
接遇レッスン/職場の安心は言葉から!~クリニックで気を付けたい【ハラスメントNGワード10選】~
長 幸美
医療介護あれこれ本コラムの内容は、執筆時点での法令等に基づいています。また、本記事に関する個別のお問い合わせは承っておりませんのでご了承ください。
「それくらい、やって当然でしょ?」
――この言葉、あなたは口にしたことがありませんか?
近年、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントへの関心が高まる中、職場内の「何気ない一言」がトラブルや離職の原因になるケースが増えています。
特に少人数で業務を行うクリニックでは、その影響は深刻です。
ハラスメントは上下関係だけでなく、同僚同士のやりとりの中でも起こります。
今回は、日常でつい口にしがちな ハラスメントNGワード10選 と、その代わりになる「一言チェンジ」を考えてみましょう。
目次
- 1 よくあるNGワードとその背景
- 1.1 「これくらいやって当然でしょ? できるわよね!」
- 1.2 「前にも言ったよね? なんでできないの?」
- 1.3 「○○さんに比べたら、まだマシじゃない?」
- 1.4 「こんなの常識でしょ!」「当たりまえじゃない!」
- 1.5 「このくらいのことで、いちいち報告しないで」「そんなこともわからないの」
- 1.6 「新人なんだから、黙って言われたことだけやっていればいいのよ!」「余計なこと考えるのは無駄だから、私が言うとおりにして!」
- 1.7 「昔の新人はもっとできたけどね」「私たちのころは、電話をとりながらでもやっていたわよ!」
- 1.8 「家庭の事情なんて関係ないでしょ」「子ども、子どもって何なの?」
- 1.9 「女性(男)なんだから、それくらいできるでしょ?」
- 1.10 「あなたにはまだ無理よ」「あ~、あなたはしなくていいから!」「〇〇さんにはさせないで!」
- 2 最後に・・・
よくあるNGワードとその背景
パワーハラスメントは「上司から部下へ」「先輩から後輩へ」という上下関係が影響するように思いがちですが、同僚同士でもあります。言われた本人や周りの人が嫌な思いをすると「ハラスメント」に該当する場合がそうです。
日常的な会話の中でありがちな言葉ですが、相手を配慮した言い方と合せて見直してみましょう!
「これくらいやって当然でしょ? できるわよね!」
【NG理由】
価値観の押し付け・過度な期待はパワハラにつながります。
先輩の皆さんも入職したての頃は何もわからず、先輩方からいろいろと教えてもらうことが多かったと思うのですが、できるようになってくると、それが当たり前になってしまい、つい言ってしまいがちです。言い方や声のトーンも大事ですよね。
【一言チェンジ】
「初めてのことだと戸惑うよね。慣れるまで一緒にやってみようか。」
「気付いてやってくれると助かるわ。お願いできるかしら?」
「前にも言ったよね? なんでできないの?」
【NG理由】
相手を責める口調は、威圧的な印象を与えます。
1・2度言われただけ(教えてもらっただけ)で、出来る方ばかりではありません。
また、作業とはいえ、何故そのようにしているのか、何のためにしているのか・・・ということを理解できるように説明する必要もあります。
また、一連の作業の中の一部分だけお願いしている場合など、特に前後がわからないので、間違えることも往々にしてあります。
【一言チェンジ】
「どこでつまずいているのか、一緒に確認してみようか。」
「大丈夫、どの部分が難しかったか、教えてくれる?」
「もう一度一緒に手順を確認しましょうね!」
「○○さんに比べたら、まだマシじゃない?」
【NG理由】
比較はモチベーションを奪い、職場の空気を悪くします。
しかも、「まだマシ・・・」っていったいどういうことなのでしょうか?
