接遇レッスン~医療機関のお悩み③~ハラスメント編「ペイシェントハラスメント」~
長 幸美
医療介護あれこれ医療機関のお悩みでよく聞かれるのが、ハラスメントの問題です。セクシャルハラスメントに始まり、パワーハラスメント、マタニティハラスメント、そしてモンスターペイシェントの対応など、多岐にわたるハラスメントがあり、先生方や先輩のほうが不安感がつよくなり、どう対処したらいいかわからない、と悩まれている声を聴きます。
今回は、日本医療マネジメント学会でも取り上げられていた「ペイシェントハラスメント」について考えてみたいと思います。
目次
ペイシェントハラスメントとは・・・?
ペイシェントハラスメントとは、医療従事者が患者さん(ペイシェント)やその家族から受ける暴言や暴力・セクハラ・治療費未払い等の迷惑行為のことを指して言います。
そして、ハラスメントに対するマネジメント(ペイシェントマネジメント)は、現代の医療機関にとって、診療を妨げる問題として大きく取り上げられています。
厚生労働省の調査では、医師が診療を行う上で、約7割の医師がこのようなハラスメントを経験したことがあると回答しているという結果もあります。
どのような行為(被害)が多いのだろう?
一番多いのは、暴言・怒鳴る・脅しなどの言葉によるものが多く、診察室や相談室だけでなく、窓口や電話によるもの等も多いようです。次には迷惑行為・・・居座りや電話等による拘束や暴力行為(どつく、数名で取り囲んで脅す)などが多いようです。また、最近では、SNSによる迷惑行為や隠し撮りの拡散など、問題が大きく広がってきています。
理不尽なことで、謝罪を求められたり、慰謝料をもとめられたり、言葉の暴力を浴びることで、診療現場が疲弊していることが想像できます。
もとはといえば・・・?
1900年代後半、「白い巨塔」という小説が反響を呼び、大学病院の医局や教授に診療してもらうことがステータスになっていた時代を経て、病院や「お医者様」は絶対で、大きな病院の権威のある先生に診てもらうのが自慢だったことがありました。3時間待ちの3分診療と揶揄されていたのを覚えています。その後、いつのころからか「医療はサービス業だ」といわれ、「患者さま」とお呼びする時代がありました。そもそも「医療接遇」が大事ということが言われ始めたときに丁寧に呼びかける・・・ということで、「~~さま」という言い方をする医療機関が増えてきたように記憶しています。
そして「医療事故訴訟」等を背景に、「患者の知る権利」や「自己決定権」、「セカンドオピニオンを受ける権利」などが注目されるようになりました。
患者さんの権利と責務
1981年9月に第34回WMA総会(THE WORLD MEDICAL ASSOCIATION)において「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」が採択されました。これは簡単にいうと、適正な医療を受けるために認められている権利と説明することができると思います。興味がある方は下記をご確認ください。
リスボン宣言については、日本医師会が訳している文書が公開されています。
⇒患者の権利に関する WMA リスボン宣言(1995年9月_日本医師会訳)
この中で、インフォームドコンセントを受ける権利や治療等を自己決定する権利、情報を得る(説明を受ける)権利、守秘義務に対する権利など、患者さんが持っている「11の権利」がうたわれています。
これを受け、特に病院では自院の方針(指針)としてホームぺージに掲載したりロビーに掲示したりしている医療機関が増えたという背景があります。
しかしながら、権利ばかりでなく、患者さん側にも、「責任」が伴ってくるわけです。
円滑な診療や看護の遂行のため、患者さんの情報に関して提供してもらうことや検査や治療に関して協力することです。生活習慣病の方は治療の一環として、食事療養や運動療法など、患者本人も努力しないといけません。食品アレルギーがある場合など、その食品を摂取しないようにすることも必要です。薬剤のアレルギーについても過去のアレルギー反応があったことなどを正確に伝えていただかないと、同じ薬品を使ってアナフィラキシーショックを起こす可能性もあります。
そして、他の患者さんの治療や療養に支障を与えないようにする責任も、患者さん同士が共有して協力していただかないと安心して医療が受けられない・・・ということにもなります。
