【医療介護あれこれ】クリティカルパスと記録の省力化について

長 幸美

アドバイザリー

皆さん「クリティカルパス」をご存知でしょうか?
1980年代に医療の標準化・効率化を目的に開発され、急速に普及してきたものですが、このコロナ対応において、改めて見直されているように感じています。
良い機会ですので、「そもそも・・・」というところから紐解いてみましょう。
人員確保が難しい今だからこそ、何かヒントになるかもしれません。

【クリティカルパスとは】
1985年米国で発展した「工程管理技法」のひとつで、多数の工程からなるプロジェクトを短時間で、しかも最小経費で効率よく行うための分析手法として開発されたそうです。
現在、日本でよく用いられているものは、そこから連想して生まれた臨床経過管理方法であり、1985年にニューイングランド・メディカルセンターの看護師により医療界に導入されたそうです。当時の米国はDRG/PPSによる低額支払い方式に変更された直後であり、医療の質を落とさず最大の効果を上げるための方法として、発展してきました。

日本では1990年代に入り、急性期病院での導入が開始され、医療者と工程のばらつきを制御する方法、情報共有し、チーム医療を行う一つのツールとして発展してきています。
日本クリティカルパス学会では、クリティカルパスを「患者状態と診療行為の目標、および評価・記録を含む標準診療計画であり、標準からの逸脱を分析することで医療の質を改善する方法」と定義づけられています。
つまり、クリティカルパスの目指すものは、医療の標準化工程管理バリアンス(逸脱)分析・改善を通した、医療の質向上であるとされています。

【クリティカルパスと記録の関係】
少し古いのですが、2014年に開催された第15回日本クリティカルパス学会の中で、熊本済生会病院の副島先生が発表された資料が、視覚的にわかりやすいのではないかと思いますので、共有します。

オーバービューパスと日めくり記録の関係

(出典:2014年第15回クリティカルパス学会資料より)

クリティカルパスは、縦軸がタスク、横軸が経過日(時間)であらわされ、入院から退院までの「診療行為(タスク)」が経時的に、目標(アウトカム、退院)に向けてたてられた、いわゆる「治療計画書です。この治療計画は、医療職だけではなく、患者へも説明され、何時、どのような検査を行い、処置を行うのか、可視化されています。患者はこの計画書を見ながら、つぎに起こる医療行為を知ることができるのです。
では記録はどうでしょうか?
このクリティカルパスは記録として成立するのでしょうか?
この図で示されている通り、それぞれの診療行為(タスク)を行うごとに、患者状態に変化が出てきます。それをアウトカムととらえると、計画書と記録が合致しないことはお分かりになるのではないかと思います。

【記録の省力化への活用】
これまで説明してきたように、「クリティカルパス」はあくまでも標準的な計画書であるということはご理解いただけたのではないかと思います。
・・・ということは、先生方が、カンファレンス等により「このクリティカルパスを使おう」ということが決まれば、計画書や患者への説明文書等の省力化はできるということだと思います。
しかしながら、実施した記録の省力化とは違うこと、クリティカルパスを活用して記録とする場合は、それぞれの計画していた診療行為について実施後の患者の状態(アウトカム)の記録が必要で、そこから逸脱した場合は「バリアンス」として分析ができるだけの情報が必要だと思います。
・・・となると、バリアンスの判断基準も必要になるでしょう。

ここからは私見ですが、計画書の1日分が1枚の記録として、観察項目等も盛り込みつつ、記載漏れがないように省力化することは可能ではないかと思います。記録としては「いつ」「誰が」「何をどうした」ということ(実施記録)と、それにより、どのようになったか、や処置であれば、処置後の観察も必要でしょう。
ある病院の看護師さんから「やったことはクリティカルパスに書いてあるから、実施した看護師が押印したらいいのではないか」という質問が来ましたが、押印のみでは記録として成り立たないと思います。

【クリティカルパスの見直し】
最後にクリティカルパスの見直しについて、少しお話をします。クリティカルパスは標準的な治療方法を患者やスタッフと共有するための一つの手段であるというお話をさせてもらいました。医学の進歩であったり、バリアンス(計画からの逸脱)により、パス通りに進まなかった場合、それはなぜなのかという事例を検討することにより、クリティカルパスを進化させていくことができます。これが医療の質の向上につながっていくという考え方です。

せっかくクリティカルパスを作られている医療機関様は、このコロナの時代だからこそ、標準化を行い、省力化できることを検討して見られるのもよいのではないかと思います。

医業経営支援課

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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