【医療介護あれこれ】老活を考える
長 幸美
アドバイザリー皆さん、「老活」って聞いたことありますか?
これは「おいかつ」と読みます。
厚労省が推奨している「人生会議」・・・いわゆるACP・・・を考えていこう、という取り組みのひとつだと理解しています。ACP重たい話題ですよね。
皆さんは、ご家族で人生の最後を如何したいのか、お話されたことはありますか?
全国には様々な連携のネットワークがありますが、その中のひとつで、広島県のおりづるネットワークにご縁があって、時々参加させていただいています。
今回も、その研修に参加させていただきました。テーマは「老活を考える」。
「もしも・・・のとき」というよりも、今回は、「認知症になったらどうしたいのか」ということを主に考えようというお話でした。
全国から、約30名の方が参加されていました。
私は、今現在85歳を超える両親と生活をしています。二人とも認知機能が落ちてきて、父は認知症の診断を受けています。「老い」を意識しつつ、毎日できなくなることが増えてきて、葛藤や諦めに近い思いの中で生活しています。
そんな中の「老活を考える」・・・正直なことをいうと、参加も躊躇しました。
でも、この「残りの人生」については誰もが通る道、考えないわけにはいかない・・・
という思いもあり、今回の参加となったわけです。
私はコラムの中でもACPについて幾度か述べてきましたが、医療機関のACPについてはどうしても「救急救命処置をするかどうか」「在宅か病院での看取りか」という二者択一的なことを選択することが多いのが現状だと思います。
実際に父も、かかりつけのクリニックから、在宅で看ていくことに対し、危険性だけを説明され、念書のようなものを書かされたこともあります。
ものすごく違和感を覚えました。
在宅の最前線である医療者にはもっと寄り添ってもらいたい、けれど、それを如何話していったらいいかわからない・・・そんな中でのこの「老活を考える」という研修会だったのです。
ACPの研修では、「もしもの時を考えよう」ということを「もしばなカード」を用い、市民啓発としても、ゲーム感覚で考えていく、という取り組みをされています。
今回の「老活を考えよう」の中では認知症がテーマです。いきなり「死」(逝き)を考えるのではなく、その前にもっと身近なこと・・・「もしも認知症になったら(活き)」について考え、話をするきっかけづくりをするという主催者側の想いもあったとお聞きしました。「もしも認知症になったら・・・」という設定で、36枚のカードの中から、自分が大事にしたいと思ったカードを3枚選ぶ、その過程での「自身の想い」を「グループセッションの中で話し合い、共有していく」といった方法で行われました。
本来リアルで行う場合は、グループワークの中でこの36枚のカードについて、手札を3枚初めに配り、中央の山から1枚ずつ引いていき、「大事にしたいと思うカード3枚を残して、残り一枚を捨てていく」というものです。話をしながら、悩みながら、手元にカード3枚、大事にしたいカードを残していくものですが、今回はオンラインでのゲームだったので、すべてのカードを司会者がゆっくりと読み上げていきながら、自分と向き合っていく、というものでした。
すべてのカードを見終わった後、少人数のグループに分かれ、なぜそのカードを選んだのか、ということを意見交換しました。それぞれの参加者の意見を聞きながら、大事にしていること、我が家の環境等を頭の片隅に置きながら、お話をさせていただきました。
実際には、「認知症になったらどうしたいか」「人生の終末期の生活」について家庭の中で話し合うことはハードルが高く、難しいことと思います。人は皆平等に「死」に向かって時間を歩んでいます。
「年をとっても認知症になっても、自分らしく生きていく」ということが大事だということは頭では分かっているでしょうが、実生活の中では、なかなか難しいもの。こういったゲームを通して、深刻になりすぎずに話をしてみるということはとても大事なことではないかと思いました。
研修会の最後に、桃太郎のお話がありました。
皆さんのなかで桃太郎の昔話を知らない方はないと思います。
昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。・・・というフレーズから始まるのですが、桃太郎は育ててもらったおじいさんおばあさんへの恩返しの意味も込めて「鬼退治」に行きます。その時のお供が犬、猿、雉。ご褒美の「黍団子」をもらったお供を従え、鬼ヶ島へわたり、鬼退治をするというお話です。
この桃太郎の勝因は「犬、猿、雉」に出会ったことである、という広告が岡山の新幹線ホームにありましたね。新幹線を利用されたことがある方は一度は目にされたことがあるのではないでしょうか。
この桃太郎・・・おばあさんが川に洗濯に行かなかったら・・・桃を拾ってこなかったら・・・鬼退治に行かなかったら・・・お供に犬・猿・雉を連れて行かなかったら・・・
どうなっていたのでしょうか?
お供の犬・猿・雉は、それぞれの特性から、犬は「仁」・・・つまり忠義を尽くす、猿は「知」・・・つまり知恵、雉は「勇気」というふうに解することもできると思います。
これらは、「人の生き方と周囲の人たちの関わり」の象徴だということができるとのではないでしょうか。人は一人では生きていけません。様々な方とのかかわり、つながりの中で「生」を全うしていく・・・ということだと思うのです。
とても深い話です。
呉市では「呉ただいまをかなえるネットワーク」が、松戸市では「私の夢かるた」という形で、人生の最終段階・・・つまり、自分の人生を生ききるということを考えていこうという取り組みが進んでいるようです。
おそらくそれぞれの地域でこのような取り組みは進められていることと思います。
「人生会議」というととても重たく、何を話ししたらいいかわからないということもあると思いますが、「もしばな」や「おいかつ」のようにゲーム感覚で、幾度も話をして、自分らしく、尊厳を保ちつつ、最終段階を迎えられたら・・・とても素敵だと思いませんか?
参加されていた在宅医療をなさる先生の「本人の希望を臨床の中でどこまで守れるか、これがACPの本質だよ」というお話がずしんと心に響いた研修会でした。
こういうことは、一度考えたところで日々の生活の変化の中で想いは揺れ動いていくものだと思います。我々医療者や介護者は、寄り添い、その思いを尊重していく・・・これこそが「支える医療」につながっていくのではないか、と思いました。
「もしも・・・」のことを日々「我が事」として考えていくことが必要ですね。
皆さんもこれを機会に、「もしも・・・」のこと、お話をしてみられませんか?
<参考>
■連携実務者ネットワーク広島:おりづるネットワーク
⇒「活き逝きカード」
Facebookでも発信されています。ご興味がおありになる方はご覧ください。
医業経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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