知っていますか?「ベースアップ評価料」~思い込み運用での落とし穴~

長 幸美

医療介護あれこれ

本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。

2024年度の診療報酬改定で新設された「ベースアップ評価料」。
医療従事者の賃上げを目的とした制度ですが、近年は介護保険の処遇改善加算や生産性向上の助成金など、「ヒト」に関する財源が多数存在し、制度ごとに使途が違うことから、配賦ルールが曖昧になっている現場も少なくありません。
ここでは令和8年度の改定を前に、あらためて「使える費用」「使えない費用」を整理します。

結論:使えるのは「賃金改善」だけ

ベースアップ評価料は、医療従事者の賃金改善のために診療報酬上で用意された財源であり、収入の全額を賃金改善に充当しなければなりません。研修費・備品費・福利厚生費など、賃金以外には充当不可です。厚労省の特設ページや届出・実績報告の様式・説明資料でも、使途を賃金改善に限定する方針が明確に示されています。[出典:厚労省特設ページ

<ポイント>
診療報酬は公定価格であり、公費・保険料を原資とするため、一般企業の「価格へ自由に人件費を上乗せ」とは思想が異なります。その分、財源の位置づけと使途の規律が厳格です。

なぜ混同が生まれるのか(背景)

ここ数年、医療・介護領域では処遇改善加算(介護)や生産性向上支援の助成金など、「ヒト」に紐づく異なる財源が相次いで創設・拡充されました。制度ごとに目的・使途・報告義務がバラバラなため、現場で次のような“誤解”が起きやすくなっています。

  「研修費にも使えるのでは?」
  「残業代に上乗せできる?」
  「広い意味の処遇改善=福利厚生もOK?」
  「評価料で入った額以上を必ず配らないといけない?」

一方で、職員サイドの期待が過度に高まる場面もあります。

  「評価料は全額、私たちの取り分?」
  「月5万円の収入があるのに、1人5千円は少ない?」  ・・・など

これらは制度性の違い(診療報酬の評価 vs. 助成金・補助金)を混同した結果です。ベースアップ評価料は賃金改善に限定される点をまず共有しましょう。

使える範囲:賃金に連動する費用まで

誤解されがちですが、「賃金改善」の範囲は給与本体だけに限定されません賃金に連動して増える費用は、制度趣旨の範囲内で充当可能です。

3-1. 法定福利費(事業主負担分・おおむね16.5%

  • 賃金に連動して増えるため、当然に充当対象
  • 健康保険・厚生年金・介護保険、労災・雇用保険などの事業主負担の合計が一般に約16.5%前後のため、賃上げ設計では必ず上乗せ見込みを置くこと。
  • 実務記事でも「賃金総額の設計に法定福利費を含める」考え方が示されています。

注意:16.5%は目安です。実際の負担率は事業所の状況で上下します。過不足が出ないよう、社会保険労務士・税理士と連携して見込み率を都度更新しましょう。

3-2. 時間外手当(残業代の増加分

  • 残業代は 「基本給(または時給)×割増率」 で算定されるため、ベアに伴い時間単価が上がる構造です。
  • 式:時間外手当単価=(基本給÷所定労働時間)×1.25(法定時間外の例)
  • よって、「ベアに連動して増えた分」は賃金改善の一部として扱えます。実務解説でも、ベア連動の残業代増加分・法定福利費を含めて設計する旨が示されています。

やってはいけない:残業を増やすための原資として評価料を使うこと。目的外です(評価料は賃金“水準”の底上げのための財源)。

3-3. 賞与(基本給に連動する部分)

  • 就業規則・給与規程上、基本給に連動して賞与が増額する仕組みなら、その増加分も賃金改善として取り扱い可。
  • ベースアップを**「手当」で行うか「基本給」で行うか**で、賞与・法定福利費への波及が変わります。規程・支給実務との整合が重要です。

3-4. **手当(ベースアップ手当等)**での柔軟運用

多くの医療機関が、将来の制度変更リスクに備え、「ベースアップ手当」を新設し、支給幅を持たせる運用を採用。制度終了時の減額・廃止規定を規程に明記する事例も見られます。

では、ベースアップ評価料の対象外項目は?

時々ご相談を受ける項目ですが、以下はすべて制度の目的外となるため使用不可です。
勘違いされる原因として、「介護保険の処遇改善加算」や「生産性向上の助成金」等の給付範囲は緩やかに設定されている為、混同してしまった結果だと思います。
ベースアップ評価料は「給与改善に限定された財源」であり、スタッフのモチベーションアップや能力開発に使う財源ではありませんので、しっかり区分けし整理しておきましょう!

  ×研修費     (講習・学会・外部セミナー・受験料等)
  ×備品購入費   (PC・タブレット・医療周辺機器・ユニフォーム等)
  ×福利厚生費   (慰労金・懇親会・職員旅行等)
  ×モチベーション向上の名目の諸費用(賃金へ直接的に落ちないもの)

これらは「広義の処遇改善」ではあっても、賃金として直接支給されるものではないため対象とは言えないものになります。評価料の使途に反する=要件違反のリスクがあります。

よくある“誤解”を正す(Q&A)

Q1:評価料で入ってきた額以上を、必ず職員へ追加配分すべき?

A:いいえ。 評価料は賃金改善に充当する義務がある一方、算定見込み・患者数変動・在籍変動で月々の収入も人件費も揺れます。つまり変動することが普通です。過不足管理(手当額に幅を持たせる等)で整合を保ちましょう。

Q2:評価料は「職員の取り分」? 全額を等分で配るべき?

