
かかりつけ医機能報告制度ってやらなきゃいけないの?~義務?メリット?制度の背景と実務対応~
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
令和7年4月1日より、「かかりつけ医機能報告制度」が施行されました。
弊社にも時々「かかりつけ医の報告が必要なのか?」「メリットがわからない」といったお問合せをいただくことが増えてきました。
数年前から「かかりつけ医機能」について日本医師会から基準が出され、弊社のコラムの中でも取り上げてきました。本格的に「かかりつけ医機能報告制度」が始まり、何がどう変わるのか・・・
少し考えてみたいと思います。
目次
そもそも「かかりつけ医」とは・・・?
「かかりつけ医機能報告制度」が導入された理由としては、昨今の超高齢化と慢性疾患の増加や現役世代人口の減少を踏まえ、地域で「治す医療」から「支える医療」への転換を図ることが必要であることが挙げられています。その中核を担うのが「かかりつけ医」であることを念頭に、「かかりつけ医機能」を制度的に明確化・強化することが必要であるとされました。
※弊社の過去のコラムはこちらからも見ていただくことができます。
■令和6年度診療報酬改定~かかりつけ医機能の深化~(令和6年4月16日)
私見として言わせていただくと「かかりつけ医」とは、医師が一方的に「私がかかりつけ医です」と宣言するものではなく、患者さん一人一人が、「何かあった時にどの先生に相談したいか」ということを考えていくものではないかと思います。医療者・・・つまりクリニックの先生方は、その機能が提供できるか?ということを考えつつ、この「報告制度」を活用して地域の方々や行政にアピールしていくことが大事なのではないかと思います。
「かかりつけ医機能報告制度」ってどういうものですか?
ここで、「かかりつけ医機能報告制度」について少し整理してみたいと思います。
「かかりつけ医機能」 ~制度化された背景~
日本は超高齢化社会の深刻化に直面しています。特に、85歳以上の高齢者が増加し、少子化の影響で、生産年齢人口(働き手)は減少してきています。
社会全体を見ても、人手不足が問題になっていますが、医療業界の人材不足は深刻なものがあります。
皆さんも、「ベッドは空いているのに受入れが出来ない」や「夜間救急を縮小している」といったニュースをご覧になったことがあると思います。
こうした中で導入されたのが、「地域包括ケアシステム」の考え方です。この考えは地域が一体となり、慢性疾患や多職種連携による医療提供の体制づくりを行っていくシステムの構築です。その要となるのが、「かかりつけ医機能」であると位置づけられ、制度として地域の中で見える化・連携を促進するための制度の第一歩として「かかりつけ医機能報告制度」が作られたのです。
制度の法的根拠と施行スケジュール
「かかりつけ医機能報告制度」とは令和5年5月に成立した「全世代対応型持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等改正法」により、「医療法」の改正が行われその中で「かかりつけ医機能報告制度」が創設されました。そして、この法律の施行が、今年(令和7年)4月からとなったため、公的な報告義務が出てきたわけです。
実際の報告はいつするの?
令和7年1月末に厚生労働省から各自治体向けにこの「かかりつけ医機能報告制度」にかかる2回目の説明会が行われました。初回の報告の実施は、今年度(令和7年度)中~概ね令和8年1~3月になると考えられています。
かかりつけ医機能報告制度の3つの柱
制度の主な仕組みは三つあります。
①医療機関の報告義務
病院・診療所は、日常診療の継続性や時間外対応、在宅医療、介護連携など、かかりつけ医機能に関わる項目について、G‑MISを通じて都道府県知事に報告します。
G-MISとは、Gathering Medical Information Systemの略で、医療機関等情報支援システムです。厚生労働省が運営するシステムで、全国の医療機関から稼働状況、病床や医療スタッフの状況、受診者数、検査数、医療機器や医療資材の確保状況などを一元的に把握・支援するためのものです。
収集した情報は各都道府県の医療情報ネット等で公表され、医療の質向上や可視化に貢献することを期待されている仕組みです。
②自治体による確認と協議
報告内容をもとに都道府県知事は報告の精度と体制を確認し、地域医療関係者を交えた協議会で報告・公表される予定です。機能不足の地域には改善策を議論し、実行するものとされています。
この制度を実行していく中で、医療機関と自治体との連携を強めていく狙いもあるのではないかと思います。
③説明を求められる疾患の患者に対して、医療内容や連携体制などを電磁的方法や書面で説明するよう、報告を受けた医療機関等に努力義務化を求められます。
とくに慢性疾患の患者に対して、医療内容や連携体制などを電磁的方法や書面で説明するよう、報告を受けた医療機関等に努力義務が課されます。
これは「生活習慣病管理料」をイメージしていただけるとわかりやすいのではないか、と思います。
「生活習慣病」は患者自身が意識し、生活習慣を変えていくことが重症化しないポイントとなってきます。この為、「病気に対する理解」や「改善のための目標」「改善のための行動」についても計画を立て、実施することで数値(体重、検査結果等)がどう変わったのか経過を観察してく・・・つまり患者自身が参加型の治療管理が求められているように思います。
具体的には、指導内容(療養計画書)は、「文書」により交付すること(可視化)や、定期的な眼科・歯科への受診を勧めることについての内容を計画書に明記することが求められています。こういった患者の情報が今後活用が予定されている電子カルテ情報共有システム等を活用することで、連携先の医療機関との情報共有(診療情報提供)が評価されてきていますよね。
