接遇5原則「笑顔」~その笑顔は誰のためのものですか?~
長 幸美
医業経営支援本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
朝、制服に袖を通し、名札をつける。
そして、鏡の前でふっと口角を上げる。
「今日も”笑顔で”頑張ろう」
医療現場では、そんな言葉が合言葉のように交わされます。
接遇研修でも必ず出てくる「接遇5原則」・・・笑顔・挨拶・身だしなみ・言葉遣い・態度。
でも――
その「笑顔」、本当に患者さんを思う笑顔になっているでしょうか。
事例①「笑顔で対応しているのに、クレーム?」
あるクリニックでのことです。
受付スタッフAさんは、いつもにこやかで、「笑顔は誰にも負けない」と自負していました。
ある日、診察を待つ患者さんからクレームが入りました。
「受付の人、にやにやしているけど、なんなの? こちらは不安なのに、軽くあしらわれた気がする」
Aさんは少なからずショックを受けました。「ちゃんと笑顔で対応していたはずなのに・・・」
しかし、実際のやり取りを振り返ると――
患者:「ずいぶん待ちますが、まだ呼ばれません」
A さん:「もう少しお待ちください(ニコッ)」
言葉も表情も、マニュアル通り丁寧で、にこやかに対応したはずでした。
でも苦情を言われたのです。なぜでしょう?
患者さんが求めていたのは取ってつけたような「笑顔」ではなく「共感」だったのです。
患者さんはどのような対応を期待していたのでしょうか。
笑顔のまま「お待たせしてしまってすみません。 不安になりますよね。今、確認してきますね」と
言っていたらどうでしょう。
又はこんな声掛けだったらどうでしょう。
「前の患者さんの処置が長引いているようです。順番だと次の診察なのですが、もしつらいようなら
横になってお休みになりますか?」
患者さんの様子を見て、寄り添う一言や体調を思いやる一言があれば、同じ笑顔でも、まったく違う印象になっていたはずですよね。
「笑顔」でただ「待ってください」ではなく、
その先を調べてお知らせできれば患者さんの不安は和らぐのです。
事例②「笑顔がなくなった新人さん」
入職3か月目のBさん。最初は明るく元気で、いつも素敵な笑顔で患者さんに接していました。
ところが、いつのころからか、表情が硬くうつむきがちになり、視線も合わなくなっていました。
先輩はその様子を見て、声をかけました。
先 輩:「最近どうしたの? Bさんらしくもない。」
Bさん:「すみません。」
先 輩:「しっかりしてよね!笑顔でしっかり声出して!!」
Bさん:「 ・・・ 」
後日、管理者の面談で本音が出てきました。
「毎日、間違えるたびに大きな声で指摘されて、怖くて、どうしていいかわからなくなってしまいます。
私って駄目だなあ、役に立ってないと思ったら、居場所がないような気がしています。」
Bさんは、毎日の業務を行う中で指摘されることが不安に感じていたのです。単なる技術不足ではなく、心の余裕がなくなっていたのですね。
その後、管理者が「大変だったね。一緒に整理しよう」
そう声をかけて、時間をとって何が不安なのか、Bさんに寄り添い、時間をかけて話をしました。
結果その面談の後、Bさんの表情は少しずつ柔らいでいきました。
笑顔は「スキル」ではなく「姿勢」
笑顔は、口角の角度ではありません。口元で笑っていても、眼が笑っていないということもあります。患者さんはそんな機械的な「笑顔」ではなく「私を見てくれているのかな?」と見ているのです。
だから「笑顔」だけを実践しても患者さんには気持ちは伝わりません。
「笑顔」の中に気持ちを込めることが必要になるのです。
「笑顔」は「安心」と「信頼」の証。
つまり、「笑顔で応対すること」は「あなたのことを教えてください」「何か心配なことがあったら話してくださいね」という無言のメッセージを伝えていることになります。
その中で、先輩や管理者にできることは、まず、管理者自身の笑顔から、
「ありがとう」
「助かったよ」
「一緒に考えようね」
と、気持ちを込めて伝えることが大事なのではないでしょうか。
その先輩(管理者)の表情と言葉が、スタッフの心をほどき、自然な笑顔を生みだすのではないかと思います。つまり、笑顔は文化(風土)と言っても過言ではないと思います。
まとめ
「笑顔」とは、「あなたを受け入れる」という無言の患者さんへの約束であり、スタッフへの信頼の証だと思います。
接遇5原則の「笑顔」はマナーではなくあなた自身の内面から出てくるものではないでしょうか。
そして、安心・安全の「医療の姿勢」そのものを表すものだと思います。
その笑顔は、誰のための笑顔でしょう。
気持ちが入っているかどうかちょっと問いかけてみませんか?
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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