信頼関係を育てるコミュニケーション~小さな積み重ねがチームを強くする~

長 幸美

医療介護あれこれ

本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。

「信頼関係がないと、何を言っても伝わらない」
医療や介護の現場で、この言葉を実感したことがある方は多いのではないでしょうか。

「言ったのにやってくれない」
「注意したら反発された」
「相談しても、どうせ聞いてもらえない」

こうした声の裏には、業務の問題ではなく信頼の揺らぎがあることが少なくありません。
信頼は、特別なことをしなくても、日々のコミュニケーションの中で育てることができるものです。
そして、失ってしまうと取り戻すのに時間がかかる、繊細なものでもあります。

エピソード:「一言」を交わすだけで変わった関係

あるクリニックでの話です。
入職2年目のBさんは、ベテラン事務員のAさんに対して「怖い人」という印象を持っていました。
挨拶をしても、Aさんはいつもそっけなく、「忙しい」が口ぐせです。Bさんにとっては話しかけづらい存在でした。

ある朝、Bさんが勇気を出して声をかけてみました。

Bさん:「おはようございます、今日ちょっと混みそうですね」
Aさん:「・・・うん。連休明けだもんね、頑張ろうか」

その一言がきっかけで、少しずつ会話が生まれるようになりました。
数週間後、Aさんのほうから「これ、こうしたら早いよ」と声をかけてくれるようになり、Bさんも自然と相談ができる関係になりました。

「怖い人が変わったんじゃなくて、私の“見え方”が変わった気がするんです。」

こうBさんが言っていたのがとても印象に残りました。
信頼は、大きな出来事で築かれるものではなく、小さな一言の積み重ねで育っていくのだと、改めて気づかされた出来事でした。

信頼を育てる3つの土台

信頼関係を育てていくためには、人それぞれ大事にしていることがあると思います。
あなた自身のことを考えてみてください。「何となく」とか「自由奔放に」「その時の気分で」ということでは、なかなか信頼関係を築くことは難しくはありませんか?

自分(私)自身が大事にしていることと相手の日頃の行動の波長があっていたり、考え方が似ていたり、それぞれに「この人は信頼してもいい」というような基準があるように思います。
私自身が仕事をしている中で、気付いてきたことを少しまとめてみたいと思います。

① 一貫性――言動に「ブレ」がない

「昨日と言っていることが違う」
「言っていたことと、やっていることが違う」

これほど信頼を失うものはありません。逆に言えば、「指示や判断がブレない」人だと、「信用できる」人そして「信頼できる」人と感じます。
しかし、時代の変化の中で、少しずつ人は考え方が変わっていくことが往々にしてあります。
システムの導入やDX化することで変化が出てきたり、患者さんやご家族の状況に合わせて、対応を変えなければならない必要も出てきます。このような時代に、頑固に考え方を変えないままでいると、「頑固な人」「固執している」と敬遠されてしまうでしょう。

例えば、「いつでも電話していいよ」と言いつつ、「電話をかけると出ない」ということがよくある場合はどうでしょう。「なぜ何時も繋がらないのだろう」と不信感が増してきませんか?

ここでの「いつでもどうぞ」という言葉は夜中の電話や手が離せないときの電話でも出ないといけないということではありません。こんな場合には、「このような時は電話に出られない」ということを事前に伝えるか、折り返しの電話で説明フォローするような対応を行えば問題ないと思います。
要は相手に寄り添った対応が大切なのです。

② 誠実さ――間違いをごまかさない

信頼を壊す最大の要因は、「隠す」ことです。人は、間違いそのものよりも、「隠されること」に不信感を抱きます。時には「嘘をつく」と思われ、関係が壊れてしまうことも考えられます。

Bさん:「すみません。昨日の予約入力、1件ミスしてしまいました」
Aさん:「教えてくれてありがとう。すぐに対応すれば大丈夫よ」

このように、「素直に言える空気」「それを受け止める姿勢」があると、失敗は信頼を壊すものではなく、信頼を強くする“きっかけ”に変わります。

一方で、「どうして隠してたの?」「嘘つかないで!」と責めるだけでは、次から何も言えなくなってしまいます。フィードバックのときと同じく、「叱る」より「支える」ことがカギとなります。

③ 共感――「相手の立場」を想像する

信頼関係をつくるうえで欠かせないのが、「相手の立場に立って考える」ことです。
これは決して“甘やかす”ことではなく、相手の背景や気持ちを理解しようとする姿勢です。

Aさん:「あのとき、少し焦っていた?」
Bさん:「はい、患者さんが急いでいたので焦っていました」
Aさん:「そうだったのね。じゃあ、次は私がフォローに入るね」

こういった対応をどう感じますか?
相手が置かれた状況を理解してくれるだけで、人は「この人は味方だ」と感じます。
それが信頼の芽を育てる第一歩になるのです。

信頼は“場”をつくる力になる

信頼関係があると、ミスや課題があっても、「一緒に解決する空気」が生まれます。
逆に、信頼がないと、「誰のせいか」「責任はどこか」などの「犯人探し」に意識が向いてしまいます。
「犯人探し」をする職場では、「私」に意識が向かないようにそっぽを向いてしまうか、集団で「私たちではないアピール」をするようになります。

フィードバックの内容も、信頼関係があるかどうかでまったく伝わり方が変わります。
信頼のある職場では、注意や指摘も“攻撃”ではなく“成長のサポート”として受け止められるのです。

まとめ

信頼は一朝一夕に築けるものではありません。
日々の小さなやりとりの積み重ねが、確実に職場を変えていきます。

 ・約束を守る・説明する(→一貫性)
 ・間違いを認め、誠実に対応する(→誠実さ)
 ・相手の立場を想像し、共感する(→共感)

この3つの積み重ねは、職場に“安心して働ける空気”をつくり出します。

信頼は目に見えないものですが、確かに職場を動かす力を持っています。
「どうせ言っても無駄」と思う前に、小さな一言をかけてみる。
その一言が、信頼関係を育てる最初の種になるのです。

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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