はじめての在宅酸素療法(HOT)~令和6年度診療報酬改定のポイントを踏まえて~

長 幸美

医療介護あれこれ

本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。

在宅で酸素を吸入しながら生活している患者さんを見かけたことはありませんか?
これは「在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)」という医療行為です。
クリニックでも、訪問診療や慢性呼吸器疾患の外来などで関わることがあるため、医療事務として基本的な仕組みと算定ルールを知っておくことが大切です。

在宅酸素療法指導管理料(C103)とは?

呼吸器系の病気などで慢性的に血液中の酸素が不足している患者さんが、自宅で酸素を吸入する治療法です。呼吸困難などの症状を改善し、生活の質(QOL)を向上させることが目的となります。
酸素濃縮器や携帯用ボンベを使って、鼻カニューレ等を通して酸素を吸入します。

対象となる主な疾患

まずは対象となる病名を確認していきましょう。

  ・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  ・間質性肺炎や肺線維症
  ・肺結核後遺症
  ・心不全などで酸素が不足する状態
  ・筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経疾患

在宅酸素療法の算定ルール(令和6年度改定)

在宅酸素療法では、チアノーゼ型先天性心疾患等の患者に対し実施する場合と、常時酸素吸入が必要な場合(その他の場合)との二通りがあります。
チアノーゼ型先天性心疾患に対する在宅酸素療法とは,ファロー四徴症,大血管転位症,三尖弁閉鎖症,総動脈幹症,単心室症などのチアノーゼ型先天性心疾患患者のうち,発作的に低酸素又は無酸素状態になる患者について,発作時に在宅で行われる救命的な酸素吸入療法をさしています。

この場合において診療報酬は、①チアノーゼ型先天性心疾患など(520点/月)と、②その他(COPD・肺疾患・心不全等) (2,400点/月)の評価があります。

加算とともに、一覧表で整理してみましょう!

遠隔モニタリング加算(注2)(要届出/施設基準あり)

①チアノーゼ型先天性心疾患の場合②その他の場合
C103 在宅酸素療法指導管理料     520点     2400点
 注2 遠隔モニタリング加算 ×     +150点
当該指導を行った月、2月限度
C157 酸素ボンベ加算
      (*3月に3回)
 ×①携帯用酸素ボンベ 880点
②①以外の酸素ボンベ 3950点
C158 酸素濃縮装置加算
      (*3月に3回)
 ×     4000点
※C157の②と併算定できない
C159 液化酸素装置加算
      (*3月に3回)
 ×①設置型  3970点
②携帯型   880点
C159-2 呼吸同調式
    デマンドバルブ加算
      (*3月に3回)
 ×     291点
C171 在宅酸素療法材料加算
      (*3月に3回)
①チアノーゼ型先天性心疾患の場合(780点)②その他の場合(100点)

この注2遠隔モニタリング加算は、オンライン診療による診療により指導管理を行う場合に、算定が認められている加算です。算定する場合は、施設基準の要件を満たし届出する必要があります。

遠隔モニタリング加算の施設基準
オンライン指針に沿って診療を行う体制を有していること
   ⇒つまり、「情報通信機器による診療」の届出が必要です。
②呼吸器内科について3年以上の経験を有する常勤医師を配置している
③呼吸器内科について3年以上の経験を有する看護師を配置している

<算定例>

診療月診療形態算定方法
1月対面診療再診料+C103の2+材料加算
2月オンライン診療(療養上の指導)再診料(オンライン)
3月オンライン診療(療養上の指導)再診料(オンライン)
4月対面診療再診料+C103の2
   +注2加算(2月分)
   +材料加算(3月分)


COPDⅢ期以上であって、在宅酸素療法実施中の外来患者について算定が可能です。ICT・・・つまり「情報通信機器」を活用して酸素飽和度(SpO₂)や使用時間などを確認し、必要な指導を行うことが求められています。

在宅療養指導管理材料加算について

酸素吸入を行うためには、「酸素ボンベ」や「酸素濃縮装置」「液化酸素装置」、「呼吸同調式デマンドバルブ」などの医療材料とともに、在宅酸素療法に使用する部品等の材料についても加算が設定されています。使用状況を確認して、算定漏れがないようにしましょう!

