知っておきたい「療養担当規則」あれこれ③~「保険医の診療方針等」から考える注意点~
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
これまで、2回にわたり、療養担当規則とは何ぞやという内容でお話をしてまいりました。
保険診療を行う上での大事な基本的ルールであること、そして、医療機関として記録や一部負担金の受領等、やらなければならないこと(義務)がかかれているものであることについてです。
※見逃した方は、ぜひこちらからご覧くださいませ。
◆知っておきたい「療養担当規則」あれこれ①~そもそも療養担当規則って何?~
◆知っておきたい「療養担当規則」あれこれ②~「しなければならない」ルールを知ろう~
今回は、療養担当規則の第2章を解説していきたいと思います。
この章は、診療の具体的な進め方に関する方針を示したものであり、「何をどのように行うべきか」が記されています。保険医としての基本姿勢が明文化されているといえるでしょう。
目次
「妥当適切な診療」とは?(第12条)
療養担当規則の第12条には、「診療の一般的方針」として、以下のように記載されています。
(診療の一般的方針)
第十二条 保険医の診療は、一般に医師又は歯科医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して、適確な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行われなければならない。
ここで重要なのは、「適確な診断」と「健康の保持増進上妥当適切」というキーワードです。
つまり、日常診療の中で「いつもの病名でいつもの薬」になっていないか、「漫然とした処方」や「根拠のない検査・投薬」が行われていないかが問われているのです。
▶ 査定や個別指導で問題になりやすい例:
| よくあるケース | 指摘されるポイント |
| 毎回同じ薬を処方 | 患者状態の確認が不十分。効果や副作用の評価なし |
| 短期間で同じ検査を繰り返す | 医学的根拠が記録されていない |
| 一律に加算を算定 | 実施内容や理由が記録されていないと「未実施」と判断される |
「診療の進め方と説明の責務」(第13条~15条)
第13条(療養及び指導の基本準則)、第14条及び第15条(指導)では、基本的な診療の進め方について記載されています。
(療養及び指導の基本準則)
第十三条 保険医は、診療に当つては、懇切丁寧を旨とし、療養上必要な事項は理解し易いように指導しなければならない。
(指導)
第十四条 保険医は、診療にあたつては常に医学の立場を堅持して、患者の心身の状態を観察し、心理的な効果をも挙げることができるよう適切な指導をしなければならない。
第十五条 保険医は、患者に対し予防衛生及び環境衛生の思想のかん養に努め、適切な指導をしなければならない。
診療に当たっては、「懇切丁寧」を旨として患者や家族が理解しやすいように丁寧に対応するように、また、その患者の心理的なもの、社会的(予防及び環境衛生)も考慮して療養指導するように導かれているわけですね。
現場でありがちなことかもしれませんが、「じゃ、いつもの薬出しておきますね」や「いつもの検査しときましょうか」ということになると、患者さんにとっては短い時間でお薬がもらえたり、必要な検査を実施してもらえると喜ばれるかもしれませんが、必要な情報が得られているのかどうか?と審査側に疑問を持たれる可能性もあります。
問診の在り方や治療効果を確認すること、そして、懇切丁寧な対応が基本姿勢であることをスタッフ全体で共有しておくことが大事ですね。
■ 第20条「指導は適切に、漫然とした治療を避ける」
第20条では、診療の具体的方針として、以下のように記されています。
さて、皆さん、この第二十条をご覧いただいて何か気が付くことはありませんか?
