外注先の労働者性

白石 愛理

人事労務

11月は、「過労死等防止啓発月間」ですので、過労死にまつわる判例をご紹介します。

また、前回のコラムdeスタディの記事「救急病棟に勤務する准看護師が発症したくも膜下出血」も過重労働に関連している判例です。併せてご確認ください。

 

今回紹介する判例の特徴です。

業務委託契約を締結して働いていた労働者が、脳幹出血により死亡したのは、T社が安全配慮義務を怠ったことが原因だとして損害賠償請求を行った事案です。

■T建設事件 宇都宮地裁 平成28年9月15日判決

 

【事件の概要】

Kは、T社と業務委託契約を締結し、T社が元請けのH社で現場業務に従事していた。KはH社で倒れているのを発見され、同日、脳幹出血により死亡した。

なお、Kの死亡前6か月間の時間外労働時間数(推定)の平均は81時間であった。

本判決は、Kの労働者性を認め、T社が安全配慮義務違反および死亡との相当因果関係を認め、損害賠償の支払いを認めた。

 

【判断】

(1)労働者性について

「労働者」(労働基準法9条)といえるかは、労務提供の形態(指揮監督下の労働といえるか)や報酬の労務対称性及びこれらに関する諸要素をも勘案して、実質的な使用従属関係が認められるかによって判断すべきものである。

①仕事の依頼に対する諾否の自由の有無

工場現場を特定せず一定期間を定めた契約となっており、工場現場の割り当てを拒否することは困難だったと推測される。

②業務遂行上の指揮監督の有無

Kは高い能力と専門性を有していたことから、業務において大幅な裁量を有していた。しかし、変更があった際には、T社から指示を受けていたため、業務遂行において一定の指揮監督を受けていた。

③拘束性(時間的、場所的管理)の有無

T社は勤務時間を管理しておらず、時間的拘束下にあったとはいえないが、T社に常駐を求められる等、場所的拘束が認められる。

④労務提供の代替性の有無

Kの業務が工期に間に合わなかった際、Kら協力業者はT社に相談して、他の協力業者を増員していたため、実質的に補助者選定の自由はなかった。したがって、労務提供の代替性はない。

⑤報酬の労務対償性

Kの報酬は、約定書に定められた一定の期間の業務に対する対価として支払われていた。

⑥事業者性の有無

T社は、Kら協力業者を「出向者」として定義しており、その業務内容もT社従業員と異なるわけではなく、作業着や名刺を支給して、対外的にT社従業員と同等の位置づけとして扱っていた。

⑦専属性の程度

Kは直近15年の収入源はT社からの報酬によるものであったため専属性が高いといえる。

 

以上によれば、T社は15年以上に渡り、専属的にT社の業務に従事していたKをT社従業員と同じ立場の出向者として位置付けたうえで管理し、T社の場所的拘束の下に業務を従事させており、その報酬も業務の成果ではなく労働の対価としての実質を有することから、KはT社の「労働者」であると認められる。

 

(2)安全配慮義務違反について

T社は、労働時間等を適切に管理してKの心身の健康を守る義務を負っていた。しかし、T社において、Kの労働時間を適切に管理していた事実はなく、心身の健康に配慮していたとは認められず、T社は安全配慮義務違反であったと認められる。

 

(3)相当因果関係の有無について

業務による過重な負荷の有無やそれによる自然経過を超えた欠陥病変等の憎悪、脳幹出血の発症があるか否かを検討すべきである。

厚生労働省が設けている基準によれば、発症2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発祥の関連性が強いと評価されており、本件でも、各月の時間外労働は80時間を超えるものが多い。

また、本件ではKが業務の取りまとめを担っており、休日であっても関連業者からの電話に対応しなければならないなど、Kの業務は心理的負荷が大きいものといえる。

よって、Kの業務と脳幹出血との間には相当因果関係が認められる。

 

【ポイント】

過重労働等を原因として、労働者が脳出血や心疾患等で死亡する、いわゆる過労死が社会問題となっています。

安全配慮義務は、本来、労働契約上の付随義務として発生するものです。本件のような業務委託契約でも、実質的には労働者のように判断される場合もあります。このような事案では、会社に安全配慮義務が発生する前提として、当該個人事業主が「労働者」に該当するか否かが問題となります。

 

「労働者」であるか否かは

①仕事の依頼に対する諾否の自由の有無

②業務遂行上の指揮監督の有無

③拘束性(時間的、場所的管理)の有無

④労務提供の代替性の有無

⑤報酬の労務対償性                     

⑥事業者性の有無

⑦専属性の程度

といった諸要素を総合的に勘案して判断する手法が定着しています。

 

本件と似たような形態の『業務委託契約』がある場合は、上記7つのポイントに基づいて労働者性の見直しを図りつつ、健康状態についても把握するようにしましょう。

 

 

人事労務課

著者紹介

白石 愛理
人事コンサルティング部 労務コンサル課

制作者の直近の記事

コラム一覧に戻る
お問い合わせ

PAGE TOP