これらの加算については、3月に3回の算定が可能です。(上記算定例をご参照ください)
つまり、安定している患者さんで、月1回の診療が必要ない方もあると思いますが、これまで診療を受けない場合は、酸素ボンベのレンタル料など、診療報酬の算定ができない・・・という問題がありましたが、現在は、診療時点で、3月までは合わせて算定できることになっていますので、患者さんが毎月来院されていない場合でも算定を漏らさないようにしましょう!

酸素の使用に関する加算(C157、C158、C159)

「在宅酸素療法」というくらいですので、酸素の供給は欠かせませんが、その方法により加算が変わります。「酸素ボンベ」を使用するか、「濃縮装置」を使用するか、「設置型液化酸素装置」を使用するためいずれかの材料費を算定します。どのタイプの装置(機器)を使用するのかは、依頼している医療機器への指示書に記載がありますので、必ず確認しましょう!
いずれも「チアノーゼ型先天性心疾患の患者を除く」とありますので、注意しましょう!

①酸素ボンベ加算(C157)
  ⇒その名の通り、酸素ボンベを処方して酸素吸入を行った場合の加算です。
   携帯型の酸素ボンベの場合と、それ以外の酸素ボンベの場合で算定点数が違いますので、
   注意しましょう!

③在宅酸素療法材料加算(C171)
  ⇒チアノーゼ型  (780点/回、 3月に3回まで)
   その他     (100点/回、 3月に3回まで)

 酸素供給機器やチューブなどの材料費となります。月3回を上限に算定できます。

算定時のチェックポイント~通則による併算定不可ルール~

在宅酸素吸入が必要な患者さんは、呼吸状態が悪く、SPO2が低い患者さんです。
これまで説明してきた算定ルールの他、併算定できない項目等が「在宅療養指導管理料_通則」に記載されていますので、そのルールも見ておきましょう!

通則2~2つ以上の在宅療養指導管理を必要とする場合

同一の医療機関において、「各区分に定める在宅療養指導管理料のうち2つ以上の指導管理を行っている場合は、主たる指導管理の所定点数のみにより算定する」と記載されていますので、例えば、「C101在宅自己注射」と、「C103在宅酸素」を必要とする場合は、「C103在宅酸素」を主たるものとして算定します。「C103在宅酸素」と「C104在宅中心静脈栄養」であれば、「C104在宅中心静脈栄養」が主たるものとして、算定することが可能です。

ただし、この場合、主たるものではないとして算定できなかった「在宅療養指導管理料」について、使用している材料加算や薬剤については、別途算定ができますので、算定漏れがないようにしましょう!

通則3~他の医療機関で、別の在宅療養指導管理料を必要とした場合

在宅療養指導管理料は、2ヵ所以上の医療機関を受診されている場合、特に規定する場合を除いて、主たる指導管理を行っている保険医療機関において、当該在宅療養指導管理料を算定するものとされていますが、この通則3により、在宅療養支援診療所・病院から紹介を受けた医療機関がそれまでと異なる在宅療養指導管理を行った場合、紹介月に限り、それぞれの医療機関で在宅療養指導管理料が算定可能とされています。

ただし、この場合であっても、併算定できない組み合わせがあります。例えば、「在宅酸素療法指導管理料」と「在宅人工呼吸指導管理料」のように関連性が高いものの場合です。
以下の表の左欄と右欄の組み合わせは併算定できませんので注意が必要です。

C102  在宅自己腹膜灌流指導管理料C102-2 在宅血液透析指導管理料
C103  在宅酸素療法指導管理料C107  在宅人工呼吸指導管理料
C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料
C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料
C104  在宅中心静脈栄養指導管理料C105  在宅成分栄養経管栄養法指導管理料
C105-2 在宅小児経管栄養法指導管理料
C105  在宅成分栄養経管栄養法指導管理料C105-2 在宅小児経管栄養法指導管理料
C105-2 在宅小児経管栄養法指導管理料C105-3 在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料
C109  在宅寝たきり患者処理指導管理料
C105-3 在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料C109  在宅寝たきり患者処理指導管理料
C107  在宅人工呼吸指導管理料C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料
C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料
C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料
C108  在宅麻薬等注射指導管理料1・2C110  在宅自己疼痛管理指導管理料
C108-4 在宅悪性腫瘍患者協働指導管理料C110  在宅自己疼痛管理指導管理料
C109  在宅寝たきり患者処置指導管理料C114  在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料

通則4~退院時の在宅療養指導管理料

入院中の患者に対して退院時に各区分の在宅療養指導管理料を算定すべき指導管理を行った場合は、当該退院の日に所定点数を算定できるものとされています。この場合、退院された月に外来を受診して指導管理を行ったとしても、退院時に算定していますので、退院月は算定はできません。