至るところに「診療上必要があると認められる場合に行う」ということが書かれていますね。
(診療の具体的方針)
第二十条 医師である保険医の診療の具体的方針は、前十二条の規定によるほか、次に掲げるところによるものとする。
一 診察
イ 診察は、特に患者の職業上及び環境上の特性等を顧慮して行う。
ロ 診察を行う場合は、患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならない。
ただし、緊急やむを得ない場合については、この限りではない。
ハ 健康診断は、療養の給付の対象として行つてはならない。
ニ 往診は、診療上必要があると認められる場合に行う。
ホ 各種の検査は、診療上必要があると認められる場合に行う。
ヘ ホによるほか、各種の検査は、研究の目的をもって行つてはならない。
ただし、治験に係る検査については、この限りでない。
二 投薬
イ 投薬は、必要があると認められる場合に行う。
ロ 治療上一剤で足りる場合には一剤を投与し、必要があると認められる場合に二剤以上を投与する。
ハ 同一の投薬は、みだりに反覆せず、症状の経過に応じて投薬の内容を変更する等の考慮をしなけれ
ばならない。
ニ 投薬を行うに当たつては、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
第十四条の四第一項各号に掲げる医薬品(以下「新医薬品等」という。)とその有効成分、分量、
用法、用量、効能及び効果が同一性を有する医薬品として、同法第十四条又は第十九条の二の規定に
よる製造販売の承認(以下「承認」という。)がなされたもの(ただし、同法第十四条の四第一項第二
号に掲げる医薬品並びに新医薬品等に係る承認を受けている者が、当該承認に係る医薬品と有効成
分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一であつてその形状、有効成分の含量又は有効成分以外の
成分若しくはその含量が異なる医薬品に係る承認を受けている場合における当該医薬品を除く。)(以
下「後発医薬品」という。)の使用を考慮するとともに、患者に後発医薬品を選択する機会を提供すること等患者が後発医薬品を選択しやすくするための対応に努めなければならない。
ホ 栄養、安静、運動、職場転換その他療養上の注意を行うことにより、治療の効果を挙げることができると認められる場合は、これらに関し指導を行い、みだりに投薬をしてはならない。
ヘ 投薬量は、予見することができる必要期間に従つたものでなければならない。この場合において、厚生労働大臣が定める内服薬及び外用薬については当該厚生労働大臣が定める内服薬及び外用薬ごとに一回十四日分、三十日分又は九十日分を限度とする。
ト 注射薬は、患者に療養上必要な事項について適切な注意及び指導を行い、厚生労働大臣の定める注射薬に限り投与することができることとし、その投与量は、症状の経過に応じたものでなければならず、厚生労働大臣が定めるものについては当該厚生労働大臣が定めるものごとに一回十四日分、三十日分又は九十日分を限度とする。
三 処方箋の交付
イ 処方箋の使用期間は、交付の日を含めて四日以内とする。ただし、長期の旅行等特殊の事情があると認められる場合は、この限りでない。
ロ イの規定にかかわらず、リフィル処方箋(保険医が診療に基づき、別に厚生労働大臣が定める医薬品以外の医薬品を処方する場合に限り、複数回(三回までに限る。)の使用を認めた処方箋をいう。以下同じ。)の二回目以降の使用期間は、直近の当該リフィル処方箋の使用による前号ヘの必要期間が終了する日の前後七日以内とする。
ハ イ及びロによるほか、処方箋の交付に関しては、前号に定める投薬の例による。ただし、当該処方箋がリフィル処方箋である場合における同号の規定の適用については、同号ヘ中「投薬量」とあるのは、「リフィル処方箋の一回の使用による投薬量及び当該リフィル処方箋の複数回の使用による合計の投薬量」とし、同号ヘ後段の規定は、適用しない。
四 注射
イ 注射は、次に掲げる場合に行う。
(1) 経口投与によつて胃腸障害を起すおそれがあるとき、経口投与をすることができないとき、又は経口投与によつては治療の効果を期待することができないとき。
(2) 特に迅速な治療の効果を期待する必要があるとき。
(3) その他注射によらなければ治療の効果を期待することが困難であるとき。
ロ 注射を行うに当たつては、後発医薬品の使用を考慮するよう努めなければならない。
ハ 内服薬との併用は、これによつて著しく治療の効果を挙げることが明らかな場合又は内服薬の投与だけでは治療の効果を期待することが困難である場合に限つて行う。
ニ 混合注射は、合理的であると認められる場合に行う。
ホ 輸血又は電解質若しくは血液代用剤の補液は、必要があると認められる場合に行う。
五 手術及び処置
イ 手術は、必要があると認められる場合に行う。
ロ 処置は、必要の程度において行う。
六 リハビリテーション
リハビリテーションは、必要があると認められる場合に行う。
六の二 居宅における療養上の管理等
居宅における療養上の管理及び看護は、療養上適切であると認められる場合に行う。
七 入院
イ 入院の指示は、療養上必要があると認められる場合に行う。
ロ 単なる疲労回復、正常分べん又は通院の不便等のための入院の指示は行わない。
ハ 保険医は、患者の負担により、患者に保険医療機関の従業者以外の者による看護を受けさせてはならない。
この診療の具体的方針には色々なことが書かれていることがお分かりいただけたと思います。では「診療上必要があると認められる場合」とはどのような状況を言うのでしょうか?
「診療上必要があると認められる場合」とは・・・?
