令和8年度診療報酬改定速報~医療DXの“運用フェーズ”への転換について(概要)
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
令和8(2026)年度診療報酬改定は、「医療DX」の位置づけが大きく転換する節目となってきたようです。
これまでの「導入を促す評価」から一歩進み、医療DXを“前提”として医療提供体制の質向上と地域医療連携の再構築を図るという政策意図が明確に示されているように思います。
今回の改定の根底には、政府が掲げる「2030年までに電子カルテ普及率100%」という目標があります。
医療法改正の動向を見ると、電子カルテはもはや努力義務ではなく、医療提供の基盤として制度的に不可欠な存在へと位置づけられたともいえるのではないでしょうか。
目次
運用フェーズの土台:サイバーセキュリティと診療情報管理
サイバーセキュリティの強化は、もはや医療DXの付属要件ではなく、初診・再診・入院の横断的評価(電子的診療情報連携体制整備加算)の中にも組み込まれるかたちで体制整備の前提に据えられました。医療DXの活用を支える安全対策(アクセス制御、ログ管理、バックアップ、非常時対応等)は施設基準として明確化され、「安全に活用できる運用構築」へと評価軸が移っているようです。
診療情報管理(診療録管理体制)の見直しも医療DXの中心的な論点です。
診療記録を紙から電子へという「形式」の移行だけではなく、電子的な診療情報を“地域連携の資産”として整備・共有・保全する体制(標準化・監査証跡・改ざん防止・可用性確保)が診療録管理体制の評価として再設計されています。
これらは「診療記録」の「真正性・見読性・保存性」という三原則を確保するだけの話ではなく「活用を支えるうえでの安全性」を制度面からも評価されている点に、この改定の肝があるのではないかと思います。
1.導入期から運用期へ――評価軸の転換
令和6年度改定で新設された「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」は、今回の改定で廃止され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算へと統合されました。
「オンライン資格確認の導入の有無」から「実際の連携・臨床活用ができる体制」を問う運用期の評価に移ったことを象徴する再編です。
このポイントは
・“導入しているか?” から “活用できているか?” へ移行している
・ICT導入そのものではなく、情報の連携と臨床活用が評価される
という方向性を明確に示していると思います。初診時最大15点という点数設定は小さいように見えますが、評価の本質は点数そのものではなく、全国医療情報プラットフォームを基盤にした診療情報交換を標準化するという制度的メッセージにあります。
2.全国医療情報プラットフォームの本格運用が始動
厚生労働省は、令和7年度より全国医療情報プラットフォームの運用を開始し、診療情報提供書・退院時サマリ・健診情報といった「3文書6情報(*1)」の標準化と共有を進めていました。
全国運用は「2026年度冬ごろ」を目安に段階的実装求められてくる見込みとなっています。
この仕組みは、以下のような変化をもたらします。
- 地域を跨ぐ医療連携が「情報連携」を前提に再構築
- 在宅・外来・入院で同一患者情報を扱う“連続性”の向上
- 医療安全の底上げ(アレルギー・禁忌薬・感染症情報の共有)
また、電子カルテ情報共有サービス要件に関する経過措置は、当初の予定から見直され、
2026年5月31日まで延長されています(その後は整備状況による評価の差が広がる運用を示唆)。
この「社会実装フェーズ」では、電子カルテの更新・標準化と、前段のセキュリティ/運用設計が避けられない経営課題となります。
未整備医療機関に対しては令和 8年9月まで経過措置が設けられていますが、その後は整備状況による評価区分の差別化も視野に入るとされています。
令和8年度改定は、いわば「全国医療情報ネットワークの社会実装フェーズ」への入口であり、電子カルテの更新・標準化は避けられない経営課題となっています。
(*1) 参考/3文書6情報とは・・・
・3文書とは標準化された文書形式のこと
①診療情報提供書(紹介状)
②退院時サマリー(キー画像等を含む)