このようなことを言った本人にも、同じように言われたらどういう気持ちがするか、お聞きしてみたいなと思いますが、誰しもあまりいい気持ちはしませんよね。
【一言チェンジ】
「できているところもたくさんあるよ。ここはもう少し工夫してみよう。」
「ゆっくりでいいので、しっかりできるように頑張ろうね!」
「こんなの常識でしょ!」「当たりまえじゃない!」
【NG理由】
「常識」は人によって異なるもの。押しつけは禁物です。
皆さんの常識は、このクリニックの中だけのことで、一般的なこと(つまり、常識や当たり前のこと)ではないかもしれません。・・・そういう意識を持っていると、このような言葉は言えませんよね。
作業の目的や重要性を言葉で説明し、相手の行動や考えを確認する余裕も必要ですね。
【一言チェンジ】
「この場合はこういう対応がいいと思うよ。わかりにくかったかな?」
「この医療機関ではこういう手順を踏んでいるけれど、前のクリニックではどうしてた?」
「~(最終的な結果)~をするために、私たちは~こう(作業内容)~してきたけれど、もっといい方法を思いついたら教えてね」
「このくらいのことで、いちいち報告しないで」「そんなこともわからないの」
【NG理由】
「このくらいのこと・・・」「そんなこと・・・」って・・・どんなことでしょうか?
先輩にとっては、簡単なことでも、初めてのことだと、どうしたらいいかわからない・・・ですよね。
報告・連絡・相談のハードルを上げると、トラブルの芽が見逃されます。
遠慮なく報告・連絡・相談してもらうためには、話しやすい環境が大事だと思います。
いつでも話しかけていいよと言いつつ、眉間にしわを寄せて、「そんなこともわからないの?」なんていっていたら、誰も報告したくないと思いますよね。
【一言チェンジ】
「報告してくれてありがとう。こういう時は、次はこうするとスムーズかもね。」
「よく気が付いたね!ありがとう!そういう気付きが大事だよね」
「そうか、そこが難しかったんだね。教えてくれてありがとう! 良かった!わからないままになるところだったね。」
「新人なんだから、黙って言われたことだけやっていればいいのよ!」
「余計なこと考えるのは無駄だから、私が言うとおりにして!」
【NG理由】
発言権を奪うような言い方は、人格の否定や抑圧ととられかねません。
「新人なんだから・・・」「私が言うとおりに・・・」とは、本当にやる気を削ぐ結果になりかねません。皆さん入職したばかりの時は、新人です。仮に他の医療機関での経験があっても、当院のながれや仕組みは知らないことです。頭から相手を否定するのではなく、言葉で、「実施する内容と必要性を説明する」ということが必要です。
【一言チェンジ】
「最初は分からないことも多いけど、わからないことがあればいつでも聞いてね。」
「私たちも、間違いが起こりにくい方法を考えて今のやり方になっているけれど、これがベストではないかもしれないわ。何か良い方法があったら教えてね!」
「昔の新人はもっとできたけどね」
「私たちのころは、電話をとりながらでもやっていたわよ!」
【NG理由】
世代間の比較や昔話は、現代の価値観に合わず、やる気を削ぐ原因になります。
10年前と今とでは、世の中の仕組みも変わってきています。手書きのレセプトから、レセコンが発達して、レセプト作成も、連結のB5サイズの保険別に色分けしてあるものから、現在は電子レセプト請求が主流となり、どんどん変わっていますよね。
レセプト審査もシステムの活用が基本になり、保険資格の確認もマイナンバーカードによる資格確認が主流になってきています。
つまり、世の中の仕組みも変わり、皆さんに求められることが変わってきているのです。
そのようななかで、昔話や苦労話をされても、その時代に戻ることも出来ないし、知らないし答えようがないわけです。
【一言チェンジ】
「昔は(~こんな~)こともあったけれど、仕組みはどんどん変わっていくから、現状に合わせていかないといけないわね」
「新しい仕組みはなかなか難しいこともあるから、みんなの知恵も借りたいわ。この仕組みの中で、(~こういう~)結果を出すために、どうしたらいいか、みんなも一緒に考えてくれる?」
「家庭の事情なんて関係ないでしょ」「子ども、子どもって何なの?」
【NG理由】
ライフスタイルや背景を無視した発言は、配慮欠如と受け取られます。
家庭は皆さんも含めて生活の基盤になるものです。それぞれの抱えている事情も違います。その制約のある中で、皆さん働いています。
シングルマザーで頑張っておられる方もあり、ご家族が具合が悪いといった場合もあります。ご家族を介護しながら働いている方も多いでしょう。
私自身もいつどんなことが起こって、同僚の皆さんの助けが必要になるかわかりません。誰しも、ひとりで生活しているわけではないし、ひとりで仕事ができるわけでもありません。「お互い様」なのです。そのような寛容な気持ちで一呼吸おいてみましょう!
