【医業介護あれこれ】2020年(令和2年)度診療報酬改定について

長 幸美

アドバイザリー

博多では祇園山笠、北九州では小倉祇園太鼓や戸畑の山笠がクライマックスを迎え、いよいよ夏本番となってきました。
我が佐々木総研の本社周辺でも、山笠が出て、社長をはじめ職員も参加させていただきました。地域のお祭りは良いですね。

コラム

さて、令和2年度の診療報酬改定の検討の第1ラウンドとして、中医協では3月6日のキックオフから月2回の審議がおこなわれ、医療提供体制、年代別・世代別の課題、地域の中の医療の在り方や、働き方と医療の在り方、ICTの利活用やまちづくり・地域づくりに至るまで、今までになく細かに審議が進められてきました。

7月24日にはその第1ラウンドの審議内容の概要がまとめられており、主な議論は以下の2点になります。
①   患者の疾病構造や受領行動等を意識しつつ、年代別の課題の整理を行う
②   昨今の医療と関連性の高いテーマについて課題の整理を行う

秋からの第2ラウンドでは、従前のように「外来・入院・在宅・歯科・調剤」という個別テーマに分けて議論が行われる予定となっています。この中には、前回改定(2018年度診療報酬改定)の答申時の附帯意見、他の審議会等の議論を踏まえて具体的な議論に入っていくものと思われます。
このような動きを踏めて、今回は、これまでの議論を簡単に整理しておきましょう。

【年代別・世代別の課題】
年代別の課題の整理においては「発達障害児・者や慢性的な疾患をかかえる子供」「働く世代は、働きながら治療ができることが重要であること「高齢者への対応は市町村の取り組み、保険者の取り組み、かかりつけ医の役割についてこれからの各テーマの議論に反映すること、と整理されています。
つまり、地域包括ケアの中で、「地域共生」ということを行政・保険者も含めてしっかり考えていきましょう、ということと考えられます。「地域の中で住み続けることができるか」というところで、それぞれの世代間で考えないといけません。

このことを前提に置きながら、課題の整理を見ていきます。項目は8項目に分かれていました。ポイントになるであろうことをまとめています。

【昨今の医療と関連性の高いテーマについての課題】
(1)  患者・国民に身近な医療の在り方について
病院やクリニックともに、その「役割」をどう考えていくかということになろうかと思います。「入院医療」「外来医療」というだけではなく、「かかりつけ医機能」をどう考えていくのか、ということが大きなポイントになりそうです。
しかしながら一言に「かかりつけ医」といっても、その定義はまだまだ曖昧です。その患者さんの「病気のことだけではなく、背景も含めた生活そのものが相談できるお医者さん」と定義づけし、説明されている方もありました。
前回の改定では、「他の医療機関で服薬している薬剤や治療、介護の状況も理解し、入院時には情報提供する」ということに対し、加算がつくなど、広く患者にかかわる必要が出てきているように思います。その役割が時期改定に向けてさらに議論されるのではないかと感じています。
また、自宅で過ごすためには、「口から食べること」「点滴や吸引等の医療処置を行わなくて済むこと」「薬剤の服薬管理ができること」などが、ポイントになっています。そしてそれは、介護系入所施設の受け入れにも影響しているようです。
クリニックの先生方は、外部の「薬剤師」「歯科医師や歯科衛生士」「管理栄養士」「リハビリの専門職」との連携がとても重要になり、いかにそれを外に向けて発信していくのか、ということがとても重要になるのではないでしょうか?

(2)  働き方改革と医療の在り方について
働き方改革については、働き方関連法の改正もあり「マネジメント」に対する取り組みなど、動き始めています。有給消化や残業の時間数(勤務時間数)の把握など、今まで以上に管理が必要になってくるでしょう。
医療機関では、このための人件費増が見込まれていますので、非効率な医療提供がないか、院内でも見直しを行う必要があるのではないかと思われます。またそれと同時に、医療の質の低下につながらないようにしなければなりません。
このためには、業務の効率化タスク・シフティングが必要で、より専門的な業務に対して徹底できるように、業務改善を進めていくことも必要です。

・調剤薬局・・・医療機関への問い合わせ業務、服薬指導等、
・特定行為研修の終了看護師・・・増加はしているが、現場で活用できていない
・ICTの活用・・・書類作成、研修の受講、会議への参加等、診療以外の業務について合理化
・医師事務作業補助者・・・中小病院で導入ができるように
・地方における民間の中小病院の役割・・・地域医療を支えている場合の評価
・「人員等の配置にかかる要件の見直し」については専従の医師、看護師等の配置要件を弾力的に行えるように見直すことなどが、議論されていますが、どのように合理化と医療の質を確保することを両立するのかが重要になると思います。このためにはチーム医療・複数主治医制等も含め検討が必要となるのではないかと思います。

