業務不良を理由とする解雇

株式会社佐々木総研

人事労務

今回の判例は、指摘された問題点について改善に努め、業務を不当に拒絶したとはいえない等から、業務不良を理由とする解雇は権利濫用として無効とされた事件です。

■N社事件 東京地裁 平成29年9月14日判決

【事件の概要】

N社(被告)と無期労働契約を締結していたX(原告)が、業務不良を理由に解雇されたことについて解雇権の濫用として無効であり、不法行為に当たるとして、労働契約に基づく地位確認、ならびに解雇期間中の賃金・賞与および不法行為に基づく損害賠償の支払いを求めた事案である。

N社は、Xに対し、業務不良を理由として、平成17年10月から平成21年6月までの間、5回に渡り業務改善プログラムを実施した。平成21年12月、Xの業務が改善していないと判断し、Xの業務を変更した。Y社では、目標に対する達成度等について評価を行う評価制度を設けており、上から順に「1」「2+」「2」「3」「4」の5段階の相対評価となっている。Xの評価は、平成22年及び平成23年は、「2」、平成24年以降はいずれも「3」だった。

N社は、①業務改善へ向けた継続的な働き掛けにもかかわらず、Xの業績が低迷し続けたこと、②平成24年~26年にかけて、新しい業務の製品知識、ITスキルの向上が必要であることを伝えたにもかかわらず、一向にその準備をせず、平成26年にはその新しい業務を指示したにもかかわらず、これを拒否し続けたことが、就業規則の解雇事由に該当するとして、平成27年3月、Xに対し、同年4月付で解雇する旨の解雇予告を行った。

 

【判断】

①    問題点改善への取り組み姿勢

Xは、問題点の改善が十分でない状態が続いており、業績も決して芳しいものではなかったことは否定できない。しかし、その一方で、平成18年までに行われた3回の評価制度では、問題点の改善に取り組み、その姿勢が一定程度評価されていた。平成21年の評価制度では再び改善目標の一部は達成されたと評価されており、平成22年及び平成23年には評価で「2」を獲得している。平成24年および平成25年は評価こそ「3」であったものの、総評においてはXの貢献に対する肯定的なコメントも記載されていることからすれば、平成22年以降は、一応改善傾向にあったと評価できる。

 

② 知識・スキルの向上への準備および業務への拒否

平成26年に入ると新しい業務を開始することが目標で掲げられたが、Xが毎月30時間前後の時間外労働時間を申請していたこと等からすれば、製品知識やスキル向上に取り組むための十分な時間を確保できる状況にあったとまでは認められない。そうした状況の中で、Xは平成25年9月から平成26年9月までの間、製品知識等の向上のために指示された記事(担当した案件について障害内容と解決方法を記述した記事)の執筆に取り組んでいた。目標で掲げられた件数には遠く及んでいないが、目標が適切に設定されていたかについては定かではなく、Xが新しい業務が行えるようになるための準備を怠っていたとまではいえない。そして、Xは、業務を指示された際、団体交渉を求めているが、Xが当時、組合の中央執行委員を務めていたことも考慮すれば、そのこと自体は非難できない。9回目の団体交渉で業務変更に応じる旨回答した際に提示した条件は、Y社にとって容易に承諾できるものではなかったが、Xらがこの条件に固執するような態度を取っていたこともうかがえないことから、N社においてその後の交渉の余地がないと断ずるのも相当とはいえない。

そうすると、Xが本件解雇まで指示された業務を行っていなかったことにも理由がないとはいえず、直ちに不当とまではいえない。

◆  まとめ

Xは、問題点について改善に努めようとしており、一応改善はみられていたし、評価も改善傾向にあった。Xの回答に対し、何ら交渉を行わないまま、その翌日に解雇予告が行われたという経緯も踏まえれば、本件解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当とはいえず、権利濫用として無効である。

 

【ポイント】

 成績不良を理由とする解雇の有効性は、①労働契約上、当該労働者に要求される職務能力がどの程度のものか、②勤務成績、勤務態度の不良がどの程度か、③指導による改善の余地があるか、④他の労働者との取扱いに不均衡がないか等の諸般の事情を勘案して判断されます。

もっとも成績不良を理由とする解雇が有効とされるハードルは極めて高く、使用者から見て指導による改善が見込めないと判断される場合であっても、証拠上これを立証することが困難であることも多くあります。

 即戦力として高水準の給与で中途採用された従業員や、職務を特定して採用された専門職従業員が、期待された能力・資質を有していなかった場合の解雇事案では、解雇が有効と判断された事案もあります。ただし、この場合も、単に期待していた能力・資質を有していないというだけでは足りず、改善の機会を与えていたにもかかわらず、これに対して反抗的態度を示す等改善が見込めないという事情が考慮されている点には注意が必要です。

 

人事労務課

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