令和6年度診療報酬改定~先発医薬品をもらうとお薬代が増える?~長期収載品の選定療養について

長 幸美

医療介護あれこれ

令和6年度診療報酬改定では、創薬力強化に向けて、革新的な医薬品等の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うことを目的として、長期収載品の保険給付の在り方の見直しが行われました。このことにより、令和6年10月1日より、長期収載品の処方等又は調剤について選定療養の仕組みを導入する・・・つまり患者さんの負担が増えることになったのです!

・・・といっても、何のことやら??? という方も多いと思います。今回のコラムでは、この内容を解説したいと思います。

厚生労働省/令和年度診療報酬改定説明会資料(R6.3.5)より

長期収載品ってなぁに?

そもそも「長期収載品」とは、どのようなものでしょうか?
簡単に言ってしまうと「後発医薬品」のある「先発医薬品」のことです。

そもそも「先発医薬品」とは、最初に開発・承認・発売された医薬品のことです。つまり「新薬」ですね。新薬を開発したメーカーには、特許権が与えられ、20~25年の特許期間中は、その医薬品を独占的に製造・販売することができます。
この「先発医薬品」に対し、上記新薬の成分特許が満了した後に、厚生労働省の承認のもと他の医薬品メーカーが製造・販売する同一の有効成分の医薬品のことを「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」といいます。一般的には、「先発医薬品」に比べ、「後発医薬品」の方が薬価が安く設定されています。

「長期収載品」とは、昭和42年9月以前の薬事法(現在の医薬品医療機器等法)の規定により製造の承認がされた医薬品であって、「後発医薬品」がある「先発医薬品」を指しています。

「長期収載品」になるとお薬の負担金が増える?

今回の改定で、大きく制度として変わったのが、「長期収載品の選定療養費」の制度化です。
この「後発医薬品がある先発医薬品」の処方に対し、一部患者さんに自費の負担をしてもらおう、というのが「長期収載品の選定療養なのです。

平たく言うと、安価な「後発医薬品」があるのにも関わらず、患者さんの自由選択により「長期収載品(先発医薬品)」を選んだ場合は、一部特別な料金(選定療養費)をもらいましょう・・・ということになり、あくまでも患者さんの選択によるものであるという考え方です。

このため、診療所をはじめ医療機関では、処方箋で「銘柄を指定した処方」を行う場合に、医師の判断として「変更不可(医療上必要)」かどうかを判断し、チェックを入れる必要があります。

今回の制度の対象となる医薬品は?

この制度の対象となる医薬品は、次の①又は②の要件を満たす医薬品であって、当該長期収載品の薬価が、当該長期収載品の後発医薬品(組成、剤形及び規格が同一であるものに限る)のうち最も薬価が高いものの薬価を超えているもの(つまり価格差があるもの)であること、とされています。

① 当該長期収載品に係る後発医薬品が初めて薬価基準に収載された日の属する月の翌月の初日から起算して5年を経過した長期収載品(バイオ医薬品を除く。)
② 当該長期収載品に係る後発医薬品が初めて薬価基準に収載された日の属する月の翌月の初日から起算して5年を経過しない長期収載品であって、当該長期収載品に係る後発医薬品の数量を、当該長期収載品に係る後発医薬品の数量に当該長期収載品の数量を加えて得た数で除して得た数(以下「後発品置換え率」という。)が 50%以上であるもの(バイオ医薬品を除く。)

厚生労働省/「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について(保医発0327第10号令和6年3月27日)

ただし、上記①に該当する医薬品であっても、保険医療機関や当該保険薬局において「後発医薬品」を提供することが困難な場合には、選定療養の対象外とすることを踏まえ、後発医薬品の置き換え率が極めて低い長期収載品は対象外とすることなどが定められています。
これは、後発医薬品置換え率が1%未満の長期収載品のことを指すこととされています。

長期収載品の具体的な品目は?

令和6年4月19日の事務連絡において、「長期収載品の処方等又は調剤にかかる選定療養の対象医薬品について」という事務連絡が出され、リストが公開されました。自院で処方する薬剤が、該当薬剤にないかどうか、一度チェックしてみることをお勧めします。
(末尾の参考資料に掲載されているWebサイト(特設サイト)のURLを掲載しています)

 ※令和6年4月19日の事務連絡は(こちら)

選定療養とは?

特定療養費とは、日本の公的医療保険の被保険者が保険の適用範囲外の療養を受けた場合に、一定のルールの下で保険外診療との併用を認める制度です。1984年11月1日の健康保険法等の改正法施行により、新しい医療技術の出現や、患者のニーズの多様化に適切に対応すべく導入されました。
簡単に言うと、患者さんの選択(自由意志)により保険診療を行いながらも自費診療が認められたもので、個室料(差額ベッド代)や大病院の初診・再診料などがあります。

「同じ成分、同じ効能効果で、価格が安い後発品」があるにも関わらず、あえて高額な長期収載品(先発医薬品」を選択する患者さんには、差額の一部を特別料金(選定療養)として負担してもらう、という考え方で、長期収載品と後発医薬品との価格差の一部を保険給付から除外し、選定療養として患者さんが実費で支払うという仕組みです。

負担がどのくらい増えるのでしょうか?

