知っておきたい「療養担当規則」あれこれ②~「しなければならない」ルールを知ろう~
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
前回のコラムでは、療養担当規則は「禁止事項」ではなく、「保険診療を行う医療機関の責任を示すルールブックである」、というお話をしました。
今回はその内容を、より具体的に見ていきます。
療養担当規則の中には、「診療のしかた」や「記録の取り扱い」、「患者さんとの向き合い方」など、日々の診療に直結する“しなければならないこと”が数多く記載されています。
目次
適正な診療を行うこと(第1条)
療養担当規則の第1条には、「保険医療機関および保険医は、医学的に妥当適切な診療を行うこと」と明記されています。「医学的に妥当適切な診療」とはどういうことでしょうか?
これは、たとえば以下のようなことを意味します。
| よくある場面 | 注意すべきこと |
| 毎回同じ薬を出している | 患者の状態や効果を確認せず“漫然投薬”になると、必要性を問われる |
| 検査を短期間で繰り返す | 医学的な根拠や目的の記録がないと、過剰と判断されることもある |
| 指導料や管理料を算定 | 内容が記録されていなければ「行っていない」とされる場合がある |
これらは、1回目のコラムで事例紹介した内容です。
つまり、「医学的に妥当適切な診療」というのは、「誰もが納得できる医学的な診断根拠があるか?」ということが問われているということなのです。
「医学的に適切であって、かつ、一般常識に照らし合わせて、誰もが納得する医療内容でないと、保険者はお金を負担しませんよ」ということが書かれているわけです。のちの項目で述べる「診療記録」は診療過程や診断の内容を証明するためのものになるわけですね。
「必要なことを、必要なだけ、必要な理由を持って行う」この姿勢が「適正な診療提供」につながります。
診療録を記載し保存すること(第16条)
カルテへの記載義務は、単なるルールではなく、保険診療の根拠そのものです。
診療録の中にその実施した記録がなければ、「やっていない」と判断されてしまいます。
つまり、診療録の記録は、自院(わたしたち)を守る重要な記録になるのです。
| 漏れやすい記録の内容 | 注意すべきこと |
| 指導管理料や加算算定時には、実施内容の記載が必須 | 算定要件の中に、「検査結果に基づき」や「20分以上実施した場合に1単位算定」等と指定されている場合は、算定要件があります。 |
| 薬の処方理由、検査の必要性、指導の内容などを客観的に残す | 判断根拠がわかるように記載しましょう。 |
| 検査(採血、モニター、心電図)、画像診断(胸写)の所見・評価 | 検査や画像診断の結果を、カルテに張り付けているだけで、所見や評価の記載が無く治療理由が記載されていない場合は理由を記載しましょう。 |
| 記録は5年間保存義務あり(電子カルテでも同様) | 患者さんの診療が完結して5年です。 個人のクリニック等で廃止された場合も5年間の保存義務がありますので、ご注意ください。 |
「記録していないこと」=「やっていない」、と見なされます。
つまり、「やっていないから書いていないんでしょ!?」と見なされてしまうのです。
私たちは、記録によって「自分たちの診療を証明する」責任があるということを、改めて意識しておきましょう。
上記の表の中で、検査結果や画像診断の結果など、所見がないために過去5年分を自主返還するように指導された医療機関があります。また、ある病院で、「NP(No problem)」「続行」とだけ記載していて、これは「診療したと認められない」、と指導を受けたケースがあります。
診療録に記載がないだけで、実際に問診も診察も検査結果をみて判断していても、「やっていない」と判断されてしまうと、とても残念ですよね。記録は我々を守る大事な「証拠」なのだということを忘れないようにしましょう。
保険診療と自由診療を区別すること(第5条・第8条)
保険診療のカルテと労災や自由診療等、保険の種別に応じて分けて診療録を作成されている医療機関もまだ多いのではないでしょうか。どの保険が使用されているか診療内容はしっかりと区別する必要があります。
また、患者さんに行われる医療行為に対して保険が適用されるかどうかを正しく説明することも、療養担当規則上の重要な責務です。
・保険外の検査や治療は自由診療として明確に説明・同意が必要
・混合診療(保険+自由診療を同時に行う)は原則禁止
・健康診断・予防接種・先進医療など、保険外の範囲に注意
「保険が使えるかどうか」を患者にきちんと説明することも、診療の一部です。
また、公費助成制度を利用する場合は、公費に該当するかどうかも判断していく必要がありますし、同日に健康診断や予防接種を実施する場合はいずれにも「診察料」を含んだ料金が設定されている為、保険診療で初診料・再診料の算定が出来ない場合がありますので、保険請求は要注意です。
経済的な誘因によって患者を誘導しないこと(第2条)
患者さんに中立的な立場で医療を提供するため、経済的な誘導は禁止されています。
例えば・・・
・「この処方せんは〇〇薬局に出してくださいね」はNG
⇒誘導と受け取られる可能性あり、一番近い薬局として紹介することは可能
・紹介先や提携施設についても、選択肢を提示するにとどめる配慮が必要
・キャンペーンや割引などの広告表現は医療広告規制とも関連します
特に、「隣の薬局でお薬貰って帰ってくださいね」という一言で指導を受けたいクリニックもありますし、「先約〇名様にプレゼント」や近年ではSNSで「いいね」や「友達登録」「5点評価」を誘導した記事で指導を受けた医療機関も増えてきています。広告活動に注意が必要ですね!
