
電子カルテを入れれば業務が楽になる?~
長 幸美
医療介護あれこれ電子カルテ導入は「便利になる」・・・という、期待を込めて導入を決めた医療機関も多いと思います。実際に導入した結果はというと、これまで曖昧にしてきた業務の境界線や責任の所在が明確になり、かえって「やりづらくなった」「手作業が増えて忙しくなった」と感じることもあるのではないでしょうか。
なぜマイナス的なことを感じるかのか?・・それは紙時代には曖昧にしていた業務ルールや責任が、電子化によって浮き彫りになるからだと思います。この曖昧さについて対処しておかなければいけません。
電子カルテを導入すること以前に行えることは、電子カルテ導入前から気づくことが出来なかった事、つまり『いま自院がどんな業務の流れで動いているか』を正しく把握することを行い、業務フローを見直すことです。この見直しは電子カルテへ移行することで起こる問題に対応するために必要な作業です。
今回は、電子カルテ導入の前に確認しておいてほしいことをお話ししてみたいと思います。
目次
電子カルテは「ルールの可視化装置」でもある
「カルテ(診療録)」には診療の経過記録・実施記録としての役割があることは皆さんご存じの通りです。その他にも、診療報酬の根拠や様々な統計や学術的根拠になるなどの目的がありますが、電子カルテに移行することにより、院内の診療手順(フロー)を見直すとても良い機会であるともいえると思います。
紙カルテでは、医師の口頭指示に従って看護師や事務スタッフがオーダーを書き込んだり、内容を代理で記録したりといった“グレーな運用”が、現場の裁量でなされていました。
しかし電子カルテを導入することにより、曖昧にしてきた裁量権が明確化されることになります。
いくつか事例を紹介します。
①ログ管理で「誰がいつ操作したか」が明確に
例えば、これまで、医師が処方した処方内容に対して調剤薬局から、疑義照会が出た場合、その修正がいつ行われていたかについてはどのように記録を残されていたでしょうか?
電子カルテの場合は、誰がいつ変更したのかも、ログを残す必要があります。
②アクセス権限で「やれる範囲」が制限される
医師をはじめ電子カルテを操作する職員は、操作権限を設定した職員マスタを設定し、使うことになります。それぞれのマスタについては、パスワード設定を定期的に変更するように指導し、管理していくことが必要です。当然のことながら、医師の指示に対し、事務職員が変更することについて、どう実施するか、ルール化する必要があります。医師のマスタを事務が使うことはできません。どこまで事務職員が実施するのか、また、その承認作業の手順についてもルール化する必要があります。
③権限を超えた操作は「なりすまし」となるリスクが!
このルール化を行う結果、今まで“なんとなく”できていた作業が、「法的にできない」「システム的に不可能」という事態に直面します。
このようなとき現場から、「医師のマスタに入れ替えて変更すればできますか?」とか「事務職員のマスタでは変更ができません、毎回変更を医師が記録するようなことでは困るんです!」といった声が聞こえてきます。しかし医師のマスタを本人以外のスタッフが使用することはできません。それでは、「なりすまし」になってしまいます。
具体的に言うと・・・これまで、先生から「修正しといて!」と言われたら、修正内容を紙カルテに記載し、先生から押印をもらっていたら済んでいたことが、閲覧権限しかない事務職員では、電子カルテに修正ができません。
さて、このような時にどうするか、「医師マスタを使って変更する?」この行為はなりすましとなり、決して実施してはならないことです。
しかし、実際の診療の中では、医師以外の人が変更についての記載することは、時として必要な作業になります。この為「医師事務作業補助者」の作業内容と承認方法を決めて、医師事務作業補助者のマスタ権限を作ることになります。これで診療録の記録が可能になります。ルールを作ることはとても大事な工程です。
慎重に実施を検討しないといけません。
医療職の業務範囲と法令の壁
医療現場では各職種に法律で定められた業務範囲があります。
たとえば・・・
■医師以外の者が勝手に診療録を記載したり、オーダー入力を行うことは認められていません。
⇒しかしながら、医師事務作業補助者については、様々な育成要件やルール(規定)の作成など
要件はつきますが、必要なルール(規定)を作ってさえいれば代行することはできます。
医師事務作業補助者を置く場合、育成方法や業務範囲を取り決めておく必要があります。
■看護師や技師の業務も、医師の指示のもとでないと行えないものもあります。
⇒例えば、医師以外の職種が行う行為は実施内容を明確化する必要がありますね。
■コ・メディカルのスタッフはその業務範囲により、記録をとることになりますので、そのルール作りも大事です。
このように、電子カルテを導入すると実務に必要な「本来のルール」.が、明確に浮かび上がってくるのです。
導入時に考えておくべきポイント
さて、導入前後に押さえておいてほしいポイントを整理していきましょう!
業務フローの見直しと整理
誰が、いつ、どの画面で、どんな操作を行うのか、ということを念頭に現在の業務フローを、どのようにシステムに載せていくのか、見直していく必要があります。
新たな業務フローを作るうえで、今までの「慣習」が法的・運用的に問題ないかの再検討を行い、業務の流れの中で業務フローを作り直す(見直す)ことが必要です。
権限設定と操作手順のすり合わせ
医師、看護師、事務職のそれぞれに応じた操作範囲の設定が必要になってきます。
代行入力や記録を行う範囲を見直し、個々の職員マスタ設定及び業務範囲を明確化(ルールの作成)を行います。
その際、記録(電子カルテ)の責任(承認)のルールも決めておかれるといいでしょう。
意識改革と教育
電子カルテの導入は「縛るため」ではなく、「安全と明確化のため」であることを共有することが大事になります。職種ごとの役割と限界を再確認し、安心して使える体制を整えるようにされるとよいでしょう。
結びに
電子カルテ導入は、「システムを変えること」であると同時に、「人と組織の動き方を見直す機会」でもあります。意識せずにこれまで実施していたことが、「電子カルテ」というシステムを導入することにより、受付のフローや予約の取り方等が可視化され、明確化されることになります。
人によっては、それが「不便さ」と感じる場合もあると思います。
紙カルテの業務フローをそのまま電子カルテシステムに当てはめると、手作業と電子カルテの作業と重複し、倍の手数が増えるということがあるかもしれません。「人が足りません!」という声が上がるのは医療機関でよく見かける光景です。
電子カルテの導入を単なるデジタル化に留めず、業務の再設計と責任の見直しのきっかけとして活かしていくことが、導入成功への第一歩です。今まで手作業でうまく動かしていた医療機関は、電子化することにより「不便さ」を感じることも多いかもしれませんが、これを解消するためには導入の時期に、手作業で得られていた情報が電子化することによりどこから得ていくのかということを確認する必要があるでしょう。
カルテの内容を確認のためには画面を開く必要があったり、これまで、消しゴムで消すと予約が消せたものが、簡単に消すことができないなど、面倒だなと思うこともあるかと思います。
でも、そこを乗り越えていくと、情報共有も的確に行われ、皆さんの負担は確実に減っていきます。
面倒だな…と思うことは、実は“業務改善のサイン”です。今は少し不便でも、業務を見直すチャンスと捉えましょう。
電子カルテは「仕組みを変える」だけでなく、「働き方を変える」力を持っています。
ぜひ、チームで工夫を重ねながら、一歩ずつ快適な環境をつくっていきましょう。
きっと、楽になる日がやってきます。頑張ってトライしていきましょう!
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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