この「権利と責務」ということはやんわりと患者さんに伝えて、協力していただくようにする工夫が必要になります。
接遇とペイシェントハラスメント対応
さて、接遇の視点から見たペイシェントハラスメント対応を考えていきたいと思います。
身だしなみ
医療機関では、資格(役割)ごとにユニフォームが定められています。皆さんはユニフォームをすっきりと着用されていますか? 身だしなみの乱れは心の乱れとも言われます。
決められたユニフォームを着用し役割に応じた身だしなみを整えることで、「心の隙」を見せないようにすることができます。無理を言う相手はこの「隙」に入り込んでくるところがあるので注意が必要です。
以前、ある大学病院のハラスメント対策室の担当者にお話しを伺ったことがありますが、しわひとつない、折り目正しい身だしなみの方には、なかなか難癖をつけにくいとのことです。
敬語
敬語は、相手を敬い尊敬の念、大事にしていることを伝えるためのコミュニケーションツールです。
初対面の方に対し「タメ口(友達言葉)」で狎れなれしく話しかけてくる看護師さんや事務職員さんを見かけることがあります。患者さんとの距離を縮めることがコミュニケーションの近道・・・と勘違いされているようですが、決してそのようなことはありません。
その狎れなれしさは要注意です。言葉の崩れは隙を見せることになります!
何故ならば、そのまるで友達のような狎れなれしさが「何を言ってもいい!」ということを暗に伝えていることにもなるからです。それが隙になります。
難しい謙譲語や尊敬語などを駆使して使いこなしてくださいというのではありません。
丁寧な言葉で対応するようにしましょう!
挨拶
挨拶はコミュニケーションの第一歩といいます。
「あなたのことを気付いていますよ、認めていますよ」ということを伝えることでもあります。
同時に「あなたの行動を見ていますよ」という牽制にもなるそうです。
何か不満がある方であっても、挨拶の声をかけることで、ちょっとした変化に気付くこともでき、ハラスメントに発展させずに済む・・・ということも期待できるかもしれません。
機械的に「おはようございま~す」「お大事に~」と言っていては気付かないかもしれません。
何故ならば、その方のことを見ていないからです。
せっかく挨拶をするのですから、「どうなさいましたか?」という気持ちを込めて、しっかりと目を見て挨拶してみましょう!
思い込みはよくない!
「この人はわかっているから、大丈夫!」「この場合は~~のはず!」・・・と考えがちですが、それはチョッと危険です。心の中でどのように感じているかは、人それぞれです。同じことを伝えたとしても、言い方やその時の話をする態度により、受け取り方は変わってきます。
また、不満がある方は、黙って去っていくタイプと主張できるタイプの方があると思います。
どちらが良くて、どちらが悪いというわけではなく、いずれも、医療機関にとってはマイナスになります。事実確認をしつつ、同僚・先輩や部署長と報告・連絡・相談する癖付けも必要だと思います。
ま と め
さて、今回、ハラスメント編として「ペイシェントハラスメント対応」を接遇の視点から見てきました。しかしながら接遇面を強化してもハラスメント対応をすべてできるとは限りません。
ペイシェントハラスメントは違法行為であることも多々あります。この為、法的な手段をとらざるを得ない場合も出てきます。
まずは警察との連携や弁護士への相談など、情報交換を行い、困った事例があった場合の対処法を事前に相談しておくなど、連携を密にすることも大事だと思います。同時にどのような行為をハラスメントとするか、院内で共有できる基準が必要でしょうし、その情報が集約できる窓口があったほうが良いと思います。また、どのような行為があったら通報するか、ということもその中で話を詰めておかれる方が良いと思います。
クレーム対応は複数名で行うことや、記録の取り方など、ぜひ院内で話をしてみてください。
また、対応者は周りが想像する以上に心理的にダメージを受けています。
対応者が相談できる窓口や上司の方のサポートがとても大事になってきます。併せて院内でご検討いただけるとよいのではないかと思います。
2024年9月6日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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