レセプトの点検と査定~査定が少ない医療機関に学ぶ~
長 幸美
医療介護あれこれ皆さんの医療機関では、レセプトの点検はどのようになさっているでしょうか?
レセプトチェッカーを導入しているから、ウチは大丈夫!・・・という言葉もよくお聞きしますが、レセプトの査定事例は増えていませんか?
実はレセプトチェッカーではチェックできない内容もあります。
今日はレセプトの審査や査定から、レセプト点検業務を考えてみましょう!
そもそもレセプト点検とは?
レセプト(診療報酬明細書)は1か月分の診療費を翌月10日までにまとめて支払基金や国保連合会に請求します。医事課の職員は、先生方や医療職の皆さんの医療行為に対し、もれなく診療報酬にかえる為、病名の漏れはないか、正しく請求されているかどうか点検を行い、レセプト請求を行います。病名だけでは説明しきれないものは、何故その診療行為が必要だったのか、説明(コメントや症状詳記)を付記して診療報酬の妥当性を理解してもらい、査定を受けないようにしています。
最近では、病名もコメントも厚労省コードがついているものを使うように細かく指定されていますが、これは、審査支払機関の業務効率化のためです。どこの業界も人出不足があることと、審査機関により、審査のばらつきをなくすために、機械による審査・決定を行うように仕組みを変え、電子的な審査に切り替えが進んできています。
このために、厚労省が指定しているコードにより入力することを求められています。
電子的な審査のみになれば、ワープロ病名やコメントは判断の対象にはなりませんので、コード入力することが必要です。
レセプト審査
診療報酬は、皆さんからの保険料の他、税金や企業から納めてもらったお金がもと(原資)になっています。社会保険方式では税金が投入されています。このため公平に診療報酬を支払うことが必要になります。診療報酬の支払いルールには、保険医が保険医療機関において健康保険法等の法律や療養担当規則を遵守して行った「妥当適切な医療」に対し「診療報酬点数表に則った請求を行った場合」に支払うことが、ルールとして記載されています。
つまり、皆さんから集められたお金ですので、請求されたレセプト(診療報酬明細書)の請求内容が保険診療のルール(療養担当規則、診療報酬点数表等)に対し適正かどうか、妥当性を審査されているのです。
審査の結果妥当性を欠く場合は、返戻や査定により、調整される・・・これがレセプト審査です。
審査結果は個別に通知されます。具体的には、診療内容に対し病名がなかったり(適応外)、医学的に回数や量が多いと判断されたり(過剰)、医学的に不必要若しくは不適切と思われたりした場合は、その診療行為の点数を減額して支払額が決定されます。これが「レセプト審査」です。調剤薬局のレセプトと突合される場合もあります。
レセプトの返戻
レセプト審査の結果、記載事項の不備や不明点があり、医療行為の適否の判定ができなかった場合など、請求内容に疑義が生じた場合などは、レセプト自体が医療機関に差し戻されます。
これが「返戻(へんれい)」です。
「返戻」されたレセプトは、疑義等を訂正し再度次の月の請求の中に含めて請求することになりますが、医療機関への入金がおくれることになります。
「返戻」される原因で一番多いのが、氏名、生年月日、性別、保険内容の誤り等の事務手続きの不備です。数か月後に保険等の誤りが発覚しても、患者さんと連絡が取れないことも多く、事務作業は増加してしまいます。場合によっては請求自体ができなくなることもあります。オンライン資格確認の導入で、これらの事務作業が軽減され、資格誤り等による返戻がなくなることが期待されています。
レセプトの査定(減点)
レセプトで請求された内容について、審査支払機関(社会保険支払基金、国保連合会)が審査した結果、保険診療上のルール上不適当であると判断された場合、請求した項目を認められず減点・過誤調整されることがあります。これが「査定(減点)」です。
査定された内容は「増減点連絡書(通知書)」により医療機関に通知されます。
この「査定」内容は、「事由」といってアルファベットの記号で記されています。この内容をあらかじめ知っておくことにより、査定理由を推測することが出来るようになります。
