イラっとした時、どうしていますか?~患者編~

長 幸美

医療介護あれこれ

本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。

クリニックの現場は、患者さんやご家族への対応、そして一緒に働く仲間との協働など、人と人との関わりが日常そのものでしょう。
そのなかで「イラっとする瞬間」がまったくない職場は存在しないのではないでしょうか。

大切なのは「怒らないこと」ではなく、「怒りの感情に振り回されないこと」。
そこで役立つのが アンガーマネジメントという手法です。感情とうまく付き合うための考え方です。

このシリーズでは、

 ①患者さんへの対応でイラっとした時
 ②職員同士でイラっとした時
 ③チーム全体にアンガーマネジメントを生かす時

の3つの場面に分けて、具体的なヒントをお届けしていきます。
まずは今回、「患者編」として、患者さん対応でイラっとした時を考えてみましょう。

怒りの裏にある「本当の気持ち」を想像する

患者さんの怒りの背景には、「不安」「焦り」「心配」が隠れています。
「診察はまだか!?」といわれるときの患者さんやそのご家族には、
  ・「家族の具合が悪くて、早くどうにかしてほしい」
  ・「仕事の合間で来ているので、早くしてほしい」
といった思いがあるかもしれません。
「体調がつらい」「結果を早く知りたい」という気持ちを想像するだけで、受け止め方は変わります。
「診察はまだか!」と言われた場合の状況判断が難しい時、看護師さんにバトンタッチして、処置室等で横になってもらうというような案内をしてもらうと安心されると思います。

6秒ルールでやり過ごす

怒りのピークは約6秒といわれています。
この間に「なんて言い返そうか」と考えてしまうと怒りは膨らみ、きつい言葉が出やすくなります。
  ・深呼吸をする
  ・心の中で数を数える
  ・「どうしてそんな言い方をしたのかな」「何か理由があるのかな」と相手の思いを想像する
このような工夫で、怒りにつながる言葉を防ぐことができます。

言葉を選んで伝える

イラっとすると強い口調になりがちです。そんな時は、
  ・「自分が同じ立場だったらどう感じるだろう」
  ・「家族が患者さんだったら、どんな言い方をされたら安心するだろう」
と考えてみましょう。
同じことを説明しても、伝え方ひとつで受け取られ方は変わります。
具体的なケースで考えてみましょう

◆待ち時間が長いと立腹されている場合

「順番ですから!」と強く返してしまうと、患者さんはさらにイラっとしてしまいます。
こんな時は「お待たせして申し訳ありません。一度確認してまいりますね」
「次にお呼びする予定ですが、現在診療中の患者さんの処置が長引いておりまして…」

と伝えると、「忘れられていない」という安心感、そして「順番が近い」と分かります。結果として相手の気持ちは和らぎます。

◆窓口が忙しい時に横から声をかけられた場合

電話対応中や他の患者さんの対応中に声をかけられると「今は無理!」と思うこともあるでしょう。

「無理です!」「他の対応がありますから!」これはアウトです。
「○○さん、今電話がかかってきていてお答えできずすみません。少しだけお待ちくださいね。」この答えだと如何ですか?

同じ「対応できない」状況であっても、言葉を選ぶだけで印象が変わりますね。

◆急な休診や制度変更を伝える場合

医師が学校健診や集団接種で不在になる、急な休診、予約制導入、キャッシュレス化など患者さんにお伝えしなければいけないことは多岐にわたります。
どれも医療機関にとっては当然のルールですが、患者さんにとっては「困る」「不便」に映ることがあります。このような場合にはどう伝えていけばいいのでしょうか?

「クリニックの方針です」と一言で片づけず、
  ・事前に院内掲示でお知らせる
  ・受診時に口頭で伝える
  ・SNSやホームページで補足する
といった工夫をすると、患者さんの不安や不満を減らすことができます。

自分を守る小さな工夫も必要

仕事の上で様々な工夫をしていても、イラっとする瞬間はなくなりません。そんなときは:
  ・「イラっとノート」に書き出す
  ・スタッフ同士で声をかけ合う
  ・帰宅前に深呼吸する
  ・書き出した紙を細かく破って捨てる

など、自分なりの切り替え方法を持ちましょう。
愚痴を外で話すと余計にヒートアップしたり、思わぬ人に聞かれることもあります。個人情報の観点からもやってはいけない会話となりますね。職場のイライラは外に持ち出さず、内で処理する工夫が大切です。

まとめ

アンガーマネジメントは「怒らない技術」ではなく、「怒りに振り回されない技術」です。
患者さんとのやり取りで冷静さを保てれば、相手に安心を与えるだけでなく、自分自身も楽になります。

次にイラっとした時、あなたはどの方法から試してみますか?
小さな実践が、大きな信頼につながっていきます。

次回は「職員同士でイラっとした時」をテーマに、アンガーマネジメントを職場内の人間関係に活かす方法をご紹介します。

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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