知っておきたい「医療広告のルール」②~管理者の役割・責任~

長 幸美

医療介護あれこれ

本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。

さて、前回、医療広告のルール①として、スタッフの立場でうっかり違反してしまわないように注意点をお話ししてきました。さて、今回は少し視点を変えて、管理する立場から知っておきたい広告規制と安心して情報発信できる体制づくりのポイントをご紹介したいと思います。

クリニック管理者に求められる責任

医療広告ガイドラインでは、広告内容の最終責任は管理者・開設者にあると定められています。
つまり、たとえホームページ制作を外部業者に委託しても、あるいはスタッフがSNSを更新していても、違反があれば院長が指導の対象になるのです。(医療法第6条の5第3項)

実は、近年、医療広告ガイドライン違反が多く、行政によるパトロールもあり、知り合いの医療機関の院長が呼び出され、お叱りを受けたという情報が入ってきました。ポイントとしては、広告を“任せきり”にせず、院長・管理者が内容を把握し、承認する仕組みが大切になってくるという点です。

管理者が整えるべき院内ルール3つ

リスク管理をするには、管理者として院内でルールを作り、リスクを回避できるようにしなければなりません。この為に重要なポイントを見ていきましょう。

① 院内ルール(ポリシー)の文書化

院内でSNS発信のルールを作りスタッフや業者にも共有し、安全に活用する必要があります。
院内掲示用の簡易チェックリストを作成し、活用することも有効です。

<チェックリスト>

チェック項目ポイント
▢SNS発信のルールが明確になっているか?いつ、だれが、どんな内容を出すか、その手順は?
▢写真を掲載する場合のルール個人が特定できる情報が映りこんでいないか?
院内の様子を掲載する場合、本人及び家族の了承は得ているか?
治療前後の比較写真になっていないか?
▢ガイドラインに則った内容か?院内のSNS等への発信ルールは定期的に見直しされ、関わるスタッフ共通の理解として徹底しているかどうか。

どんな目的で、どんな内容を発信するのか、ルール化することにより、発信のばらつきや写真掲載等のチェックポイントが明確になります。

② 投稿・広告内容の承認フローを整備

不適切な投稿を行わないために、SNSやホームページの投稿についても、院長や事務長の承認を得たものを公開するようなルールが必要です。
外部業者が関与する場合も同様にルールを適用されるとよいでしょう。

<ルール例>
ここで一つの例として、弊社のコラム掲載までのルール(一部)をお示しします。

①記載者 ⇒ ②誤字脱字チェック ⇒ ③内容チェック ⇒ ④掲載判断
(担当者)   (委員会コラム担当)    (部門長)      (社長)
弊社の場合ですと、担当者が記載したコラムは、誤字脱字チェックや内容チェックを経て、掲載するかどうかの最終判断は社長が行うルールになっています。会社として発信しない方が良いと判断される場合もあります。

クリニックの場合ですともっとシンプルに、①記載者 ⇒ ②院長 というルールにされている医療機関もあります。
私の担当先でも、写真や内容など、誹謗中傷になっていないか、個人特定されていないか、写真掲載に当たっては関係者の了解を得て初めてSNSにアップするなど、気を配っておられます。

③ 定期的なスタッフ教育の実施

ガイドラインは定期的に見直しされています。それに伴い、広告規制・SNSルールに関する研修を年1回程度実施し、スタッフ間で共有認識を持ち、スタッフの理解度を高めることが大切です。
法律の話は難しい・・・と思われがちですが、この教育はとても大事になります。
ガイドラインを読み合わせるとなると、なかなか骨が折れることだと思います。まずはよくある事例からどうしたらよいのかを考えてみるのは如何でしょうか?

さて、今までのコラムの内容をもとに質問です。

No 問 題解答
1「絶対に治る!」という表現は、効果が事実であれば、広告に使ってよい 
2ホームページに診療時間や連絡先を載せるのは広告違反である 
3患者さんの顔が写っていなければ、診察中の写真をSNSに載せてもよい 
4「県内No.1の実績」という表現は、裏付けがあったらよい   
5芸能人や有名人が来院していることをアピールしても問題ない   
6スタッフが投稿したSNSであっても、違反があれば院長に責任が及ぶ 
7LINEで「今だけ!キャンペーン価格!」と配信するのは問題ない 
8医師の資格(例:内科専門医)をホームページに載せるのはOKである 
9患者さんの感想をそのままホームページに載せても広告違反になることがある 
10「これ、大丈夫かな?」と思ったら、院長や上司に確認すべきである 

この問題の解答とその根拠を一つ一つ押さえていくだけでも、スタッフ教育としては使えるものになると思います。

管理者がチェックすべき5つのポイント

ここで、チェックするポイントをまとめておきたいと思います。

チェック項目確認内容根拠
効果を断定していないか「絶対」「100%」「必ず」などの表現はないかガイドラインⅢ-1-(1)
比較・ランキング表現はないか「県内No.1」「業界最高」などの表現はNGガイドラインⅢ-1-(2)
個人情報は含まれていないか写真・動画・カルテが写り込んでいないか個人情報保護法第2条
割引・特典広告などないか「無料」「特典付き」などの記載がないか療養担当規則で禁止事項
ガイドラインⅢ-2-(4)
最新・最先端の表現に根拠がない表現はないか「最新」「最先端」などの表現はNGガイドラインⅢ-1-(3)

クリニックを守るのは「管理体制」

医療広告ガイドラインは「知らなかった」では済みません。
患者さんへの適切な情報提供とクリニックの信頼を守るためには、管理者が主導して体制を整備することが不可欠です。

また、問題が起きたときの「初動対応マニュアル」も準備しておくと安心ですね。
スタッフと管理者が一体となって、「正しく伝えるクリニック」を目指しましょう。

【参考資料】  ※令和7年8月25日確認

■厚生労働省/医療法における病院等の広告規制について は(こちら)

■厚生労働省/医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針
 (医療広告ガイドライン)(令和6年9月13日最終改正) は(こちら)

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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