支払基金と国保連合会により若干記号の表示に違いがありますが、詳細は、それぞれのホームページ等に記載されていますので、ご確認ください。
※社会保険支払基金/増減点連絡書・各種通知書-医療機関・薬局- はこちら
※国保/増減点連絡書・各種通知書の見方(兵庫県国民健康保険団体連合会)はこちら
A査定:医学的に適当と認められないもの
一言でいうと「病名漏れ」ということが多いです。
「適応外」「病名の不一致」といわれるものもあります。
B査定:医学的に過剰、重複と認められるもの
薬の過剰投与(量が多い、種類が多い、重複した内容の処方が出ている、等)や検査・画像診断の過剰(頻回の検査や画像診断、等)な事例が多いです。
C査定:A・B以外の医学的理由により適当と認められないもの
薬剤の禁忌・用法外使用に関するものや、A・B以外の医学的理由により不適切と判断されるもの、と説明されています。慎重投与や疾患名や診療の流れから見て、「いらないのではないか」「手順を踏んでいないのではないか」というようなものも含まれているように思います。
D査定:告示・通知に示された算定要件に診療行為が合致していないと思われるもの
一番わかりにくいのがこのD査定といわれるものだと思います。告示・通知が出されていますが、その疑義解釈など事務連絡で細かな取扱いや算定要件が示されています。その内容に合わないのではないか、といわれているものです。
J査定:縦覧点検によるもの
同じ患者の過去数か月分のレセプトを並べ合わせて審査することを縦覧点検と言います。
縦覧点検では、PSAなどのように「数カ月に1回算定可能」と規定されているものに対し、算定の間隔等が正しく算定されているかどうかを審査され、間隔が短かったときなどに査定されます。
Y査定:横覧点検によるもの
入院レセプトと外来レセプトを照合するものです。
例えば、特定疾患療養管理料は、退院後1か月は算定できないルールですが、算定している場合など、この横覧点検により請求誤りとして査定されます。
T査定:突合点検によるもの
院外処方を行ったレセプトと調剤レセプトの傷病名と合っているか、適応のない医薬品が処方されていないか、薬効が重複したものが処方されていないか、を突合審査されます。突合した結果、請求が適応外等不適切であった場合は、薬局が薬剤を渡しその薬剤料をもらったとしても、院外処方せんを発行した医療機関で減点(相殺)されます。
その他の査定:事務上に関するもの
上記以外に、固定点数が誤っているもの(F)、請求点数の集計が誤っているもの(G)、縦計計算が誤っているもの(H)、等があります。
再審査請求
医療機関に増減点通知書が送られてきたら、査定の内容を確認します。そして査定の内容に納得がいかない場合には、審査支払機関に再審査を申し立てることができます。これを「医療機関の再審査請求」と言います。
社会保険支払基金、国保連合会、それぞれに所定の様式がWebサイトにて公開されています。
その書式に則って、再審査内容とその理由を記載し、審査支払機関に提出します。「疑義申請」といわれる場合もあります。
再審査請求の結果は、増減点通知書の中で、通知されます。
結果は①原審通り、②一部復活、③復活の三種類です。
再審査申請は、医療機関の妥当性を確認する意味でも、効果的に活用してほしい仕組みです。
再審査を申し立てることなく、査定されるからといって「請求しない(過小請求)」ことを選択される場合があります。これはある意味、「間違えた請求をしていた」ということを認めることにもなります。すると審査側は、他にもこのような間違いがあるかもしれない・・・と探すことになりますので、査定が増えてしまうことにもつながる可能性があります。
また、審査結果に対し何も行動を起こさず、そのまま請求し続ける選択をされる医療機関さんもありますが、そうすると個別指導の対象になるケースもあります。
査定された内容は確認して、再審査請求を起こすことで査定対策にもなりますので、検討していただければと思います。
医療機関における査定減への取り組み事例
いくつかの医療機関の取り組み事例を紹介します。
日常点検の実施
忙しい業務の中で、会計計算後に点検している医療機関さんはどのくらいあるでしょうか?
