接遇の基本「身だしなみ」~“自分を整える”ことは“相手を思う”こと
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
朝、鏡の前で制服のしわを伸ばし、名札をつける。
一見なんでもないこの時間は、じつはその日の仕事に心を向ける大切な準備です。
身だしなみを整えるということは、「今日も患者さんに安心してもらえる自分でいよう」と、心を整えることでもあります。
今回はそんな「身だしなみ」について考えてみたいと思います。
目次
身だしなみはその人の「心」を表すもの
医療現場では、服装や髪型、名札の位置までが“役割”を伝えるサインです。
患者さんは、私たちの白衣や制服を見て、「この人は専門職として信頼できる」と感じます。
逆に、髪が乱れていたり、名札が裏返っていたりすると、“仕事の丁寧さ”にまで影響して見えてしまうことがあります。
あるクリニックの受付での話です。
新人職員の名札が反対向きになっており、来院した患者さんがこう言いました。
「お名前、見えなくて話しかけにくかったわ」
本人に悪気はなくても、“整っていない”という印象を与えてしまう・・・。ほんの少しのことでも、受け取る側の印象は大きく変わるのです。
だからこそ、身だしなみは「自分のため」ではなく、「相手の安心のため」に整えることが必要なのです。それが医療職の「職責」の一部と考えらる所以だと思います。
「おしゃれ」と「身だしなみ」
ある医療機関の看護師長さんが、ため息まじりに話してくださいました。
「新入職員が制服合わせの時に金髪で来て、まつエクまでしていてびっくりしたわ。
別の日には、病棟の主任が派手なネイルで出勤してきて……本当にどう指導したらいいのかしら。」
また、別の日にはこんな出来事もありました。
「相談室に案内した後に、患者さんの具合が急に悪くなってしまったことが有り、原因を探していました。 後にわかった理由を聴いてみたところ、香水か柔軟剤かはっきりとしませんが、香りがこもってしまい気分が悪くなったようでした。」
どちらの件も、担当した人に後日注意をすると、
「学生時代は出来なくて、卒業したからもう自由だと思った。」
「主任も「可愛いネイルでしょ? ネイルをきれいにしているとテンション上がるわ!」
「いい香りでしょう!」
等の意見を言われたらしく、驚かれたそうです。相手のことより自分のことしか考えてないのはどうしたものかしら、と頭を抱えておられました。
おしゃれを楽しむことと、身だしなみを整えることは違います。
金髪やネイルも、まつエクも、香りをつけることのどれも、おしゃれを楽しむという視点では、けっして悪いことではありません。
しかしながら、医療現場で求められるのは「患者さんに安心してもらうための姿」です。
ここで少し立ち止まって考えてみましょう。
「そのネイルやアクセサリーは、この職場での仕事をするうえで本当に必要でしょうか?」
おしゃれは「自分を楽しむもの」、そして、身だしなみは「相手に信頼感を与えるもの」です。
ネイルの輝きよりも「清潔に動ける手」、香りよりも「体調の悪い患者さんへの配慮」。
そのほうが、医療人としてずっと価値があるのです。
身だしなみを整えるとは何でしょう?
身だしなみを整えるということは、
「私はこの職場で、どんな立場で、誰のために働くのか」を自覚し、
それを第三者にも伝えることです。もちろん自分のために働くことに違いはありませんが、
そこには患者さんを想い、貢献したい、地域のために働こうという気持ちがあるのではないかと思います。それはまぎれもなく、プロとしての姿勢そのものだと感じます。
たとえば――
・お化粧は、健康そうに見えていますか? 疲れた印象になっていませんか?
・髪の毛は、まとめていますか? 処置のときに邪魔になっていませんか?
・爪は、患者さんの皮膚を傷つけていませんか?
・制服は、きれいに洗濯され、しわになった個所はありませんか?
身だしなみの評価をするのは「第三者」
「これくらいなら大丈夫」と思っても、他の人から見ると「気になる」「だらしなく見える」ということがあります。
その身だしなみで「え?この人に処置してもらうの?」と不安になる方があるかもしれません。
身だしなみとは、「自分がどう思うか」ではなく、「どう見られているか」の世界です。
従ってその基準は、「自分」ではなく、「周囲の人や患者さんの目線」にあります。
「誰が見ても清潔」「誰が見ても安心」
この視点で見直してみるだけで、職場全体の印象はぐっと整ってきます。
身だしなみの乱れは「心の乱れ」
身だしなみが乱れているとき、それは疲れやストレス、気持ちの余裕のなさを映していることがあります。
たとえばこんな場合はどうでしょう
・いつもはきちんとしている人が髪をまとめずに出勤して来た
・化粧をする時間もないのか素顔のままで来た
そんなときこそ、アドバイスの言葉をかけてみましょう。
「どうしたの?いつもと違うみたいだけど疲れてない?」と声をかけるチャンスです。
注意ではなく、思いやりの言葉で支えることが、職場の温かさにつながります。
身だしなみは「ハラスメント防止の第一歩」
また、ハラスメント防止の観点からも、身だしなみは重要です。
ある元警察官の方は、警察を退官され病院勤務となった今でも、真夏であろうときちんとネクタイを締め、毎日アイロンをかけたシャツで、出勤されるそうです。
その方に理由を尋ねてみました。
「身だしなみは、自分の職務への信頼を守るため。隙は見せられないのです。」
その言葉に、職業人としての覚悟を感じました。
自衛隊の学校でも、まず教えられるのは、自室の片づけと身だしなみ(アイロンがけ)ということをテレビで見ましたが、自分自身を律するため、また、相手に敬意を表し、心の弱い部分につけ込むすきを与えないために、身だしなみはとても重要なのだという話をお聞きして、納得しました。
過度な露出や香りは、意図せず相手を不快にさせたり、誤解を招くことがあります。
「清潔で落ち着いた印象を保つ」ことは、相手への敬意であると同時に、自分を守るマナーでもあるのですね。
おわりに
身だしなみは、単に“見た目”を整えることではありません。
それは、自分の心と向き合い、「今日もきちんと向き合おう」という気持ちを形にすることです。
髪を整え、名札をつける。その一つひとつの動作が、プロとしての意識を思い出させてくれます。
そしてその姿勢は、患者さんだけでなく、一緒に働く仲間にも安心を与えます。
清潔で落ち着いた身だしなみは、「あなたを大切に思っています」という無言のメッセージではないでしょうか。
私たちは毎日、たくさんの人の不安や痛みと向き合っています。だからこそ、まず自分の心と姿を整えて臨むことが大切です。
今日も鏡の前で制服を整えながら、
「私はこの職場の一員として、安心を届ける存在でありたい」
そんな気持ちをもう一度、胸に刻みたいですね。
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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