接遇レッスン~医療機関のお悩み②~注意しあえる職場環境を作るには・・・?
長 幸美
医療介護あれこれ働きやすい職場環境を作りたい!
一言で「働きやすい職場環境」といっても、漠然としていますよね。どんな職場が良いのでしょうか?
・仲良しこよしで職員同士がお友達のような関係が良いのでしょうか?
・職員が「こうしたい」ということを全てかなえてあげることが大事なのでしょうか?
・お給料や手当を十分に支給すると、それで職員は満足するのでしょうか?
それとも・・・
おそらくどの医療機関の事務長も悩まれているのではないでしょうか?
何故ならば、働きやすい職場はそんなに簡単にできるものではないからです。今日は良いコミュニケーションをとり、注意しあえる職場環境をどう作っていくか、皆さんと一緒に考えていきましょう!
目次
どんな職場環境で働きたいか?
職場環境とは、照明や温度といった室内環境、仕事量や仕事のしやすさなど仕事の負荷や自由度、上司や部署内での人間関係など、労働者を取り巻く環境のことを言います。
仕事をする環境として、快適かどうか、そして、お互いの人間関係がとても大事になります。
仕事をする中で、自分の思い通りにならないことはたくさんあります。
例えば・・・
・時間通りに終われないとき・・・患者さんが多くて時間外勤務が多いから
・職種間で、うまくコミュニケーションが取れない・・・看護師さんから言われると何も言えない
・〇〇さんの言い方がきつくて、怖い。何か聞こうとしても「説明したよね」と教えてくれない。
・お休みが取りにくい。
職場環境の改善は給料の高さやきれいなオフィスだけではない!
「うちのクリニックは近隣より給与水準は高く設定している」「オフィスはキレイ、整理整頓もできていて衛生的にも問題ない」そんな風に職場環境を整えたと思っていても、人材が定着しない、退職者が増加するなどの問題が起こる医療機関はたくさんあります。
それはどうしてでしょうか?
最近は職員さんにいろいろと話をお聞きしてみると、「やりがい」や「役に立ちたい」という思いが強く、自分自身がどんな役割を担えるか? この職場で何ができるか?ということなどを大事に考えておられることが見えてきます。
また、困った時に相談しやすい環境があるかは重要な点のようです・・・先ほどの例のように、自分の思い通りにならないときや、患者さんが多くて時間外勤務が多いという不満を聞きます。内容を具体的にお聞きすると、「保育園のお迎えの時間」や「親御さんの介護をしている」というような職員個人の事情が見えてきます。家族の発熱などで急にお休みをもらわなくてはならない事情を相談した時に「え?!」っという表情をされたことで「この職場はお休みも取りにくい」「私のことでほかの職員に迷惑ばかりかけて、いやな顔をされるのでここでは働けない」と感じる職員さんの声を聴くことが多くあります。
この声から判断すると安心して仕事をすることができるか?が問題とされているようです・・・詰まる所人間関係がとても重要になってくるのではないでしょうか。
職員間の人間関係
職場の人間関係・・・単に職員間が仲がいい・・・というだけではありません。
先生からも、「職員同士が仲が良いのはいいのだけれど、何となく緊張感がなくて・・・」というご相談も受けます。逆に、一人の職員がいることでピリㇼと引き締まる雰囲気が好きだけれど、職員からは、「○○さんが怖い」ということを言われどうしたものか・・・?
というご相談を受けることもよくあります。
最近の学生さんたちのアンケート調査で、「指摘されること」に対しネガティブな印象を持ち、人格否定されたと勘違いされる方は少なくありません。
私は今、大学の非常勤講師としての役割を持っていますが、「私は注意されたり、指摘されたりしたくありません!」と堂々と発言される学生も増えているなと思います。
・・・だったら言われないように考えて行動しようか!?と考えてしまうのは、私が昭和世代なのか(笑)だからと言って注意せずにそのまま放置することはできませんし、何となく腫れ物に触るような状況になりがちです。
このような意見を持った職員の場合、はじめに、どんなクリニックにしたいのか(理念)、だからあなたたち職員にはどのような気遣いや動き(働き)をしてもらいたいのか(行動指針)、注意するのは個人的感情ではなく、クリニックをよくするための「役割」だから自分の行動を見直してみてね・・・というようなことを、話をして、時々ミーティングを行い継続して働き方の意義を確認していくことが必要だと思います。
現在の教育は伴走型
少子高齢化に伴い、経済産業省では、働き方改革や業務改善の目的は単なる時間の削減ではなく、その先にあるゆとりや充実を通して人間力の向上が大事であることを説かれています。そのためには学校教育においては「教育の質の向上」を図ることが大事であり、教育現場も「管理(指導)」から「支援型」へそして「伴走型」へとシフトされています。
「伴走型」は、ブラインドランナーを誘導する人(ガイドランナー)が語源であるといわれています。パラオリンピック等の協議の中で、選手と一緒に走るランナーのことです。
答え(方法)を教える「課題解決」とは違い、それぞれに目標(課題・学びの目的)があり、自立的に目標を達成できるように環境を整え支援すること・・・つまりコーチング的なかかわりへとシフトしてきているといえると思います。
このような教育を受けてきた方々が、「これをこうして」「そのやり方ではだめ」「何言ってるの?」「前に教えたよね!」「はぁ(溜息)・・・」といわれてしまうと・・・結果は想像がつきますよね。
心理的安全性とは?