ただし、月末に退院して、在宅療養指導管理料を算定していた場合、翌月の初めに(例えば1週間後)に外来受診して指導管理を行った場合、1か月経過していなくても、翌月になれば算定できますので、漏れがないようにしましょう。

また、退院時に入院医療機関が在宅療養指導管理料を算定し、その同一月内(退院月)に当該入院医療機関以外のかかりつけ医師(診療所)が在宅療養指導管理を行った場合は、かかりつけ医師が退院月であっても算定が可能です。その場合は、レセプトの摘要欄に算定理由の記載が必要となりますので、留意しましょう!

C103_在宅酸素療法指導管理料と併算定できない処置・注射等

「在宅酸素療法指導管理料」には、外来受診時等にて行われる酸素吸入や喀痰吸引等は指導管理料に含まれて算定ができません。関連がある項目ですが、今回は、「C103在宅酸素療法指導管理料」等、呼吸器系の在宅療養指導管理料と算定できない項目を整理しておきましょう!

なお、これらの併算定できない項目は「当該指導管理料を算定する外来患者」が対象となります。
さらに、それぞれ、呼吸器系の在宅療養指導管理料ですが、算定できない項目が微妙に違いますので、しっかりと確認していくようにしましょう!

C103 在宅酸素指導管理料酸素吸入、突発性難聴に対する酸素療法、酸素テント、間歇的陽圧吸入法、体外式陰圧人工呼吸器治療、喀痰吸引、干渉低周波去痰器による喀痰排出、鼻マスク式補助換気法(酸素代、薬剤・材料の費用を含む)
C107 在宅人工呼吸指導管理料酸素吸入、突発性難聴に対する酸素療法、酸素テント、間歇的陽圧吸入法、体外式陰圧人工呼吸器治療、喀痰吸引、干渉低周波去痰器による喀痰排出、鼻マスク式補助換気法、人工呼吸(酸素代を除く)(薬剤・材料の費用を含む)
C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料酸素吸入、突発性難聴に対する酸素療法、酸素テント、間歇的陽圧吸入法、体外式陰圧人工呼吸器治療、喀痰吸引、干渉低周波去痰器による喀痰排出、鼻マスク式補助換気法、ハイフローセラピー(酸素代、薬剤・材料の費用を含む)
C112 在宅気管切開患者指導管理料創傷処置(期間内ディスポーザブルカテーテル交換を含む)、爪甲除去(麻酔を要しないもの)、穿刺排膿後薬液注入、喀痰吸引、干渉低周波去痰器による喀痰排出
C112-2 在宅喉頭摘出患者指導管理料創傷処置(期間内ディスポーザブルカテーテル交換を含む)、爪甲除去(麻酔を要しないもの)、穿刺排膿後薬液注入、喀痰吸引、干渉低周波去痰器による喀痰排出

おわりに・・・

さて、皆さん如何でしょうか?

近年では、様々な原因による高度慢性呼吸不全や肺高血圧症、慢性心不全の患者さんだけではなく、重度の群発頭痛や手術の待機患者等について、また、チアノーゼ型先天性心疾患の場合の緊急時等、在宅での酸素療法を取り入れるケースが増加してきています。算定に当たっては、対象疾患はもちろんのこと、使用する医療機器や材料、等も考慮し、適切な算定ができるように整理しておくことも必要です。

在宅酸素療法は、患者さんが自宅で安心して暮らすための大切な医療支援です。
一見難しそうに見えますが、ポイントを押さえればルールはシンプルです。
先生方の指示や診療録、提供業者の記録をしっかり確認し、適切な算定につなげましょう。

もし不安な点があれば、医師や訪問看護師、業者の方とも連携しながら進めていくと安心です。

<参考資料> 令和7年7月20日確認

■令和6年度診療報酬改定について は(こちら)

■医学通信社「診療点数早見表」医科2025年4月現在の診療報酬点数表 より
  ⇒第2部在宅医療 第2節在宅療養指導管理料 
   第1款 在宅療養指導管理料
    通則
    C103 在宅酸素療法指導管理料
   第2款 在宅療養指導管理材料加算
    C157 酸素ボンベ加算
    C158 酸素濃縮器加算
    C159 液果酸素装置加算
    C159-2 呼吸同調式デマンドバルブ加算
    C171 在宅酸素療法材料加算

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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