患者さんの負担金額は、長期収載品(先発医薬品)と最も高い後発医薬品との価格差額の「4分の1」を保険点数から控除して自費で患者さんが負担する(一部特別料金とする)とされています。
ちょっとややこしいですね。

<計算式>
  特別の料金=「長期収載品の薬価ー最も高い後発品の薬価」×4分の1×10円×消費税

保険外併用療養費の支給額は、所定点数から次に掲げる点数を控除した点数に、当該療養に係る医薬品の薬価から、先発医薬品の薬価から当該先発医薬品の後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価を控除して得た価格に四分の一を乗じて得た価格を控除して得た価格を用いて次の各区分の例により算定した点数を加えた点数をもとに計算されるものである。
 ① 別表第一区分番号C200に掲げる薬剤
 ② 別表第一区分番号F200に掲げる薬剤
 ③ 別表第一区分番号G100に掲げる薬剤
 ④ 別表第二区分番号F200に掲げる薬剤
 ⑤ 別表第二区分番号G100に掲げる薬剤
 ⑥ 別表第三区分番号20に掲げる使用薬剤料

厚生労働省/「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について(保医発0327第10号令和6年3月27日)

例えば、先発医薬品が1錠200円で、いくつかある後発医薬品のうち、最も高いものが、1錠100円だった場合、その差額の4分の1なので、保険診療分に加え
(200円ー100円)×1/4=25円/錠・・・この金額が患者さんの選定療養として実費請求になります。
もちろん1錠だけということではないと思いますので、1日3錠30日分になると、相当な金額になりますよね。
また、選定療養費は医療給付ではないため、消費税の対象にもなることは注意が必要です。

医療機関・保険薬局に掲示要件がある!

患者さんから「選定療養費」をいただくということになるわけですので、院内に本制度の主旨や特別の料金(選定療養費)について、院内の見やすい場所にわかりやすく掲示しておかなければなりません。

長期収載品の処方等又は調剤を行おうとする保険医療機関又は保険薬局は、本制度の主旨を患者に適切に情報提供する観点から、本制度の趣旨及び特別の料金について院内の見やすい場所に患者にとって分かりやすく掲示しておかなければならないこと。
また、当該掲示事項について、原則として、ウェブサイトに掲載しなければならないものとすること。ただし、自ら管理するホームページ等を有しない保険医療機関又は保険薬局については、この限りではない。なお、ウェブサイトへの掲載について、令和7年5月 31 日までの間、経過措置を設けている。

厚生労働省/「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について(保医発0327第10号令和6年3月27日)

院内に掲示をするということは、窓口で説明を求められたときに説明をしないといけません。
掲示に当たっては、ホームページを持たない医療機関や調剤薬局はウェブサイトへの掲載はしなくてもよいとされています。10月に向けて準備していきましょう。

患者さんへの説明

処方する医師は、選定療養にかかる処方にあたり、「後発医薬品が選択可能であること」「長期収載品を患者が希望した場合には特別の料金が生じる」ということについて、説明する必要があります。

また調剤薬局でも、薬剤師は調剤時に同様の事項を説明し、患者の希望を確認する必要があります。

処方箋の変更

今回の改定により、処方箋の「変更不可」欄に「医療上の必要」欄が追加となりました。

厚生労働省/保険医療機関及び保険医療養担当規則の一部改正(R6.3.5)より

これまでと同様に、院内・院外処方を問わず、「医療上必要があると認められる場合」又は「後発医薬品を提供することが困難な場合」は保険給付されることになりますが、それ以外の場合に、長期収載品を希望する場合は選定療養の対象となります。

患者さんの希望を踏まえて長期収載品を銘柄処方する場合は、医薬品ごとに「患者希望」欄にチェックを入れることになります。医師が「医療上必要がある」と判断した場合は「患者希望」欄には何もチェックを入れません。選定療養になるかどうかを処方箋上でも明確にすることになります。
また、一般名処方を行う場合は、「変更不可(医療上必要)」欄も「患者希望」欄もいずれもチェックを入れずに処方することになります。

まとめ

この長期収載品の選定療養費ですが、後発医薬品の利用促進を進めていく観点から、「当該特別料金(選定療養費)」については、徴収しなければならない、とされています。これは医療機関や調剤薬局の判断で、割引したり、徴収しないなど、便宜を図ることは禁止するということです。領収書にも、明確に区別をすることが求められていますので、レセコンのベンダーさんとも打ち合わせをする必要があるでしょう。

また、一般名処方をしていた場合であっても、患者さんが自ら調剤薬局で「長期収載品(先発医薬品)」を希望された場合、同様に自費負担が発生してきます。
調剤薬局で後発医薬品の供給ができない状況(後発医薬品が入荷されないなど)が起こった場合は、「特別料金(選定療養費)」は発生しません。

医療機関も調剤薬局も窓口では、これらの説明にひと手間増えることになるかもしれません。

厚生労働省のウェブサイトにも特設サイトが開設されています。関連する告示や通知、事務連絡等が掲載されていますので、ぜひ一度ご確認ください。

<参考資料> R6年4月20日確認
■厚生労働省/後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について
  ⇒後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養に関する厚生労働省の特設ページです。
   関係通知や対象医薬品等、必要な情報を掲載されています。ご確認ください。

2024年4月22日

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