
知っておきたい「療養担当規則」あれこれ①~そもそも療養担当規則って何?~
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
「療養担当規則」という言葉、聞いたことありますか?
レセプト業務をしていると、査定や返戻のコメントに「療養担当規則に基づき査定」と書かれているのを見かけることがあります。弊社に問い合わせいただく機会も多くあり、以前のコラムでも、関連記事を紹介したことがあります。でも、「療養担当規則に基づき査定とはどういうルールなのか」「何を守ればいいのか」がよく理解できないまま、日々の業務をしている方も多いのではないでしょうか。
実はこの療養担当規則は、保険診療を行ううえでの「ルールブック」ともいえる、とても大切なものです。まずは全体像を押さえていきましょう。
目次
療養担当規則とは?
正式名称を「保険医療機関及び保険医療養担当規則」といい、健康保険法により規定されている保険医療機関・保険医が、保険診療を適正に行うために規定されているルールです。全24条の中で、保険医療機関・保険医それぞれの責務や、診療・投薬・検査などの基本ルールを定めています。
この規則は、不必要な検査や過剰投薬を防ぎ、医療費の適正化を図りながら、患者さんに安全で公平な医療を提供するための「基本ルール」を示したものです。
つまり、保険医療機関に勤務する保険医やスタッフにとっては、「保険診療を行うときに必ず守らなければならないルール」をとなり、知らなかったでは済まされないとても重要なルールです。
保険診療で「しなければならない」5つの義務
保険診療を適正に行うために、療養担当規則では次のような「5つの義務」が定められています。
義務 | 概要 | 現場でのポイント |
① 適正な診療を行う | 保険診療は医学的に妥当かつ必要な範囲で行う | 必要性のない投薬・検査は控える |
② 診療録を記載・保存する | 診療内容は正確に記載し、5年間保存 | 電子カルテでも記録不備はNG |
③ 保険診療の範囲を明示する | 自由診療と保険診療を明確に区分 | 混合診療は原則禁止 |
④ 経済的誘引をしない | 経済的利益で患者を誘導してはならない | 薬局指定・紹介料などは禁止 |
⑤ 施設・人員体制を整備する | 必要な医師・設備を整えた上で診療する | 届出・施設基準に直結 |
こうしてみると、療養担当規則は「禁止」事項ばかりではなく、「こういう体制を整え、こう診療しなければならない」というポジティブなルール集であることが分かります。
クリニックで起きやすい「義務違反」の例
ここでは「禁止事項」というより、ルールを満たせていなかったために「返戻・査定」若しくは「自主返還(指導)」になった事例を紹介します。
<例1:診療録未記載>
適時調査や個別指導の際に、管理料の算定をしていたのに、診療録に必要事項の記載がなく自主返還を求められた。
→ 「記録義務」を満たさないと、算定できません。
記録がないことは、「やっていないこと」と判断されます。つまり、「架空請求」とされてしまうわけ
です。
<例2:必要性を欠いた長期投薬>
3か月分まとめて処方したが、必要性の証明が不十分で保険請求を査定されてしまった。
→ 投薬は「必要かつ妥当な範囲」でなければならない、という「療養担当規則に違反した」と判断され
査定された事例です。
受診間もない時期や、定期受診や検査等により診療状況(治療管理の状況)が確定できない状況において長期の投薬を指示されたのではないかと判断した場合などが該当します。このような査定を受けないためには治療効果の判定や副作用チェックのために定期的な検査が必要ではないでしょうか?
<例3:検査を繰り返したが、記載(記録)がなく「過剰」と判断>
血液検査(血糖・脂質など)を1週間おきに2回行ったところ、「必要性が不明」として査定になった。
→ 同じ検査の短期間で繰り返し実施することは、「医学的に必要であること」の記載がなければ過剰であるとみなされ査定されます。
→ 短期間で2回検査を行う必要があったはずなのですが、レセプト上でその「必要性」が見えなかった
のでしょう。レセプト請求時にコメントがあると査定を免れた例だと思います。
おわりに~:義務の視点で“適正な医療”を支える存在に
療養担当規則は、決して「やってはいけないこと」を並べたチェックリストではありません。 それは、保険診療を正しく、そして公平に行うために、「こうしなければならない」という医療機関としての“責任と役割”を示したルールブックです。
私たち医療事務スタッフも、その一翼を担っています。
・「してはいけない」ではなく、「しなければならない」ことに目を向ける
・点数表の裏側にある「請求するためには、なぜその要件が必要なのか」という背景を理解する
・返戻や査定の事例を院内で共有し理解し合う文化をつくる
こうした視点を持つことが、結果として査定やトラブルを減らすだけでなく、患者さんにとって安心できる診療体制づくりにつながっていきます。
次回は、「現場で押さえておきたい基本的なルール」を具体例を交えてみていきましょう!
<参考資料> 令和7年9月1日確認
■厚生労働省/保険医療機関及び保険医療養担当規則 ⇒(こちら)
■厚生労働省/保険診療における指導・監査 より
⇒保険診療の理解のために(令和7年度)医科 は(こちら)
(歯科)、(薬局)版もあります。ぜひご覧ください。
また、集団的個別指導での説明用スライド資料もありますので、ご活用くださいませ。
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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