制度のねらい ~なぜ報告が必要なのか~
何よりも、地域医療の質の向上や患者の利便性向上を目的とされています。この報告は単に「都道府県知事に報告すれば終わり」というものではありません。原則としてこの報告はすべての病院・診療所が対象となり、原則G-MIS(医療機関等情報システム)によりオンラインで報告され、かかりつけ医機能に関する体制の有無を確認して、その情報は公表されます。つまり、報告内容は地域の関係者や住民にも情報提供され、患者さんの適切な医療機関への受診を促し、地域医療を強化することで地域に貢献することが期待されているのです。
患者の一人一人が「かかりつけ医」を持つことは、日本の医療制度の特徴の一つである「フリーアクセス」を阻害するのではないかという声もあるように聞いていますが、地域にある医療機関の情報を適切に発信することで患者さんやご家族が医療機関を選択する場合においても役立つのではないか、と期待されています。
近年、医療DXが様々に導入され、先生方にとっては「手間がかかること」が増えてきたと感じておられると思います。そして診療報酬でも「実績」報告が算定要件や施設基準で求められ、これまで報告や統計関係をあまり意識してこなかった先生方は大きな負担感をお持ちだと思います。
医療行政は目まぐるしく変化しています。先生方の医療提供の可視化・実績をアピールし、選んでもらう時代となってきました。
「面倒だなあ」と思われることと思いますが、それぞれの制度を理解し、地域の中で医療提供をする一員として、取り組んで行きましょう!
福岡県の取り組み ~地域に根差した支援とネットワーク~
さて、今回は、「かかりつけ医機能報告制度」って何?という質問から、その仕組みや目的などを見てきました。結論を言うと、医療法により病院・診療所に義務付けられている報告なので、やらざるを得ないということが見えてきました。「わたし”かかりつけ医”になります!」・・・と手を挙げなかったら報告しなくてもよいというわけではないわけですね。
最後に、参考までに、弊社の所在地である福岡県での「かかりつけ医」に関する取り組みや情報共有の仕組みがどのようなっているのか、を少しご紹介して終わりにしたいと思います。
それぞれの都道府県及び医師会において、様々な取り組みが進められています。皆さんのお住いの都道府県での取り組みもぜひ確認してみてください。
G-MIS・ふくおか医療情報ネット:定期的な情報更新・公表
福岡県内の病院・診療所、助産所は、厚労省のG‑MISを通じて定期的に報告しています。具体的には「ふくおか医療情報ネット」やG‑MISに保険医療機関番号を入力し、報告項目を更新する流れです。
ココでは、緊急時の医療提供体制や患者さんの住まいの近くの医療機関を検索ができるようになっています。
かかりつけ医研修制度:基本・応用・実地研修を通じた機能強化
福岡県医師会では、日本医師会の「かかりつけ医研修制度」を導入し、医師の機能維持・向上を目指す研修制度を運営されています。基本・応用・実地研修を通じた資格付与により、かかりつけ医の専門性を高める取り組みが行われているところです。
「とびうめネット」~退院・在宅・救急における診療情報連携ネットワーク
福岡県医師会が運営する「とびうめネット」では、地域の医療機関が登録し、診療情報のネットワークが作られています。患者の基本情報や退院時情報の共有、緊急搬送先との連携機能体制があります。これにより、かかりつけ医による継続的な診療と緊急時の対応がシームレスに行える体制を作ること・・・つまりスムーズな連携が行われることを目的とされています。
福岡県地域医療計画~地域医療構想との連動:在宅医療や病床機能の役割分担と支援体制の明確化
福岡県の医療介護総合確保計画および地域医療構想では、在宅医療や病床機能の分化・連携を重視。かかりつけ医機能はこの構想に強くリンクし、県内13区域の二次医療圏で機能が分業・統合されるよう推進されています。
これらの仕組みに参加することについては、入力の手間がかかったり、正直言って使い辛いと感じられることもあると思います。私も医療機関に勤務していた時に、病院だったら事務職員が入力作業を支援することもできるけれど、一つ一つ手入力で、項目も多いし、クリニックの先生方はどうしておられるのだろう・・・と思うことがありました。課題もあると思いますが、電子カルテ情報共有システムや書類のPDFなどにより少しでも使いやすい仕組みになるといいなと思います。
制度は“義務”ではありますが、地域に選ばれる医療機関になるための“チャンス”でもあります。
これを機会に一緒に頑張っていきましょう!
<参考資料> 令和7年6月13日確認
■日本医師会/国民の信頼に応えるかかりつけ医として (令和4年4月22日)
⇒日本医師会の想いと、「かかりつけ医」に求められている役割についてまとめられています。
■厚生労働省/かかりつけ医ってなに?
⇒広く市民の皆さんに「上手な医療のかかり方」を紹介したものです。
■厚生労働省/かかりつけ医機能報告制度に係る自治体向け説明会(第2回)(令和7年1月31日)
⇒厚生労働省/かかりつけ医機能報告制度 について特設ページです。
■厚生労働省/医療機能情報提供制度について(医療機関向けページ)
⇒G-MISを使用した医療機能情報提供制度の報告に関する情報のお知らせページです。
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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