
知っておきたい「健康保険法」あれこれ
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
~医療事務としておさえておきたい基本中の基本~
クリニックの窓口で働いていると、保険の資格があるのに「保険証が使えないのはなぜ?」「割合が色々あるがどこで何割負担って判断するの?」といった疑問に直面することはありませんか?
こうした疑問の答えは、実は“健康保険法”という法律の仕組みが関係しています。
今回は、医療事務初心者の方に向けて、健康保険法の基本と、日々の業務とのつながりをわかりやすくご紹介します。
目次
「健康保険法」ってどんな法律?
健康保険法は、会社員やその家族が病気やけがをした際に、必要な医療を保障するための公的医療保険制度の基本法です(第1条)。
この制度により、私たちは医療機関での受診時に「保険証」を提示することで、自己負担の一部を支払い、必要な医療を受けることができます。保険証の資格は保険料を納付していることで得られる資格です。端的に言うと保険証の提示が無ければ無資格者となり医療費の全額は自己負担となります。
健康保険の「加入者」とは?
健康保険法では、以下のような立場の人が保険の対象になります。
区分 | 説明(健康保険法上の定義) | 条文 |
被保険者 | 企業などに勤務する者 (労働者) | 第3条第1項 |
被扶養者 | 被保険者により扶養されている家族 | 第3条第4項 |
簡単に言うと・・・
医療事務の現場でいう「保険証の持ち主」が「被保険者」、その配偶者や子どもなど扶養に入っている人が「被扶養者」です。
健康保険で受けられる“給付”とは?
健康保険法では、病院での診療以外にも、さまざまな「保険給付」が定められています(第50条以降)。
ここでは医療事務と特に関係のある「療養の給付」について見てみましょう。
給付の名称 | 内容 | 該当条文 |
療養の給付 | 診察・処方・手術・入院など、医療サービスの提供 | 第52条 |
療養費 | やむを得ず保険診療が受けられなかった場合の費用のこと | 第63条 |
高額療養費 | 医療費が高額になったときの負担軽減措置 | 第115条の2 |
出産育児一時金 | 出産に伴う費用の補助 | 第98条 |
傷病手当金 | 病気・けがで働けないときの所得補償 | 第99条 |
療養の給付は、原則として「現物給付」です。
「現物給付」とは、医療を「現物」と考え、先に医療の提供を受けて、あとから、費用を支払うという仕組みです。そして、この際に、患者さんは医療費の一部を自己負担する仕組みになっています(第52条第2項)。
療養費って何?
健康保険では、マイナ保険証によって診療を受ける『現物給付』が原則となりますが、やむを得ない事情で、保険医療機関で保険診療を受けることができず、全額自費で受診したときなどの費用について、療養費が支給されます。療養費の支給とは被保険者や被扶養者が何らかの事情で、いったん医療費を全額を支払っていても保険の資格があれば療養の給付を受けることで負担額以外は給付されるシステムです。
<療養費の例>時の例
①保険診療を受けるのが困難な時の例として
<例えば>
・事業主が資格取得届の手続き中のため、保険診療が受けられなかったとき
・感染症予防法により、隔離収容された場合で薬価を徴収されたとき
・療養のため、医師の指示により義手・義足・義眼・コルセットを装着したとき
・生血液の輸血を受けたとき
・柔道整復師等から施術を受けたとき
②やむを得ない事情のため保険診療が受けられない医療機関で診察や手当を受けたとき
<例えば>
旅行中、すぐに手当を受けなければならない急病やけがとなったが、近くに保険医療機関がなかっ
た為、やむを得ず保険医療機関となっていない病院で自費診察をしたときなどがこれにあたりま
す。この場合、やむを得ない理由が認められなければ、療養費は支給されません。
現金給付という仕組みもある
健康保険法の中では、この「現物給付」とともに、「現金給付」という仕組みもあります。
「現金給付」とは、現物給付をするのが難しく立替払いをした場合や、出産や死亡のときなどに支給される手当金など、現金で支給される給付のことです。
※弊社のコラムでも記載したことがあります。ご覧ください。
⇒医療事務基礎講座「現物給付と現金給付」(2020.12.22掲載)は(こちら)
自己負担割合はどのように決まる?
