イラっとした時どうしていますか?~チームマネジメント編~

長 幸美

医療介護あれこれ

本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。

前回までに、患者さんへの対応や職員同士のやり取りでイラっとした時の対応について、アンガーマネジメントを取り入れた方法をご紹介しました。
シリーズ最終回となる今回は、チーム全体にアンガーマネジメントをどう生かすかを考えてみたいと思います。

職場は一人で成り立つものではありません。
複数のスタッフが関わり合い、協力し合うからこそ、感情のコントロールが組織全体の雰囲気や働きやすさに直結します。

感情を共有できる場を持つ~振り返りミーティングのすすめ~

イライラをため込んだまま仕事を続けると、不満や誤解が膨らみやすくなります。
一人で抱え込まず、チームで共有できる場を設けましょう。

例えば・・・
  ・月に一度の「振り返りミーティング」で感情をあらわす
  ・小さな出来事も「ちょっと困ったことがあって…」と口にできる場所(場面)をつくる

これだけで、不満が爆発する前に対処することができます。

ただし注意したいのは、この場を「単なる愚痴を言う場」にしないことです。
目的は感情を発散することではなく、「困ったこと」を共有し、ポジティブな考え方に切り替えること。そのためには「個人攻撃はしない」ことが鉄則です。
「私が困ったこと」に対して他の人の成功事例を聞き、真似してみる――こんな前向きなやり取りができるといいですね。

また、困ったことだけでなく「うれしかったこと」も共有してみましょう。
人はどうしても悪いことに目が行きがちです。意識しないと「良いところ」は見えてきません。お互いの「良いところ探し」をしてみるのも有効です。

「ありがとう」が言える仕組みを作る

イライラを減らすには、マイナス感情を減らすだけでなく、プラスの感情を意識的に増やすことも大切です。

  ・「ありがとうカード」を用意して感謝を可視化する
  ・朝礼や終礼で「一言ありがとう」を伝える習慣を作る

「感謝の言葉」が増えると、自然とイラっと感が減り、職場の空気が柔らかくなります。

ある医療機関では、職員同士がお互いの悪い面ばかりを言い合い、ぎくしゃくした雰囲気がありました。そこで院長先生に、まずは職員の名前を呼ぶことを心がけてもらいました。さらに、週1回の朝礼で「職員の対応でうれしかったこと」を発表してもらうようにしました。

すると先生ご自身が「悪い面ばかりを見ていた」ことに気づかれ、職員の良いところを見ようと意識するようになったのです。結果、職員に向けて「ここは大事だから押さえよう」というポイントを整理できるようになり、そのポイントを明確に伝えることで「求められていることの意味が分からない!」といった職員間の意見もなくなり、お互いのイライラが減ったそうです。

また、院長が依頼するときの呼び方も「看護師さーん」「事務員さーん」から、「○○さん、お願いします」「○○さん、ありがとう」と変わりました。名前で呼ばれることで、スタッフは「私が認められている」と感じるようになり、報告も「先生、終わりました」と具体的に返すようになりました。
こうした小さな変化が、イライラを減らすことにつながった事例です。

ルールで守る、ルールで縛らない

休診日や業務分担など、運営上のルールは不可欠です。
ただし、そのルールが「患者さんにとって不親切」「スタッフにとって負担ばかり」となれば、イラっとの原因になります。

  ・院内掲示や事前周知で患者さんの不満を減らす
  ・分担ルールは固定化せず、定期的に見直す

「なぜこのルールなのか」を説明できることが、信頼を守る第一歩です。

よくある事例は、勤務歴の長い職員と新入職員との問答で「なぜこれを行うのですか?こうすることで何が変わるのでしょう。」という問いに、先輩職員が「昔からこうしている」と答えることで衝突がおこるケースです。新入職員、特に他の医療機関で勤務経験がある人は「どうしてこの作業をするんだろう?」と疑問を持ちます。先輩方は考えたことがなかった理由が、実は業務改善のヒントになることもあります。

ではそんな時「この作業の目的は○○なんだよ」と説明し、逆に「他のクリニックではどうしていましたか?」と尋ねてみたらどうでしょう。常に現状に疑問を持ちつつ業務を行っていれば、新人に問われる内容が新しい気づきとして感じられ、業務の改善のヒントとして得られるかもしれません。

イラっとをチームで乗り越える工夫

これまで紹介してきたアンガーマネジメントのポイント――背景を想像する、6秒待つ、言葉を選ぶ――は、個人だけでなくチームで共有することで効果が倍増します。

  ・朝礼や研修で「6秒ルール」を合言葉にする
  ・「さっきの言葉、少し理解しにくかった…」のフレーズを共通の確認ツールにする  
  ・スタッフ全員で「言い換えの工夫」を考える手法を取り入れる

チームで同じ方法を使うことで、安心して働ける文化が根づきます。

もちろん、失敗や個性の受け止め方は人それぞれです。誰にでも得意・不得意があるので、お互いを理解する風土が必要です。そのためには「その人を受け入れるおおらかさ」と、「ここだけは押さえてね」という共通ルールの両方が大事です。

まとめ

アンガーマネジメントは個人の感情コントロールにとどまりません。
「感情を共有する」「ありがとうを増やす」「ルールを工夫する」「合言葉を持つ」――こうした仕組みをチーム全体で取り入れることで、イライラに強い職場風土が生まれます。

シリーズを通じてお伝えした「背景を想像する」「6秒待つ」「言葉を選ぶ」という3つの基本は、患者さん対応にも、職員同士の関係にも、そしてチーム全体のマネジメントにも共通して大切なことです。

イラっとした時、あなたはどんな工夫でチームを守りますか?

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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