Part3 DXを文化として根付かせる ~データと戦略をつなぐ循環~
赤嶺 奈美
DX推進本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
DXの取り組みを始めても、多くの企業では途中で止まってしまいます。理由はシンプルです。「プロジェクト」としては動いても、「文化」として定着していないからです。
システムを導入したり、研修を行ったりすることはできます。しかし、それが一過性の取り組みに終われば、数年後には別の課題に押し流されてしまいます。
本当に強い組織を作るには、DXを企業文化として根付かせることが不可欠です。
DXを文化にするとはどういうことか
文化とは「社員一人ひとりが当たり前にやる行動や考え方」です。
挨拶をする、日報を書く、安全確認を怠らない──どの企業にも共通する“当たり前”があります。DXも同じで、「データを残す」「数字を基に議論する」「効率化を工夫する」といった行動が習慣化されたとき、初めて文化になります。
DXを文化にするとは、「特別なプロジェクト」から「日常の当たり前」へと変えることなのです。
データと戦略をつなぐ循環
そのための鍵は、データと戦略を循環させることです。
- 現場がデータを入力・蓄積する
→ Part 1 で述べたように、入力は未来の資産形成。 - 経営者が戦略として語る
→ Part 2 のように、「なぜ必要か」「どう活かすか」を経営者自身の言葉で示す。 - その戦略に基づいて現場が改善に取り組む
→ データが業務効率化や新しい価値創出につながる。 - 改善結果が再びデータとして蓄積される
→ そのデータを見て経営者が次の方向を語る。
この循環が回り始めれば、DXは一過性ではなく、組織を前に進める駆動力となります。
小さな成功を積み上げる
中小企業にとって重要なのは、いきなり大規模に文化を変えようとしないことです。
「請求書を紙からデジタルに変えた」
「顧客管理をスプレッドシートで統一した」
「営業会議で感覚ではなく数字を出すようにした」
こうした小さな成功が積み重なると、社員の中で「デジタルは役に立つ」という実感が育ちます。この実感こそが文化形成の第一歩です。
経営者が果たすべき役割
文化を根付かせるのは社員一人ひとりの行動ですが、その方向を示し続けるのは経営者の役割です。
・なぜやるのかを繰り返し語る
・小さな成功事例を称賛する
・データに基づいた意思決定を自ら実践する
この三つを経営者自身が体現すれば、社員も自然と同じ方向に動きます。逆に、経営者が従来通りの感覚的な判断に戻ってしまえば、せっかくの取り組みも定着しません。
おわりに
DXはシステム導入のことではなく、文化づくりのことです。
データを資産とみなし(Part 1)、経営者がその意義を語り(Part 2)、それを現場に循環させる(Part 3)。この流れが定着したとき、DXは特別な言葉ではなく、企業の“当たり前”になります。
そしてそのとき、企業は変化に強く、持続的に成長できる組織へと進化していきます。
DXを文化として根付かせる──これこそが中小企業にとっての最終的なゴールなのです。
2025年10月9日
著者紹介
- DX推進支援部 ICT活用推進課
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