働く職場環境~それって逆パワハラ?何も言えない上司たち~

長 幸美

医療介護あれこれ

ハラスメントの問題は、あらゆる方々が様々に語られていて、私はその方面の専門家ではありませんが、最近診療所の先生方からのご相談をお聞きしていると、新入職員の教育に悩んだ挙句、結局当たらず触らずの対応をしているがこれっておかしくないかな?という意見や・・・実際に指導をするにも腫れ物に触るようにされている先生もお見かけします。

逆パワハラとは、部下から上司へのハラスメントのことを指しています。
逆パワハラを防ぐためには、単に権限構造に頼るのではなく、職場全体での信頼関係とコミュニケーション文化の整備が鍵となります。

診療所などの小規模な医療機関では、スタッフの距離が近く、良好な関係を築きやすい一方で、「遠慮」や「忖度(そんたく)」が働きやすく、逆パワハラが表面化しにくいこともあります。

逆パワハラの事例:診療所・小規模医療機関の場合

ここでいくつか事例を紹介しましょう。皆さんも、心当たりがある内容はありませんか?

「何を言っても受け入れないスタッフ」

50代のベテラン受付職員が、院長や事務長の業務改善の提案に対して「そんなの現場を知らない人の考え」「昔からこうやってる」と否定的な態度をとり続けていました。
口調は穏やかでも、発言権が強く、他のスタッフも同調してしまい、上司が孤立してしまい、指導ができないまま職場全体の士気が低下してしまうケースです。

→ 対策:ベテラン職員と1対1での対話を設けていくのはなかなか難儀なことだと思います。
   しかしながら、何らかの対策をとらざるをえません。
   発言の意図を確認しつつ、必要に応じて第三者(外部のファシリテーターなど)を交えて面談を
   行い、組織としてのルールを明確にしていくことをお勧めします。

「無視・無反応で精神的プレッシャー」

若手スタッフグループが、上司の注意や指導に対してあからさまに無視・・・。
返事をしない、目を合わせないといった態度を取るケースです。
上司が話しかけても「聞こえなかった」「忙しいからまたにして」と繰り返され、精神的に追い込まれ、注意や指示ができなくなるような事例が報告されています。
最近は、先輩職員が「どう対応したらいいかわからない」という相談も増えてきました。

→ 対策:ハラスメント相談窓口や職場内アンケートを活用し、行動の問題点を「態度の質」として
   指摘します。組織内のコミュニケーションのルールを再確認し、管理職へのメンタルサポート
   体制を強化しました。

例えば、今回の「目を合せない」ということは、相手を認めない・・・ということを意味します。
挨拶でも、眼を合せて・・・そこから相手とのコミュニケーションが始まります。

「SNSや陰口による間接的な攻撃」

院長の方針に反発したスタッフが、院内での態度は普通だが、外部のSNSやLINEグループ内で悪口や嘲笑的な発言を投稿していました。それが他の職員経由で拡散し、院長の信頼が揺らぎます。職場の雰囲気も悪化し、他の職員の離職につながるケースもあります。

→ 対策:個人攻撃につながる投稿を禁止する職場ルールを整備しました。また、早期にスタッフ全体で職場の理念や方向性を共有し、匿名で意見を集められる仕組みを取り入れ、少しずつ改善しています。

このケースでは、まず、SNSの利用ルールを明確にし、個人への中傷や批判を行わないことを共有し、スタッフとの意見交換の場を持ちました。また、社労士との面談の時間を持ち、SNSへの投稿について、事実確認を行い、何が問題なのかということを明確にしました。

逆パワハラ防止のためのポイント

上司も人間です。適切な指導や注意ができるよう、安心して行動できる職場環境づくりが逆パワハラ防止の第一歩です。入職してすぐに指導者からの対応や指導により退職者が続くことによりいつの間にか、採用も指導も、新入職員の顔色を窺いつつ、どう対応したらいいかわからないという相談が増えてきたように思います。そのような時にどんな対応をすべきか、皆さんと一緒に考えていきましょう!

上下関係に関わらず「ハラスメントはNG」という共通認識を持つこと!

「上司が強く出られない」「部下に気を遣いすぎて言いたいことが言えない」などの空気は、逆パワハラの温床になりかねません。上司・部下に関わらず、互いに敬意を持つこと、過度な言動はどちらからも許されない、という社内ルールを周知・徹底することがとても大事になります。

コミュニケーションの質と頻度を見直すこと!

普段から話しやすい関係性を築いておくことで、誤解やストレスの蓄積を防げます。
部下の言動に「おや?」と思った時に、早めに確認・対話ができるような関係を築いておくことが重要です。

管理職へのサポート体制を整えること!

上司が孤立していると、逆パワハラを受けた際に相談できず、事態を悪化させることも。
上司も支援を受けられるように、外部の相談窓口や、人事・産業医などへのアクセスを明確にしておきましょう。

「上司=我慢すべき」から脱却すること!

「上司だから耐えるべき」という風潮は逆効果です。
上司であっても、正当に保護され、支援されるべき存在であると社内に周知しましょう。
役職者ともしっかりと話ができ、相談できる環境を作ることがとても大事になります。

ケーススタディや研修を通じた意識づけをすること!

逆パワハラの事例を含んだ研修やワークショップを行い、「こういう行動もハラスメントにあたる」というラインを明確にします。特に曖昧になりがちな「無視」「陰口」「抵抗的態度」などにも焦点を当てましょう。

まとめ

今回のこれらの事例では、「注意しにくい空気」や「指導が届かない構造」が逆パワハラの温床になっています。診療所のように人員が限られた環境では、「何も言わないことが最善」となりがちですが、それは組織の持続可能性を損ねる原因にもなります。

先生方の想いを伝えましょう・・・クリニックの運営は誰のためにあるのか、ということを明解にして、それぞれのスタッフの個人的な想いだけではなく、Teamで患者さんの診療を行っていることを認識し、全員で何ができるかを考えていく!・・・このことを言い続けていくことが大事です。
場合によっては、先輩職員に対して注意を促すことも必要になると思いますが、入職したスタッフに対しても、どういう職員になってほしいか、どういう仕事をしてほしいのか、繰り返し伝えていくことも必要になります。

スタッフの皆さんに伝えたいことは、仕事は自分自身のためだけではなく、それぞれにクリニックの中での役割があると考えていくと、少し違ってくるものです。その「役割」の醸成をしていくための「先生の想いの共有」がとても大切になってくると思うのです。皆様の医療機関でもスタッフの皆さんと話をしてみてくださいませ!

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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