A:いいえ。 施設の賃金設計(職種・常勤換算・配点)に基づき、合理的なルールで配分します。
  全額を等分は原則でも義務でもありません。計画・実績で説明可能性を担保してください。
  配分に関しては、自由なのですが、職員間の不満や不安を解消するために、面談等で職員に期待していることなど、コミュニケーションをとってしっかり説明していただきたいと思います。

Q3:残業代に“上乗せ”する形で支給できる?

A:趣旨を取り違えないことです。 評価料は残業“時間”を増やす原資ではなく、ベアに伴って結果的に増える残業代単価の「増加分」が賃金改善の一部として扱える、という整理です。

運用の実務:ルール化・見える化・検証

ベースアップ評価料は、届出を出したら終わりではありません。

賃金改善の“設計(ルール化)” → “運用状況の可視化(見える化)” → “数値と証憑にもとづく検証”

月次サイクルで回す運用こそが大事になります。
この3段階を継続して実施することで、
  1)使途が制度趣旨に適合していること
  2)原資(評価料収入)と支出(賃金改善)が整合していること
  3)職員説明や行政調査に耐える説明可能性があること
の三つを同時に確保できます。

ベースアップ評価料の誤解やトラブルの多くは、この「運用プロセス」の整備不足が原因です。
そして、先生方の不安点もこの原資と支出の整合性ではないでしょうか?
以下では、医療機関が必ず押さえておきたい 4つの実務ステップ〔①規程整備/②配分ルールの合意形成/③原資×コストの突合/④実績と証憑の管理〕 を順に整理します。

(1)給与規程・賃金規程を整備

まず最初に取り組むべきは、自院の給与規程や賃金規程を見直し、賃金改善の方法を明文化することです。基本給として引き上げるのか、手当として支給するのか、といった運用方針を明確にしたうえで、規程や支給ルールに整合性を持たせることが出発点となります。

  • 基本給で引き上げるか、手当で行うかを明確化。
  • 手当運用の場合は、支給要件・幅・見直し条項を規程に明記。

(2)配分ルールの合意形成

その次に重要なのが、配分方法について院内で合意形成を図ることです。職種別・常勤換算・役割や貢献度など、どの基準を採用するのかを明らかにし、職員にも説明可能なルールとして共有していく必要があります。

  • 職種別、常勤換算、役割・貢献度など、施設方針に沿う基準で配分
  • 説明資料(院内向けQ&A)を整備し、周知と質疑の場をセットで。

(3)原資とコストの突合

続いて、毎月の運用で欠かせないのが、評価料として得られる原資と、実際に賃金改善として支出されるコストの突合(つきあわせ)です。
評価料の収入は患者数や算定状況により変動するため、当初の見込みと実績を定期的に比較し、手当額の調整や翌月以降の配分に反映していくことで、過不足が生じない運用を実現します。

  • 評価料の見込み収入(点数×件数×10円)と、賃金改善総額(+法定福利費)を月次で突合。
  • 患者数変動や在籍変動に応じて、手当額の幅や次期の配分を機動的に調整。

(4)実績報告とエビデンス管理

そして最後に、賃金改善の実行内容を裏づける証憑の管理が不可欠です。
給与台帳・賞与台帳・法定福利費の根拠資料などを整理し、毎年提出する「賃金改善実績報告書」に対応できる体制を整えておくことで、行政調査や職員への説明にも十分に耐えられる運用が可能になります。

  • 各年8月の「賃金改善実績報告書」に向け、給与台帳・賞与台帳・社会保険料事業主負担の根拠をファイル一式で管理。監査対応の第一歩です。

助成金・補助金との“住み分け”

助成金や補助金は、制度によって使途の自由度が大きく異なります。

■人材開発支援助成金(厚労省):研修費や講師謝金、外部研修の受講料等に使える枠組みが中心です。

■IT導入補助金・ものづくり補助金(中小企業庁):IT・設備・外注費・研修費まで対象となる類型も。

一方で、介護の処遇改善加算のように賃金限定のものもあります。「ベースアップ評価料でできないこと」は、別制度の財源で賄うという発想が現実的です(各制度の公募要領・交付要綱で使途を必ず確認)。※本稿の主眼はベースアップ評価料の使途整理であり、個別の助成金は割愛します。

まとめ/院内で共有すべき「3つの原則」

さて、皆様、今回「ベースアップ評価料」の支給ルールや運用内容を見てきました。
え?そうだったの??と思われた方は、ぜひこの機会に見直しをしてみてください。

  1. 使途は賃金改善に限定
     (基本給・ベースアップ手当、ベア連動の賞与・時間外手当増加分・法定福利費を忘れずに!)
  2. 賃金に連動しない費用(研修・備品・福利厚生等)は不可
  3. 配分は施設方針に基づく“説明可能なルール”で
     (規程整備・月次突合・実績報告までをワンセットで運用)

令和8年度の診療報酬改定では、ベースアップ評価料の届出有無で、かなりの点数に差が出ることが分かってきました。今後ベースアップ評価料の届出を検討される医療機関では、要件を理解されたうえで是非届出てください。さらに算定中の医療機関においてもルールを見直しておきましょう!

<参考資料>

■厚生労働省:「ベースアップ評価料等について(特設ページ)」

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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