ここで「心理的安全性」ということを見ておきたいと思います。
「心理的安全性」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことを指していますが、案外勘違いされていることが多いようです。
単にぬるま湯的な組織ではなく、組織/チームの誰もが、地位や経験に関わらず、素直に意見や素朴な疑問を聴くことができる状態であり、意見や疑問を発信しても否定されず、その後の関係について悪化しない状態であります。この状態を持続することは簡単なようでとても難しいものです。
例えば、「メンバーからの意見が出てこない」ということや、「退職者が後を絶たない」「メンバーはどうも自身の問題として感じていない」ということを感じられたらどうでしょう・・・
もしかしたら、職場の心理的安全性が保たれていないのかもしれません。
心理的安全性の4つの因子
最近テレビを見ていても、業界を問わず、「従業員のエンゲージメント(会社への愛着)を高める」ことや「ウエルビーイング(幸せ)を求める」という言葉が出てきます。これまでのように仕事は収入を得るために我慢して行うものではなく、「働くこと」を楽しんで、個人が生き生きと働くことで、組織が活性化し人材が定着してより良い仕事(パフォーマンス)ができる良い組織に成長していくことができる、と考えられています。
この「心理的安全性」を高めるために必要な因子が4つあるといわれています。
①話しやすさ、②助け合い、③挑戦すること、④新奇歓迎、といわれるものです。
始めの①②③についてはなんとなく理解できるのではないかと思います。
誰もは最初は「初めて」でうまくいかないこともあると思います。③挑戦できる環境は、失敗を恐れず挑戦できる環境と考えると、自分自身が成長していくことができる環境といえますよね。
そして、④番目の「新奇歓迎」については、この心理的安全性の4つの因子の中で、とても大事な要素になっているように思います。
「新奇歓迎」とは、個性や多様性を尊重し、新しいアイデアや変化を積極的に受け入れること、とあります。職場の中で、年齢や立場に関係なく、さまざまな人を受け入れることによりメンバーの強みや個性が発揮され、多様な視点からの意見やアイデアが生まれやすくなるとも考えられています。
心理的安全性を阻害する要因は?
安心して相談したり、助け合ったり、「やってみよう!」と行動に起こせたり・・・何よりも多様性の中で思いついたアイデアや変化を話することができる環境は、やる気もモチベーションもアップします。では最初に述べたような「意見が出ない」職場ではどのような状況が起こっているのでしょうか?
「分からない」ことがあっても、分からないことを言うことができないことがあります。それは、「え?知らないの?」「分からないってどういうこと?」と、他の方に無知であると思われたくない・・・ということがもとにあるのではないでしょうか? これは「無能だ」「出来ない人」と思われたくないという思いが原因だと考えられます。
「反対意見」があっても、不安があって話ができない状況は、「ネガティブな人間だと思われたくない」「邪魔だと思われたくない」という思い・・・自分をよく見せたい、面倒に巻き込まれたくないという思いがあったのではないでしょうか?
注意しあえる職場を作るためには・・・?
分からないことを分からないといってもバカにされたり、笑われたりしない・・・そして、思いついた提案をしても、しっかりと話を聴いてくれる職場や、困った状態や失敗した時に「失敗した!」といっても、そのあとの対処を一緒に相談し考えてくれる職場だと、安心して相談することもできますね。
まあ、「失敗しました!」と報告したときには、「何をやってるんだ!」ということくらいは言われると思いますが、その後、どうしたら挽回できるのか、一緒に考えてくれると思います。
それと同様に、チームメンバーに対し、それぞれが「ひとりの人」として受け入れ、尊重する姿勢を持つこと・・・つまり、チームメンバーを「人」として認めていくことが大事になってきます。
具体的には、
①挨拶やメールなど、無視しないこと
②忙しい時に話しかけられても、邪険にしない・・・笑顔で応対する
③相手の目を見て話をする・・・ながら応対をしない
④反対意見を言われても、注意されても不機嫌な応対をしない
⑤どんな時でも、相手のことを興味を持って受け入れる・・・馬鹿にしない
私自身と考えが異なることは、ある意味当たり前です。なぜならば、育ってきた環境が違うからです。しかしながら、私自身が「すべて、完璧にできる」わけではありません。私に出来ないことがたくさんあります。
そう考えたら、周りの皆さんに出来ないことを私がやって・・・私が出来ないことを得意な人にお願いして・・・お互い様だと思えるようになるのではないでしょうか?
そういった関係を大事にしていきたい・・・と思います。
このお互い様の精神で関係を築くためには、自分自身を認めること(受容すること)がとても大事になると思います。それには良いところも悪いところも含めて、私自身を知ることから始めることです。
自分自身を知らなければ、相手のことも認めていくことができないと思うからです。
そしてチームメンバーに対しても、出来ない自分を出していくことで、お互いにサポートできるチームができていくのではないかと感じています。お互いに注意しあえる環境、働きやすい環境は、心理的安全性が高い環境でしょう。言われたことに対し非難されたり仲間外れにされたり、陰口をたたかれたりしない環境が大事になると思うのです。皆さんはどのようにお感じになりましたか?
何となく人間関係がうまくいかないなあ~と思われている先生方、リーダーの皆様、職員間の関係性に疑問を持たれているときは院内や部署内の働く環境の一つとして、見直してみられては如何でしょうか?
2024年12月25日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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