③健康診断結果報告書
・6情報(電子カルテのデータ項目)
①傷病名
②アレルギー情報
③感染症情報
④薬剤禁忌情報
⑤検査情報(特に救急および生活習慣病関連)
⑥処方情報
3.外来医療における医療DX活用の具体化
外来医療領域では、医療DXによる効率化と質向上の両立が鮮明となりました。
(1)生活習慣病管理:事務負担軽減 × 質の担保
療養計画書の署名が不要化されたことにより、外来現場の事務負担は大幅に軽減されるのではないかと思います。
しかし、療養計画書が不要になったわけではありません。管理上「計画書の作成や評価は重要なもの」とされています。
一方で、眼科・歯科への受診連携がデータに基づく管理を評価する加算(充実管理加算_60点) として新設され、「質を伴うデータ活用」を求められるようになってきました。
「効率化を進めても質は落とさない」という政策メッセージが明確に示されているようです。
外来のマネジメントはデータに基づく診療行動の標準化を求められます。
(2)かかりつけ医機能と医療DXの連動強化
地域包括診療加算等の対象が拡大され(要介護認定患者の追加)、時間外対応体制加算の引き上げなど、かかりつけ医の役割がさらに広く・明確に定義されました。 今後は、
・ICTを活用した地域連携
・多職種間の情報共有の平準化
・在宅・外来のデータ連続性の確保
といった「医療DXと地域包括ケアの接続」が非常に重要になってくると思われます。
(3)オンライン診療の拡大――D to P with N の本格実装
今回の改定で最も実務的インパクトが大きいのは、オンライン診療の具体的実装の拡大ではないかと思います。以下の内容が示されました。
・看護師等が訪問し、医師の指示のもとで採血・注射等の処置を行う
・看護師等遠隔診療検査実施料 が新設された
・訪問看護とオンライン診療の同時実施が可能に(訪問看護遠隔診療補助料の新設)
これらは、医師不足地域、在宅医療、慢性疾患管理の効率化を強力に後押しする政策です。
オンライン診療は、もはや例外ではなく、訪問看護を含めた在宅医療の標準装備に近づいているようです。
4.病院経営に突きつけられる 「医療DX前提の業務再設計」
賃上げと物価高騰対応分を含む本体+3.09%の引上げが行われた一方、
その裏側では、病院経営に対し DXによる業務効率化・生産性向上を突き付けられています。
とりわけ中小病院にとっては、
・電子カルテ更新・クラウド化によるコスト負担
・サイバーセキュリティ対策の高度化
(非常時対応・バックアップ・アクセス権管理・ネットワーク分離等の運用コスト)
・データ提出(MCDB等)の義務化検討
といった目に見えにくい管理部門の業務負荷の拡大が避けられないものとなってくるでしょう。
これらの内容を実施するためには、単なるシステム導入ではなく、診療・事務プロセスを「DX運用前提」で再設計することが不可欠となってきています。
おわりに:DXは“選択”から“必須インフラ”へ
令和8年度診療報酬改定では、医療DXを「導入」から「運用・実装」へ移行させるための、制度的な転換点であるように思います。
電子カルテ100%、全国医療情報プラットフォーム、オンライン診療の拡大に加え、「サイバーセキュリティ対策」と「診療情報管理」を要とする「安全な運用」が求められています。
その中で、医療機関が問われるのは、
・何を導入するかではなく
・どう活用し、医療の質・安全・生産性を高めるか
という視点が必要ではないでしょうか?
令和8年度改定は、その第一歩になっているように感じます。今後数年間で、医療DXは地域における医療提供の「前提条件」になるかもしれません。
<参考資料> 令和8年2月28日確認
◆厚生労働省/中医協「個別改定項目について」(令和8年2月13日_総-1)
※1 医療DX推進体制整備加算等の見直し ・・・510p~
(サイバーセキュリティ、電子的診療情報提供体制、を含む)
※3(1) 生活習慣病管理料(Ⅰ)及び(Ⅱ)の見直し・・・286p~
※3(3)オンライン診療・D to P with N ・・・521p~
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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