Part2 DX戦略は「語れるか」で決まる ~経営者の言葉が変革を動かす~
赤嶺 奈美
DX推進本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
「DX戦略を作る」と聞くと、多くの中小企業の経営者はこう思うかもしれません。
「うちにはそんな大層なものはまだない」
「戦略なんて考える前に、目の前の業務を回すので精一杯だ」
実際、その感覚は正しいのです。多くの中小企業にとって、立派な戦略資料やロードマップを整えることよりも先に大切なのは、経営者自身が社員に“なぜデジタルが必要か”を語れるかどうかだからです。
戦略は「完璧」である必要はない
大企業では、外部コンサルと共に何十ページものDX戦略書を策定することがあります。しかし中小企業にとって、それは現実的ではありません。むしろ重要なのは「今の自社にとってデジタルがなぜ必要か」をシンプルに言語化し、経営者自身の言葉で社員に伝えることです。
たとえば、
・紙の管理に時間を奪われているからデジタル化する
・顧客の声を集めて次の商品に活かすためにデータを残す
・将来の人手不足に備えて自動化を始める
この程度で十分です。戦略は立派である必要はなく、まずは「軸」を明確にすることが大切です。
語れない戦略は存在しないのと同じ
社員にとっては「会社がどこに向かうのか」が最も気になります。経営者が何も語らなければ、現場は従来のやり方を続けるだけです。逆に、経営者が繰り返し同じ方向性を語れば、少しずつ社員の意識は変わります。
「説明できない戦略は、存在しないのと同じ」
これは大企業でも中小企業でも変わらない真実です。
「翻訳」と「反復」がカギ
経営者が語るときに重要なのは二つです。
- 翻訳すること
難しい言葉や抽象的な表現ではなく、社員の日常業務に引き寄せて説明する。
例:「データを集めると顧客分析ができる」ではなく「入力しておけば次回の見積もりが早くなる」。 - 反復すること
一度言っただけでは浸透しません。朝礼や会議、雑談の場でも繰り返し伝えることで、ようやく文化になります。
この二つを続けられるかどうかが、DXのスピードを左右します。
戦略を「語ること」自体がリーダーシップ
経営者の役割は、完璧な戦略を持つことではありません。社員に方向性を語り、未来を示すことです。多少荒削りでも、自分の言葉で語ることが社員の共感を呼びます。
データ入力を投資と捉える文化を根付かせるのも、AIや自動化に向けた第一歩を踏み出すのも、すべては経営者の言葉から始まります。
おわりに
DXは「戦略資料を作ること」から始まるのではありません。
経営者が「なぜデジタルが必要か」を社員に語れるかどうか、そこが出発点です。
戦略は「存在する」ことよりも、「語られる」ことで初めて意味を持つ。
中小企業にとってのDXの第一歩は、経営者が未来を自分の言葉で語ることにほかなりません。
2025年10月9日
著者紹介
- DX推進支援部 ICT活用推進課
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