救急・小児・産科領域については、地域全体での取り組みが重要であり、集約化・重点化が必要とされています。

どのように「地域包括ケア」をすすめていくか、役割分担がさらに進められ、無床クリニックも含めて自医療機関の立ち位置を考えていく必要があり、地域の中での連携・・・これは医療・介護だけではなく、歯科・調剤・地域企業も含めて「どこ」と「どのような」連携をしていくのか、考えておく必要があると思います。

(3)  科学的な根拠に基づく医療技術の評価の在り方について
(略)

(4)  医療におけるICTの利活用について
DtoD(医師と医師同士)及びDtoP(医師と患者)の遠隔診療や情報共有などについて、へき地、山間部だけではなく、働き盛りの方にとっても必要な医療を受けつつ仕事との両立を図ることも重要であるとの認識で、どのように情報提供も含め進めていくのかということは今後議論の中で整理されていくことと思われます。
前回改定で、遠隔診療が条件付きで導入されたというところは大きな一歩だと思っています。今後どのように要件化されるのか、注目していきたいと思います。

(5)  医薬品・医療機器の効率的かつ有効・安全な使用等について
ここでは、「ポリファーマシー」という言葉を覚えておきましょう。
ポリファーマシーとは、薬剤数が多いことにより、有害事象(副作用)やの見間違い、残薬の発生など様々な問題が起こることを指します。
必要な薬剤を確実に飲んでもらうために、どのようなサポート(支援)が必要かという観点が必要だと思います。
昔、病院に勤務していた時に、反応が悪くなったと担ぎ込まれてきた患者様がありました。病院・クリニック3か所からそれぞれに複数の薬剤をもらわれていて、レジ袋を3袋も抱えて入院されていましたが、似たような薬効の薬剤をはじめ、副作用に対して出している薬剤も追加され、それぞれの医療機関から、6~8種類の薬剤が出ており、トータルで45日分程度あったと記憶しています。その中には、胃薬が数種類、向精神薬や眠前薬が数種類、痛み止めも数種類入っており、必要最小限の薬剤のみ残し、整理すると、1週間程度で、意識の混濁した状態も改善し、意欲も出てきて、食事もとれるようになり、退院されるということもありました。明確に記憶はしていませんが、薬剤数は三分の1程度でした。

(6)  地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方について
前回改正の中で「地域包括ケアは町づくり」と言われた先生がいました。
『商店と医療機関、学校がないと、町が寂れていく』ということを聞いたことがあります。高齢者は何らかの体の不調を訴え、医療機関に通われていることが多いと思います。安心して生活し続けるためには、「医療機関」の役割を明確にしていくことはとても大事なことだと思います。
また、この内容は、多職種連携及び地域連携が次の段階(フェーズ)へ進んでいることを指しているのではないかと、感じております。
自院の中で何とかしていく時代は終わっています。これからは、自院の弱いところは、地域の中で強いところと連携していく時代に入っています。このため、自院で何を行い、どことつながっていくのかが非常に重要になってきます。

(7)  介護・障害者福祉サービス等と医療の連携の在り方について
これは、「共生社会に向けた取り組み」について考えていきましょうというところだと思います。
「精神疾患」や「障害児・者」に対し、公的な施策とともに連携をしていくことが大事になります。クリニックの先生方にとって、また、介護保険の事業所様にとって、「精神疾患」や「障害児・者」は、未知のものといってもよいかもしれません。私自身も、制度を十分に理解できているわけではありませんので、これからしっかりと学び、情報提供できるようにしていきたいと思います。

(8)  診療報酬に係る事務の効率化・合理化及び診療報酬の情報の利活用等を見据えた対応について
これは一言でいうと、「レセプト審査の在り方」について検討していきましょうということだと思います。
近い将来、すべての審査を機械化するということもその一つだと思いますが、いずれは、柔整、介護保険など公的保険を使用する請求がボタン一つ(ワンクリックで)突合できる準備が着々と整えられています。
そのぶん、レセプト作成を行う側は、症状詳記等で必要性を訴えていたものがやりにくくなるということもあるでしょう。
約35ページある資料について、本当にざっくりとではございますが、方向性を見ていきました。
この内容については、ぜひ巻末の資料を参照いただき、次期改定について、検討されることをお勧めします。
<参考資料>
〇令和2年度診療報酬改定に向けた議論(1ラウンド)の概要(中医協R1.7.24)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000531114.pdf

〇中央社会保険医療協議会資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html

 

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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