「完全予約制なのに、なぜこんなに待つの?」~予約診療にひそむ“すれ違い”~

長 幸美

医療介護あれこれ

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「完全予約制の病院なのに、診察までに1時間半も待たされた」
・・・これは私自身が実際に体験したある日の外来診療での出来事です。

先日、私は家族の不調を地域の医療機関で診療してもらっていましたが、手術をしたほうが良いとの判断で専門医のいる大病院に紹介してもらい、受診することになりました。
その病院は、「完全予約制」を掲げる三次救急の病院です。

診療を受けるためには、家族からの予約センターへの連絡が必要で、初診の場合には平日に連絡を入れるように、地域の病院から連絡を受け、教えてもらった電話番号(代表電話)に電話をしましたが・・・
なんと、予約センターは別の電話番号で、しかも平日の14時から16時までの時間しか受け付けないとか・・・。私はフルタイムで仕事をしていて、しかも、14時から16時は打ち合わせや顧問先への訪問等があり、その週は予定がつまっていて電話さえできません。しかしそんな事情は電話交換の方はお構いなし・・・「電話でのご相談のお時間は初診の場合、平日の14時~16時と決まっていますから」「午後は今日も普通に予約を受け付けていますから・・・」と、にべもなく・・・。
大病院を受診しないといけない患者を抱えると、仕事をしていることは障害になるのだということを改めて実感する出来事でした。

仕方がないので、地元の医療機関に再度診察をお願いし、一週間後、予約の電話をかけ、指定された時間に予約の受付をいれ、当日受診をしたのです。結果といえば・・・
「11時までに受付に来てください(予約時間は10:30~11:00でした)」といわれ、10:40前ごろ受付に行きました。しかしそこから、受付開始までに15分、その後、看護師さんの予診までに約1時間、医師の診察までにはさらに1時間半以上待たされ・・・。結局、診療を終えたのは、予約時間から約4時間半後でした。その間待ち時間や予約の時間に関する説明は一切なく・・・、ただひたすら待つのみでした。

そして、ふと湧いてくる疑問──「これで本当に“完全予約制”といえるのだろうか?

予約制の実態~受診してみて気付いたこと

患者の立場として、「予約制」と聞いて頭にうかんでくるのは、「その時間に診察してもらえる」という安心感です。予定が立てやすく、待ち時間も少ない。効率的で快適な医療体験を期待します。
しかし今回受診した医療機関にとっての予約制は、「診療枠(患者数)の確保(確認)」や「業務の見通しを立てるための手段」であり、患者やその家族の背景や心情は蚊帳の外のように感じました。

確かに、混雑緩和や感染対策、スタッフ配置の最適化など、多くのメリットがあります。
しかしそれはあくまでも「医療スタッフ」の作業の分散の為ではないかと感じます。
一体、患者さんの思いはどこに行ってしまったのでしょうか?

予約したのに長時間待つという現状

患者さんは、なぜ「予約したのに長時間待つ」ことになるんでしょうか?
その背景には、いくつかの要因が潜んでいるのではないかと思います。

<長時間待つ理由として考えられること>

①前の診察が長引くこと

  これは人が人を診療するわけなので、時間通りに行くことは少ないでしょう。
  ある程度致し方がないことだと思います。

②予約外の急患や対応が必要なケースの発生

  これもある程度、緊急の患者や予定外の患者を受けている場合、仕方がない部分があります。
  特に三次救急を受けている医療機関です。重傷者の搬送や手術・処置など、あるでしょう。
  救急搬送による受入れはどのような状況でいつ起こるかわかりません。

③初診や検査、手続きに時間を要すること

  今回のケースで考えられるのはそもそも予約が「時間」ではなく「順番」を意味しているのではないでしょうか?
  つまり、「〇時予約=〇時診察」ではないのが現実なのです。
  私が受診した医療機関も、あくまでも「受付を制限する」という意味での予約であり、診察
  の予約ではなかったのです。
  しかしながら、予約センターでは、「診療の予約」という説明しかされていなかったため、
  「どうして?」という疑問が出てきてしまいました。

不満の原因は「時間」ではなく「理由の不透明さ」

多くの患者さんが感じる不満の本質は、「待たされること」そのものよりも、「なぜ待っているのか、どれくらい待つのかがわからない」ことにあります。
もし、「現在診察が遅れており、あと3人ほど先になります」「次にお呼びする予定なのですが、救急対応が入っておりまして・・・」と一言添えられていたら、不安やイライラは、ぐっと軽減されるはずです。

今回の私の事例で言うと、「診療は完全予約制」といわれており、「30分単位の時間予約の為、若干の時間の前後はあるかもしれない」と説明を受けていたものの、先生の診療を受けるまでに2時間以上かかるとも思っていなかったために、お茶や食事の用意もしていなかったのです。
診療科の受付で、「お茶を買いに行きたい」と申し出ても、「いつ呼ばれるかわからないので、席を外されるのは困るんです。呼ばれるまで、ここで待ってください」と却下され、のどが渇いた状態のまま、2時間以上待たされてしまいました。
初めての受診なので、診療の仕組みもわからず、どの先生(診察室)から呼ばれるのかもわかりません。
診療室の前には、4~5人の診療の診療状況や予定がわかる表示板があるのですが、診療の順番にならないと標示が上がらず、不安なまま待たされる状況がありました。

医療機関にできる工夫、患者にできる心構え

医療機関としては、業務の視点でどうしても「患者・家族の視点」を見失いがちになります。
しかし、基本的には「何らかの身体の異常を抱え、具合が悪い方が受診される」という現状をしっかりと認識したうえで、以下のような工夫があれば患者側の不安や不満の解消になるのではないでしょうか。

①診療状況の「見える化」:待ち時間の目安表示や番号呼び出しシステムの導入
  ⇒今回の病院はせっかく導入されている呼出しシステムが活用されていませんでした。
   とてももったいないので、ぜひ活用されることをお勧めします。

②情報提供:予約制の運用方針(時間予約制か、順番予約制か)の明示
  ⇒紹介元となる医療機関に向けても、「予約の取り方」「電話番号」「診療までの流れ」などを
   記載した「患者家族向けの案内」があるとよいのではないかと思います。

説明と声かけ:遅延がある場合の丁寧な説明とお詫びのひと声、とても大事だと感じます。

一方、患者側も、「予約=時間通り」とは限らないという前提で、余裕を持ったスケジュールを心がけることが、トラブルを防ぐ一助となるかもしれません。また、大病院を受診する場合はそのあとの予定は入れるべきではないかもしれない・・・と思いました。

予約制は「対話」で育てる仕組み

「完全予約制」と書かれていても、実際には“診療という不確定なもの”を扱っている以上、すべてが予定通りに進むとは限りません。

医療機関にとって、「やむを得ない状況」も患者さんにとっては、「待たされた」「時間が持ったいない」とネガティブに働くこともあることを、医療従事者は知っておく必要があると思います。そして、患者さんの期待に応える努力を忘れずにいたいものです。患者側の心情を理解する体制を作る努力が求められています。

予約診療とは、医療側が一方的に提供するサービスではなく、患者さんと医療機関が「時間」と「信頼」を共有する仕組みだと思います。
もし診療が遅れるなら、きちんと理由を説明する。
もし待つ時間があるなら、その状況を伝えてもらえる。
それだけで、患者の不満は「納得」に切り替わることもあります。自院の「当たり前」と思っていることにも一度焦点を当てて、考えて見られては如何でしょうか?

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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