的なことは医師に相談したらよいのです。
治療に関する相談だけではなく、医療費の負担等に関する相談もあると思います。これは事務さんの本領発揮できる部分ですよね。

冒頭お話した待ち時間対策の一つとして、番号札の仕組みを導入し、およその待ち時間表示することにより対応されている医療機関もあります。
この仕組みは一見無駄なのではないかと思われがちなのですが、携帯でQRコードを読み込むことにより、およその時間が把握できること、車の中や外にいてもこの仕組みを用いてちょっとした用事を済ませることができるなど、患者さんにとっても待ち時間対策にも役に立っています。
この方法は私自身「予約をとる」ことだけが対策ではないところなど、目からうろこが落ちたように思いました。

また、私がかかっている眼科は、予診により診療前に看護師と話をする仕組みがあり、話を聞いてもらっている安心感があります。ロビーに医療職がいるため、ちょっとしたことも聞くことができますし、その方が診察室や検査等にも付き添う場合があり、心強いものです。
「患者ファースト」と「患者クレーム」は紙一重の問題です。院内で取り組みができることまだまだたくさんあるかもしれませんね。

医業コンサル課 長幸美

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