時間外労働の割増賃金率の引き上げ

長 幸美

人事労務

2023年4月1日から、中小企業も月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が引き上げになります。大企業については、2010年からすでに引き上げられ、割増賃金は50%となっていますが、現在は中小企業に関しては25%となっていました。
今回はこの「時間外労働の割増賃金率の引き上げ」について、労務コンサル課に話を聴きました。

Q、今回の改定の概要について教えてください
大企業はすで2010年から割増賃金率は50%に引き上げられていたのですが、13年を経過して、来年2023年4月1日から中小企業においても大企業と同様に割増賃金率が引き上げられることとなりました。
時間外労働の上限は。休日労働を含まない状況で月45時間、年間360時間を超えないことが要件となっていますが、業種によっては、これを大きく超えてしまう状況にある事業所もあるように思います。

(出典:厚生労働省「中小企業の事業主の皆様へ」より)

Q、中小企業に該当するかどうか、というものはどこで判断するのでしょうか?
何か基準があるのですか?
中小企業に該当するかどうかは、業種によっても変わってきます。
次の図をご覧ください。業種が「小売業」「サービス業」「卸売業」「その他」と区分され、それぞれに①資本金の額または出資の総額、または②常時使用する労働者数により判断されることになっています。

(出典:厚生労働省「中小企業の事業主の皆様へ」より)

医療機関の場合は、サービス業に該当しますので、①資本金または出資額が5千万円以下、もしくは②常時使用する労働者数が100人以下であれば、中小企業に該当します。

Q、なるほど、この常時使用する労働者数とは、正規雇用の職員が何人雇い入れているか、ということになるのでしょうか?
この「常時使用する労働者数」というのは、パートタイマーで雇用されている方も含めた労働者数ということになります。

Q、月60時間を超える場合、というのは、具体的にどのような計算をしていくのでしょうか?
60時間を超えてしまったら、休日出勤の場合なども含めて割増賃金率が50%上乗せになるのでしょうか?
厚労省のチラシの中に具体的な算出方法がカレンダーで示されていますので、こちらで説明したいと思います。
これは前提として、給与計算の起算日が毎月1日であり、法定休日が日曜日となっている事例です。カレンダ―の中に「〇時間」と書かれているのは、時間外労働の時間数になっています。
今回のルールの中で、「法定休日に行った労働時間は含まれない」とありますから、カレンダーの日曜日の部分・・・オレンジ色の網掛け部分は時間外労働のカウントには入りません。


(出典:厚生労働省「中小企業の事業主の皆様へ」より)

また、月曜から土曜日までの時間外労働の時間数を累積して、23日までは60時間以内のため、通常の25%の割増賃金になります。
24日から1日までの合計10時間の時間外労働が60時間を超えた時間外労働になります。
このカレンダーの緑色の部分ですね。ここについては、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

Q、なるほど、法定休日の場合はカウントに入れないのですね。もし、このグリーンの部分が深夜になった場合はどうなりますか?
60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)に行わせる場合は、深夜の割増賃金率(25%)に加え、時間外割増賃金率(50%)が加算されます。
深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%

Q、なるほど、このカレンダーの事例で、8時間分を「振替休日」にすることや、「2時間分を早く退社させる」等で対応することを検討していますが、可能でしょうか?
月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するために、引き上げ分の割増賃金の支払いの代わりに有給休暇(代替休暇)を与えることができます。
但し、この有給休暇(代替休暇)を与えるには条件があり、従業員との労使協定を結ぶ必要があります。また、今回の割増賃金の引き上げに合わせて、就業規則の変更が必要になる場合があります。モデル就業規則も厚労省から出されていますので、ご確認ください。

Q、なんだか難しそうですね? そのほかに何か使える仕組みなどがありますか?
現在、残業時間数が60時間を超えてしまっている職員が多い場合等、「働き方改革」に必要な環境整備に必要な費用の一部を助成する制度があります。

(出典:厚生労働省「中小企業の事業主の皆様へ」より)

相談窓口としては、労働基準監督署や都道府県労働局の「労働時間相談・支援コーナー」や「働き方改革推進支援センター」、ハローワークなどがあります。
医療機関については、都道府県庁に「医療勤務環境改善支援センター」があり、社労士(労務アドバイザー)と医業コンサルタント(医業アドバイザー)が二人一組になり、個々の医療機関のニーズに応じて総合的なサポートをしています。「いきサポ」で検索してください。
もちろん、弊社では、医療機関のお客様も多く、人事労務コンサルタントが皆さまの医療機関の改善相談に対応しております。お気軽にご相談ください。

なるほど、就業規則の改定や労働時間を短縮するための手立てについて、費用の助成等もあり、県庁や労働局などでも相談に乗ってくれるというのは、知りませんでした。
ありがとうございました。

 

 

さて、皆様いかがだったでしょうか?

残業が多い医療機関もまだまだ多いように思います。医師の残業時間数の制限が2024年4月からと目前に迫っています。このため、時短について様々に工夫を凝らしている医療機関も多くなってきました。
医師事務作業補助者をはじめ、タスクシフト/タスクシェアリングを目指し、業務改善を図っておられる医療機関も増加しています。弊社にも小規模の病院やクリニックが、事務作業を見直すご相談も増えてまいりました。
人材不足で、看護職員や介護職員、だけではなく、事務職員の雇用も難しくなってきています。このような時代だからこそ、現状を見直し仕組みを変えていくことも必要なのではないかと感じております。
私ども佐々木総研では、人事労務コンサルティング部を中心に、就業規則の変更や働き方についても相談を承っております。
何かお困りごとがありましたら、ぜひご相談いただけたらと存じます。

人事コンサルティング部 労務コンサル課 藤原 由美
(聞き手) 医業コンサル課  長 幸美

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