必要な手続きを行うこと(第2条、第3条)
保険診療を行うために必要な手続きについて書かれています。
例えば・・・
・患者さんや他の医療機関からの照会にも懇切丁寧に対応すること
・保険診療を実施するにあたって、保険医療機関は必要な手続きを行うこと
・保険診療を適切に行うため、保険の受給資格の確認を実施すること
適正な保険診療の実施と運営について記載されており、医療が「安心」・「安全」に提供され、どの医療機関に受診しても一定の水準以上の医療提供を受けることができるようにするものです。
生活者の一人として、保険医療機関では、一定の水準で医療が提供されているということはとても安心できますね。
また、この第2条・第3条には、すでに「保険証」による資格確認の記載はありません。
「オンライン資格確認(電子資格確認)」による確認か「資格確認証」による確認、若しくは「事前に保険者へ照会することによる資格確認」を実施することが求められています。
介護保険の要介護者についても「介護保険の受給者」かどうかということを確認しなさいということも記載されています。たとえ保険診療のみを行う医療機関であっても、介護保険は関係ない・・・とは言えなくなってきていますね。
一部負担金等の受領、領収書・明細書の発行など(第5条~第6条)
医療機関で指導の対象となる指摘で多いのが、「職員や医療機関関係者の医療費を徴収していない」という問題です。
保険診療の場合、受診した患者さんは保険診療のルールとして「負担割合に応じた一部負担金を支払う」ということが義務となっています。医療機関はこの一部負担金を受領する義務があるわけです。
例えば・・・
・職員は福利厚生の一環で一部負担金をもらっていません
・医療機関の関係者・役員等は交際費で経費の扱いをしています
というような医療機関はありませんか?
税務上は問題がないので、税理士さんからの指摘などはないから問題無いとお考えの医療機関もあるように感じますが、厚生局の適時調査や個別指導では指導対象となります。
現実に一部負担金の徴収を行っていなかった医療機関は指導を受けています。指導を受けた医療機関では職員が受診した際には窓口で負担金を一旦支払い、その後まとめて「福利厚生申請書」を記載してもらい後日支給することにしました。
また、これはある時私の家族が受診した時のことですが、領収明細書の発行がなかったので「明細書をいただけませんか」とお願いしたところ、「診療録開示請求依頼書」を書かされ、窓口で5,000円請求されびっくりしたことがあります。
領収書と明細書はセットで無償交付が原則ですので、ご留意くださいませ。
まとめ
療養担当規則に書かれていることは、患者さんに安全で公平な医療を提供するための「医療機関や医師の責任」としてルール化されているものです。
その医療機関で働いている皆さんもこの「責任」を担うひとりです。
「知らない」では済まされないルールです。
ぜひこの機会に、スタッフみんなで「療養担当規則って何だろう?」と話し合ってみてください。
日々の業務が、きっともっと意味のあるものに感じられるはずです。
<参考資料> 令和7年9月3日確認
■厚生労働省/保険医療機関及び保険医療養担当規則 ⇒(こちら)
■厚生労働省/保険診療における指導・監査 より
⇒保険診療の理解のために(令和7年度)医科 は(こちら)
(歯科)、(薬局)版もあります。ぜひご覧ください。
また、集団的個別指導での説明用スライド資料もありますので、ご活用くださいませ。
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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