【一言チェンジ】
「大変な時期だと思うけど、できる範囲で一緒に調整していこう。」
「うちの子が小さい時も、周りの皆さんに助けてもらっていたわ。子どもとの時間は今しかないから、大事にしてね。」
「お母さんの具合は大丈夫?無理しないでね。何の仕事が終わってないのか、引継ぎ(情報共有)して帰ってね」
「女性(男)なんだから、それくらいできるでしょ?」
【NG理由】
性別を根拠にした期待や役割押し付けは、ジェンダーハラスメントに該当します。
女性だから細かいところに気付き、男性だから気付かない・・・ということはありません。
パソコン作業や体を動かすような作業も同様ですね。
どんな人にも、「得意なこと」「不得手なこと」があります。それを的確に把握して配慮し仕事を配分するのも先輩や上司の役割だと思います。
決めつけることなく、対応できるといいですね。
【一言チェンジ】
「この作業、得意な人にお願いしたいんだけど、○○さんお願いできるかな?」
「手が空いている人に、この仕事をお願いしたいのだけれど、〇〇さんお願いできる?」
「あなたにはまだ無理よ」「あ~、あなたはしなくていいから!」
「〇〇さんにはさせないで!」
【NG理由】
本人の成長意欲や可能性を頭ごなしに否定する言葉は、パワハラと受け取られることもあります。
たまに、「これまで新人にお金を扱わせて、お釣りの間違いがあったから、まだ無理です!」「仕事を教えるには順序があります」ともっともらしい理由をつけて、仕事をさせないようにしている職場を見かけます。
誰だってはじめは「新人」なんです!皆さんもその「新人」の時期を経て今があります。
その時のことを思い出してください。明確な結果と手順を示して作業を教えればクリニックの受付で、入職してすぐでもやれることはたくさんあると思います。
仕事をさせないということは、明らかにハラスメントに該当します。
【一言チェンジ】
「段階的にステップアップできるように、少しずつやってみようか。」
「この仕事は、(~こういう~)間違いが起きないように、手順を確認しながらやってみてね」
「少し難しいかもしれないけれど、やれるところまでやってみてくれる?難しいところは、一緒にやってみようね」
最後に・・・
さて、今日は日常的に「つい言ってしまいがち」なハラスメントNGワードを見てきました。
読みながら「ドキッ」っとされた方もあるかもしれません。
ありがちな言葉で、誰しも加害者になり得るのではないでしょうか。
能力以上の仕事を与えることも、逆に過小評価して仕事をさせないこと(教えないことを含める)も、どちらもハラスメントに該当します。他の医療機関で経験があるなら、「出来るものなら、やってごらんなさい!」と言わんばかりの先輩にもたまに遭遇しますが、その状態で仕事を教えない、ということになると、明らかにハラスメントです。
新入職員が入っても、長く続かず、1~2週間で辞めてしまう現場は、もしかしたら、このようなハラスメントが原因だったかもしれません。ぜひ、日常の仕事やスタッフ間のコミュニケーションを見直してみてください。
また、ハラスメントを防ぐための「職場の雰囲気」づくりも大切になります。
言葉づかいだけでなく、「相談しやすい」雰囲気や、「失敗してもリカバリーできる」という空気を作ることが、ハラスメント防止につながります。
「人間関係の良い職場」は、スタッフの定着率や患者満足度にも直結します。
今日から1つでも、一言チェンジを取り入れてみませんか?なるでしょう
それが、スタッフも患者さんも安心できるクリニックづくりの第一歩になるでしょう。
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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