健康保険では、受診者の年齢や所得により、自己負担割合が以下のように定められています。
これは法令ではなく政令・省令で具体的に定められますが、実務的には極めて重要な確認事項です。
対象者 | 自己負担割合の原則 |
小学校就学前 | 2割負担 |
一般の被保険者・被扶養者 | 3割負担 |
70~74歳(高齢受給者) | 2割または3割 |
75歳以上(後期高齢者) | 1割または3割 |
※詳細は「高齢者の医療の確保に関する法律」や関係省令に基づきます。
医療事務で押さえておきたい3つのポイント
保険医療機関の事務業務については、診療のための準備(カルテを作る、受付をする、保険資格を確認する等)は大事な仕事の一つになりますが、保険診療に関わることでは、以下の三点を抑えておきましょう!
① オンライン資格確認の原則化と経過措置
2023年12月より、「オンライン資格確認の原則義務化」が始まりました。これにより、医療機関・薬局にはマイナ保険証や健康保険証を用いたオンラインによる資格確認の運用が求められています。
新たな保険証の発行はしないということが決まっている為、今年の11月までに順次保険証が患者さんの手元に届かなくなってくる予定ですが、マイナンバーカードを作成していない場合は、「資格確認書」が送付される予定となっています。有効期限が記載されていない保険証・・・例えば協会けんぽなどになりますが、これらも、「マイナ保険証」によるオンライン資格確認若しくは、「資格確認書」による保険資格の確認が必要になります。
※厚生労働省/資格確認書について(マイナ保険証を使わない場合の受診方法)⇒(こちら)
さらに、オンライン資格確認の機器のトラブル発生時の患者対応や制度理解も含めたアップデートが必要です。昨今は資格確認機器のトラブルで保険資格の確認ができず全額自費負担を求めるべきかどうかが問題となったりしていますが、機器のトラブルを想定して対応策を考えておく必要があるでしょう。
※ 参考:厚生労働省 オンライン資格確認ポータル ⇒(こちら)
② 記号・番号や保険者番号の基本をおさえよう
医療事務として、保険証の「記号・番号」「保険者番号」などの基本情報の読み取り方は、引き続き重要なスキルです。特に、資格確認がうまく通らないときの「手動入力」や「紙保険証対応」の場面では、正確な確認が求められます。
③ 高額療養費や限度額認定証の案内も丁寧に
医療費が高額になりそうな患者には、「限度額適用認定証」やマイナ保険証による自動適用について、優しくわかりやすく患者さんの理解が得られるように案内しましょう。
特に高齢の患者さんやマイナンバーカードに不安を感じる方には、情報提供と安心感をセットで伝える姿勢が大切です。
■ コラムまとめ ~医療事務の視点から~
今後、健康保険証の形や資格の確認方法は「マイナ保険証中心」に変わっていく流れが明確になってきました。しかし、過渡期である今、私たち医療事務に求められるのは、「どちらの方法にも対応できる柔軟さ」と「患者さんへの丁寧な説明力」です。
私たち医療事務は、「保険資格を確認すること」「負担割合を確認すること」「適切にレセプトを作成すること」などを通じて、制度の一端を支えています。制度の背景を理解し、日々の窓口対応に生かしていくことで、医療事務の信頼と安心感もより一層高まるはずです。健康保険法は、日常業務に直結する非常に重要な法律です。
法律は一見難しそうに見えますが、「患者さんに正しく医療を提供するためのルール」だと考えると、その重要性が見えてくるのではないでしょうか。
<参考法令及び参考資料> ※令和7年8月1日確認
■e-Gov法令検索|健康保険法(昭和二十九年法律第百九号)⇒(こちら)
■厚生労働省 オンライン資格確認ポータル ⇒(こちら)
■厚生労働省/資格確認書について(マイナ保険証を使わない場合の受診方法)⇒(こちら)
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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