専門医でも「かかりつけ医」になれる?!

長 幸美

医療介護あれこれ

~整形外科・外科・耳鼻科・眼科・皮膚科の地域連携の現場から~

「かかりつけ医」という言葉を聞くと、内科や小児科を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。たしかに、これまでは風邪や生活習慣病など、広く全身にかかわる疾患への対応が期待されていました。

しかし近年の診療報酬改定では、内科に限らず、整形外科・外科・耳鼻科・眼科・皮膚科といった専門診療科にも、地域の“かかりつけ医機能”を担ってほしいというメッセージが明確に示されています。

では、専門診療科がどのように地域とつながり、かかりつけ医の役割を果たすことができるのでしょうか。日常の診療や在宅支援を通じた実践をもとに、そのかたちを考えてみましょう。

「かかりつけ医」とはどのような存在か


日本医師会では、かかりつけ医の役割について次のように定めています。

健康相談、予防接種、健診・がん検診、母子・学校・産業保健など、地域に根ざした医療活動を行う

災害時の医療支援や避難所での診療を通じ、被災者の健康を支える

24時間365日の対応を目指し、当番医や急患センターの運営に協力する

(出典:「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」)

つまり、単に「診る」だけではなく、地域と連携しながら、予防・支援・継続的ケアを提供することが求められているのです。

在宅医療から見た専門診療科の役割

生活に必要な機能として「食べる」「動く」「排泄する」があります。これらを支える視点から、専門診療科が果たせる役割を在宅医療の視点で見てみましょう。

■ 整形外科:動作の基盤を支える

地域の整形外科クリニックでは、「立つ」「座る」「歩く」といった基本的な動作に関わる相談が多く寄せられます。
高齢者の転倒予防や骨粗鬆症の管理を行い、地域包括支援センターと連携して運動教室を開催する取り組みもあります。デイサービスや訪問リハビリとの連携も、在宅支援には欠かせません。

■ 外科:創傷管理と排泄支援

外科では、慢性創傷や褥瘡の処置、排便コントロールなど、生活に直結する医療的支援を担うことができます。
在宅患者や介護施設と連携し、訪問看護師との協働で生活の質の維持に寄与するケースが増えています。健康診断やがん検診の実施も、“予防の入口”として地域に根付いています。

■ 耳鼻科:聴こえと飲み込みの支援

耳鼻科では、子どもの中耳炎・花粉症だけでなく、高齢者の難聴や嚥下障害といった「話す・食べる・聴く」機能の支援が重要です。
学校医や保育園医の活動も通じて、地域の子どもたちとつながることで、家族との相談窓口としても活躍しています。

■ 眼科:生活の変化を“視る”

眼科では、白内障や緑内障の管理に加え、糖尿病網膜症などを通じて内科とも連携。視力の低下は認知症の初期徴候や転倒リスクと関わっていることもあり、視覚変化を通じた“生活の変化への気づき”を担う大切な窓口となっています。

■ 皮膚科:スキンケアと在宅支援

皮膚科では、アトピーや湿疹、乾燥症などへの対応に加え、在宅や介護施設での褥瘡予防や皮膚トラブル相談に関わる機会が増えています。
訪問看護師との連携により、患者の皮膚状態を支える“外用薬の専門家”としても信頼されています。

専門診療科だからこそ、できること


専門診療科がかかりつけ医機能を果たすためには、他職種・他医療機関との連携が欠かせません。生活背景や基礎疾患によって個々のニーズは異なり、それに対応する柔軟な支援体制が必要です。

患者からの健康相談に応じ、服薬管理や他科紹介、緊急時対応の体制を整えることは、どの診療科でも実現可能です。
「専門だからこそ、日常を支えるかかりつけに」—— それは、患者や家族にとって非常に心強い存在となるはずです。

まとめ:地域とともに診療科の枠を超えて

地域包括ケアが進む中、診療科にかかわらず「地域に寄り添う診療」の在り方が問われています。
それぞれの診療科が持つ専門性を生かしながらも、日常の相談に応じる柔軟な姿勢が、かかりつけ医としての信頼を育む第一歩になるのではないでしょうか。

制度や報酬の整備とあわせて、私たち一人ひとりが地域とどうつながるか、その視点がこれからますます大切になっていきます。

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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