【医療介護あれこれ】患者満足につながるコーチングⅡ~コーチングの基本スキル~
長 幸美
アドバイザリー前回は、「医療は感動を与える職業」であるということと、「職員満足(ES)なくして顧客満足(CS)なし」ということの本来の意味と、コミュニケーションの根本は「相手に寄り添うこと」であるということをお話ししました。
今回は、コーチングの基本スキルについてお話ししたいと思います。
コーチングの語源は、「COACH(馬車)」で、「その人の望むところまで、送り届けること」という意味があるとされています。つまり、コーチングは「人は無限の可能性を持っている」「人が必要とする答えはその人の中に眠っている」ということが基本理念になっています。つまり、「人の目標や希望を達成するために、その人の中に眠っている答えを引き出し、自発的行動を促していくコミュニケーション法」といえます。
しかし、すべての人にとってコーチングで効果が出るとは限りません。
初心者に対し、「自分で考えてやってください」といってもどう考えてよいかわかりませんね。入門段階を経て、自分で判断ができるようになって初めて効果が出てきます。
よく似た言葉で、「ティーチング」という言葉がありますが、これは「答えややり方を教え、ヘルプすること」で、新入職員向けの「指導」という意味合いが強くなります。この場合はあらかじめ結果(こうなってほしい、この仕事をこうしてほしいなど)があり、それは教える側が持っているものです。
このため正しく伝え、指導する必要があり、「ティーチング」におけるスキルは
①話す(説明する)、
②聞かせて記録をさせる、
③答えを納得させる
以上3点が必要だと思います。
コーチングには二種類あります。
ひとつ目は「目標達成型コーチング」で、「目標の明確化」を行い、「現状の把握(進捗状況の把握)」をしたうえで、ギャップを埋める方法を考えていくものです。
ふたつ目は、「課題達成型コーチング」で、「現状の明確化」を行い、「解決方法の検討」を行い、「目標の設定」をします。そこから行動計画を立て、ゴールを目指すものです。
例えば、健康管理をするという漠然とした目標の場合は「目標達成型」、5キロ減量などの具体的な課題がある場合は「課題達成型」になります
この場合共通して言えることは、現状を正しく把握し、どうありたいという目標を明確にしていくことです。
このためにとても大切なことが3つあります。それは、「大きな耳」「小さな口」「優しいまなざし」です。皆さん、どういうことか想像してみてください。これはコーチングのコアスキルを言い表しています。
コーチングのコアスキル1「聴くこと」
人は、自分のことを聴いてくれないと、相手のいうことも受け容れられないという特性を持っています。
会話の時には、フラットな状態で先入観なく、相手の話を十分に引き出すことが必要です。このためには、相手に向かい合い(正対)、心を込めて聴くことが必要で、「聴いている」ことをしっかりと相手に伝えることが重要になります。
このためのスキルが、「頷きと相づち」「オウム返し」になります。
暖かい頷きと相づちは「あなたの話をもっと聴かせて」というメッセージになります。
「オウム返し」は、相手の語尾を繰り返すことで、「あなたの話を受け止めています」というメッセージを送ります。
「オウム返し」では単純に語尾を繰り返す場合と、話の内容で少し言い換えて返すことも必要になってきます。なぜなら単純に繰り返した場合、違和感や馬鹿にされたような印象を持つ場合があるからです。意識的に重要なことや相手の言いたいことは何だろうというアンテナを張って、「ここが言いたい」「これが課題」というポイントなどを繰り返したり、話の流れを繰り返したりして、相手の言いたいことをしっかりと聴きだしてあげましょう!
この場合の注意点は、相手の話を途中で遮らないこと、「でも~」「しかし・・・」と反対・批判・説得をしないことです。「渋い顔をする」「眉をひそめる」など、否定的な表情や態度にも気を付けましょう!
コアスキル2「質問すること」
コーチングでは、さまざまな場面で「質問」をして、相手の中の「答え」を引き出していきます。質問の方法には「オープン型」と「クローズ型」があります。
「オープン型質問」には、「ハイ」「イイエ」では答えが完了しない質問の仕方です。「どう思うのか?」「どう考えるのか?」ということを聴くため、相手が自分の言葉で話そうとして、話題や情報が得られやすいものです。
「クローズ型質問」は、「ハイ」「イイエ」で答えが完了するため、会話の発展性は低くなります。しかし、初対面など、関係性が構築できていない場合は有効です。
また、質問をするには「なぜなぜ質問」は効果的ではありません。なぜなら、「相手は否定されている」と感じるからです。
「なぜ、出来なかったの?」「どうして失敗したの?」という言葉が出てくると、相手は責められていると感じ、委縮してしまいます。同じことでも「今は無理でも、どうやったらできると思う?」「今後、どんな行動が必要になると思う?」というと、「未来型・肯定型」の質問になるので、「やってみよう」「考えてみよう」という前向きな思考に転じていきます。
確認することはとても大切なことで、「質問」に答えていくことによってコーチングを受ける側は「考えを整理」して「次のステップを踏み出す」ことができるようになります。
コアスキル3「伝えること」
有効な伝え方のスキルを使って、さらに相手に受け入れやすい言い方ができれば、コミュニケーションは完璧です!
このためには、「枕詞」「承認」「Iメッセージ」が有効です。
「枕詞」とは、接遇用語では「クッション言葉」ともいわれるものです。相手に許可を得るような話し方をすると、非常にスムーズに事が流れていきます。
「今5分お時間よろしいでしょうか」と言われて、「ダメ!」という人も少ないでしょうし、もし急ぎの仕事を抱えている場合は「今、窓口対応中なので、待ってもらえますか?」と伝えることもできます。
次にコーチングでは、承認することを「アクノレッジメント」と言います。これは「褒めること」「存在を認めること」「感謝すること」「仕事を任せること」という意味合いが含まれています。
また、承認には「結果承認」と「事実承認」の二つがあります。
「結果承認」とは、相手が目標=ゴールに達した時に褒めることです。「目標100%達成おめでとう!」というわけで、これは非常にわかりやすいものだと思います。しかし、努力をしても達成できなかった場合もあります。この場合は「事実承認」を行います。つまり、「ゴールに達するまでのプロセスを指摘して認めていくこと」です。一つの成長や成果に目を向けることにより、一つひとつの積み重ねが相手に自信を持たせ、やる気を起こさせるのです。
最後に「Iメッセージ」ですが、相手を褒めるときに、相手が「素直にありがとう」といえる手法です。「あなたは〇〇ですね」と褒める場合は、相手はつい照れて、褒められすぎて居心地が悪いことがあります。「すごいね」「さすが!」が該当しますが、「あなたが頑張っているから、私も頑張れる」といわれたら、どうでしょうか? 素直に「私をそんな風に見てくれているんだ・・・ありがとう」となるのではないでしょうか!?
「Iメッセージ」は自分の存在が周りにいい影響を与えていることや自分の存在価値を確認することができるので、とてもやる気が高まり、心の中に残るものになるのです。
今回、2回にわたり「患者満足につながるコーチング」のセミナーレポートをお届けしました。昨年に引き続き2回目の受講でしたが、あたらめて「コミュニケーションを円滑にするうえでのスキル」であることを感じています。患者満足だけではなく、日常的に活用することによって公私ともに充実した毎日が送れるようになるのではないかと思っています。
経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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