「診療上必要があると認められる場合」というのは、簡単に言うと、医師が「その治療や検査が、この患者さんにとって本当に必要だ」と判断した場合を指します。
「なんとなく必要」「念のため」[気になるから(心配だから)・・・検査・診察をしてみよう」ではなく、医学的な根拠や患者の状態に基づいた判断であることを求めているということなのです。
例えば・・・
| 医療行為 | 診療上必要とされる具体例 | 注意点 |
| 往 診 | 在宅療養中に、状態が悪化したため医師に連絡 を入れ、診察に来てもらった | 同一症状で2回目以降の往診の場合、 査定される傾向がある (必要性を検討すること) |
| 検 査 | 発熱が続いており、炎症反応や感染症の有無を 確認するための血液検査を実施し、治療を選択 した | 目的と必要性が明確であること (来院の都度、初診全員に実施はNG) |
| 注 射 | 経口薬が効きにくい急性症状で、すぐに効果を 出したいとき | 内服で対応できないか検討したうえで 選択すること |
| 処 置 | 炎症を起こした傷に対して毎日の消毒処置 | 症状の変化に応じて処置継続が 妥当か確認すること |
| 薬の追加 | 高血圧の治療で、1剤ではコントロールできず 2剤目を追加 | 症状に合わせて、副作用等を考慮し 選択すること |
| リハビリ | 骨折後、関節可動域の回復が必要な状態 | 評価し計画的なプログラムがあること 状態に合わせて見直すこと |
| 入 院 | 肺炎で自宅療養が困難な場合の入院治療 | 単なる通院困難や疲労はNGと明記 されている |
上記は、「診療上必要とされる状態」の注意事例ですが、実際に審査・査定等で不適切を指摘され、レセプトの査定・減点が行われた事例を中心にピックアップしてみました。
つまり、医師が診察をして、医療提供が必要かどうか、この治療を継続してもよいか、を判断することを求められているわけですね。
後発医薬品の選択は検討項目
昨年10月からの「長期収載品の選定療養費の制度化」により、一般名処方が注目されることが多くなってきましたが、実は、療養担当規則の中にも、「患者が後発医薬品を選択しやすくするための対応に努めなければならない」と記載されているわけです。さらに、注射を使う場合も、「後発医薬品の使用を考慮するよう努めなければならない」とされています。
これは、適切に医薬品を選択するために後発医薬品についても情報提供をすることが求められているのです。
治療を行う上で「第一選択」は何か?
先生方から、「何回も針を刺すのは患者さんがかわいそうだから、考えられる検査は1回の診療で全部やってあげたほうがいいでしょ?それを保険診療で請求してはいけないの?」と言われることが時折あります。
確かに一度採血をされて、その結果をみて追加、追加と何度も診療に行くたびに採血されると、また痛い採血か・・・といやな顔をされる患者さんもあるかもしれません。けれど、「念のために」や「とりあえず」という状況で、稀少疾患の鑑別診断のための検査を実施するとなると、これは過剰診療といわれて査定されても仕方がないかもしれません。
投薬や注射による治療も同様です。緊急性があって、内服治療を待つことが出来ない状況であれば注射は適正な選択だとされるでしょうが、理由がなく「患者さんの希望で・・・」ということだと、保険診療は如何なものか、といわれてしまいます。
リフィル処方箋
リフィル処方箋とは、慢性疾患などで病状が安定している患者さんについて、医師の判断で、最大3回まで繰り返し使える処方箋のことを指します。令和4年度診療報酬改定で導入され、運用が開始された、まだ新しいものです。
一度に投薬できる日数は通常の処方日数と同じですが、あくまでも「状態が安定している場合に、3回まで」と決められています。これは、高血圧や糖尿病などの慢性疾患患者の通院負担を減らし、治療中段を減らすために考えられ、併せて、医療資源の有効活用(医師の負担軽減、診療時間の効率化など)にも寄与するものとされています。1回目の処方の有効期限は発行から4日以内ですが、2回目・3回目は次回の処方日の前後7日間と決められているなど、細かなルールがあります。
リフィル処方箋は、患者さんの利便性向上と医療の効率化を両立させる制度です。
ただし、医師の責任のもとで適切に運用されることが前提です。事務スタッフの理解とサポートも重要です。
まとめ
第2章「保険医の診療方針等」は、単なる形式的なルールではなく、“患者に正しく、わかりやすく、安全に医療を届けるための姿勢”が記載されている章です。
これらの条文の精神を踏まえると、保険医療機関の保険医として日々の診療で大切にすべきことが見えてきます。
・「漫然」としないこと
・「妥当適切に」診療すること
・「説明し、納得してもらう」こと
・「記録を残し、自分たちを守る」こと
保険医が保険請求する上でのルールであり、査定や返戻は、その姿勢が問われている「結果」にすぎません。
だからこそ、第3回の締めくくりとして、皆様に「療養担当規則」は、守るためのものではなく、「信頼される医療機関」であり続けるための土台になる重要なルールだということをお伝えしたいのです。
<参考資料> 令和7年9月3日確認
■厚生労働省/保険医療機関及び保険医療養担当規則 ⇒(こちら)
■厚生労働省/保険診療における指導・監査 より
⇒保険診療の理解のために(令和7年度)医科 は(こちら)
(歯科)、(薬局)版もあります。ぜひご覧ください。
また、集団的個別指導での説明用スライド資料もありますので、ご活用くださいませ。
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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