社労士モリの映画あれこれ~「アルプススタンドのはしの方」(2020年:日本)~
森 𠮷隆
その他上映時間はわずか75分、出演者は無名、高校演劇の戯曲を原作とした中身は野球場の応援席のみを写して物語が展開されるワンシチュエーションの会話劇。
そんな低予算の小品でありながら、それ故に魅力がぐっと凝縮された良作でした。
舞台は高校野球の甲子園大会のアルプススタンドの応援席。その隅っこに自校の応援に無理やり駆り出された野球のルールもよく知らない演劇部の女子高生2人、元野球部の男子学生、優等生だが友達のいない女子高生。一見バラバラでチグハグなこの4人がたまたま集まり、野球の試合を共に観戦し続ける中で、心に共通するあるものが芽生えていく…。
※以下、少々ネタバレとなります。
高校野球の試合を描きながら、野球のシーンを映さず、応援席での登場人物の一挙一動で試合の動向が判るという仕組みが興味深く(そこは舞台が原作ならではといえるのですが)、その会話で登場人物がそれぞれに何らかの鬱屈した心情を抱えていることがわかります。それは時として登場人物が発する「しょうがない」という言葉に表れています。
その諦念が選手たちへの応援という形をとりながら、少しずつ前向きな変化をもたらすプロセスはある意味定石通りの展開といえるのですが、それぞれきちんとキャラ立ちした人物の魅力も重なって、その展開に素直に共感できる形となっています。
ちなみにこの映画、甲子園球場のロケの許可が下りなかったらしく、実際の映像は全国大会というより、明らかに地方大会という感じなのですが、私は結果的にはこちらのほうが今回の映画の世界観により近い感じがしました。
コロナ禍により残念ながら本格的な甲子園大会は開催されませんでした。これも「しょうがない」といえばそれまでなのですが、この映画の問いかけは、まさに現在の状況にリンクしてリアルに感じます。
それ故に本年の記憶に残る青春映画の1本といえるのではないか思えます。
筆者略歴:特定社会保険労務士。 「WOWOW映画王選手権」2001年、2002年本戦連続優勝、2011年本選準決勝進出、2013年本戦準々決勝進出。2012年「スカパー!映画クイズ選手権」本選優勝。映画検定1級(2014年は首席合格)。
労務コンサル課
著者紹介
-
人事コンサルティング部 労務コンサル課 シニアコンサルタント
(特定社会保険労務士)
「WOWOW映画王選手権」2001年、2002年本戦連続優勝、2011年本選準決勝進出、2013年本戦準々決勝進出。2012年「スカパー!映画クイズ選手権」本選優勝。映画検定1級(2014年は首席合格)。
最新の投稿
- 2024年9月25日その他「マッドマックス2」(1981年:オーストラリア)
- 2024年2月8日社労士モリの映画あれこれ社労士モリの映画あれこれ~2023年の公開映画のベストテンを選んでみました~
- 2024年1月16日人事労務特別労働相談日における相談結果の公表
- 2023年11月21日社労士モリの映画あれこれ社労士モリの映画あれこれ
「SISU/シス 不死身の男」(2023年:フィンランド)