労務管理のポイント『給与から賠償金を控除できるか』

森 𠮷隆

人事労務

Q:当院の職員が、業務中に不注意で病院の備品を誤って破損させてしまいました。今後病院が損害賠償を行った場合、職員に故意や重大な過失があったときには、その責任を負わせるために、その職員に賠償金の一部を負担させることを検討しています。この場合、賠償金を給与から控除しても問題ないでしょうか。

A:原則として、労働者のミス等により発生した損害に対する賠償請求権と賃金債権とを、使用者が一方的に相殺することは出来ませんが、労働者の同意を得た場合には、相殺することは可能とされています。

 

労働基準法第24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と決められています。なおこの「全額払い」の原則の例外として、以下の2点に限り、賃金の一部を控除して支払うことが認められています。

  1. 法令に別段の定めがある場合 (例)社会保険料、所得税等
  2. 労使間で締結した書面による協定がある場合 (例)社宅費、組合費、親睦会費、社内積立金等

 

損害賠償額については発生原因や労働者の過失度合い、額の評価等不確定な要素が強く、上記②の家賃等支払い事由と金額が明らかなものと異なるため、それ故に一方的に相殺は認められないと解されています。ただし、損害賠償金について労働者自らが賃金から控除することを希望するなど、労働者の同意を得て行うことについては、労働者の完全な自由意思に基づいたものであると認められる合理的理由が客観的に存在することが立証されれば、相殺は可能とされています。

ちなみに労働基準法第16条では「賠償予定の禁止」を定めており、あらかじめ賠償額を定めておくことを禁止しています。よって損害賠償を請求する場合、実際に生じた損害を元に都度、金額を定めていかなくてはなりません。使用者は、労働者の仕事上のミスというリスクや不利益については、基本的には責任を負う立場にあります。よって損害賠償請求権が認められる場合は、労働契約等の明確な違反であったり、横領等犯罪に該当するような行為等に限定されるでしょう。

労働者に損害賠償の一部を負担させる時は、事案の内容を十分検討し、なおかつ使用者の管理責任、病院の設備環境等も考慮し、慎重に決めていくことが必要となるでしょう。

それいゆ2014年1月号掲載記事

著者紹介

森 𠮷隆
人事コンサルティング部 労務コンサル課 シニアコンサルタント
(特定社会保険労務士)

「WOWOW映画王選手権」2001年、2002年本戦連続優勝、2011年本選準決勝進出、2013年本戦準々決勝進出。2012年「スカパー!映画クイズ選手権」本選優勝。映画検定1級(2014年は首席合格)。

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