「初診料」を算定する患者さんを重点的に点検して査定を減らしている医療機関があります。薬剤の継続投与やリハビリなど繰り返しの業務が多い中でも、初診料を算定するときにはチェックしないといけないポイントが多いものです。これらをできるだけその日のうちに点検し、先生に病名をつけてもらうことやカルテ記載等をチェックすることはとても有効です。
紙レセプトでの点検をしてみる
レセプトになれていない職員が多い場合、電カルで入ってくるレセプト情報の間違い等に気付くのはなかなか難しいのが現状です。誰かが入力し電子化された情報は、信じやすいものですが、ましてや院長(医師)が入力したものだと、「間違いない!」と思い込んで画面を見ていても、スルーしてしまう・・・ということは私も医療機関勤務時代に経験があります。初心者に疑問を持て!というのは酷だと思います。単科の医療機関(診療所)であれば、3か月分くらい紙のレセプトで点検業務を行えば、自然と薬剤や算定方法も見ていくことになりますので、間違いの指摘がしやすくなります。
修正した後のレセプトを印刷して確認する医療機関も多いようです。
せっかく間違いに気が付いていても、修正したかどうかの確認をしていなくて、査定されてしまったら、本当にもったいないのでこの方法もよいと思います。
レセプトチェッカーの特性を理解し、有効に活用する
ある医療機関からの相談で、レセプトチェッカーを導入したのに、一向に査定が減らない!といわれたことがあります。レセプトチェッカーは、例えば「一つの薬剤の病名があるかないか」ということや、「算定ルールに則って、病名があるから、この指導料が算定漏れています」ということは指摘してくれます。
レセコンでも電カルでも、「算定漏れ」や「病名もれ」はチェックしてワーニングを出してくれますが、エンターキーを押して消すことは簡単にできますし、面倒だな・・・と勢いに乗ってあまり確認せずに消してしまうなんて経験もあるのではないでしょうか?
レセプトチェッカーによっては、外来の複数月の検査の重複などのチェックが入るものもありますが、入院と外来が混在するとチェックがかからないというものもあります。複数薬剤を投与している場合に、併用禁忌や慎重投与など、コメントが必要なものも漏れてしまうことがあります。
査定減点を減らす取り組みとして、こういったレセプトチェッカーの癖(特性)をしっかりと理解して、引っかからないものについては、レセコンで診療行為別の一覧表等を活用し、確認することは有効だと感じます。実はこの方法を取り入れている医療機関はかなり多いようです。
在宅医療や手術など、高額になるレセプトを別に点検する
在宅医療は、1カ月たってみないと算定が決められないものもあります。月初めには検査で算定していても、腫瘍マーカーのように、確定病名がついてしまった場合は算定を変更しないといけないものなどもあります。手術などについても、術前術後の検査や管理料など、修正が必要なものも出てきます。在宅医療に関しては、算定誤りも多いので、根本的に学ぶことも大事になります。
勉強会の実施
査定・減点の情報は、良い学びになります。よく査定されるものが何かを見て、その内容を月末に診療行為別の一覧表をだし集中的に点検してみるのも一つの手です。
また、検査・画像診断や処置、手術など、どのように実施しているのか、見学に行かれるといいでしょう。一つは、先生をはじめとする医療職の方々とのコミュニケーションが取れるようになります。
私も病院時代には処置や検査内容を見せてもらい、その際にいろいろな話をしてくださって勉強になりました。また、処置等を見ることにより、算定漏れに気付くこともあります。現場を知ることはとても有効です。新しい薬品の紹介や医療機器の導入前など、興味を持って見に行って学んでほしいなと思います。
また、点数表の読み合せを行うことも効果的です。例えば、「外来迅速検体検査加算」は外来で点数表に定められた一定の検査項目については、その日のうちに患者さんに文書で結果を説明した場合に算定できますが、規定された検査項目のうちに1項目でも結果説明ができない場合は算定ができなくなります。こういった細かなルールの確認をするためにも、読み合せをしてお互いにルールを確認していくことは効果があります。
まとめ
査定や減点をゼロにするのは、なかなか難しいかもしれません。医療は日々進化していますし、審査する先生も交代することがあり、新たな視点で査定されることもあります。しかし、そのままにしておくことは後々よくありません。しっかりと対応し、先生方の診療行為を正しく収入に替えていく努力は必要です。
私も悩みながら、日々忙しい中取り組みをしてきました。
今はICTも発達してきていますので、うまく活用して適切な請求ができるようにしていきましょう!
<参考資料> 確認日R6年1月12日
※社会保険支払基金/増減点連絡書・各種通知書-医療機関・薬局- はこちら
※国保/増減点連絡書・各種通知書の見方(兵庫県国民健康保険団体連合会)はこちら
2024年1月15日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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