【医療介護あれこれ】令和2年度診療報酬改定の基本方針

長 幸美

アドバイザリー

11月18日に令和2年度の診療報酬改定の基本方針(案)が出されました。

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(出典:令和2年度診療報酬改定の基本方針(骨子案の概要)_20191118社保審医療部会)

これまでの改定と同様に四つの視点により「地域医療構想」「地域包括ケアシステム」を推進する形になっています。
これは「国民皆保険制度」を守りつつ、地域の中での「安心して暮らせる場づくり」・・・つまり「まちづくり」・・・のために、また、「人生100年時代」をどのように考えていくのかというところが大きな課題となります。
2025年問題は、いわゆる「団塊の世代」がすべて後期高齢者となる年代として課題提起されていましたが、次の段階として、「団塊ジュニア世代」が65歳以上の高齢者となる2040年ごろに焦点を当てられています。
実際にこの傾向は始まっていて、皆様の医療機関や事業所でも職員の採用についてお悩みになっているところが多くなっているのではないかと思います。
この現状をどのように解決していくかということが、近年の改定の中のメッセージとしてちりばめられており、その傾向は今回の改定でもより濃くなっているという印象を受けています。

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この状況を踏まえたうえで、今回の改定の骨子を見ていきましょう。

【健康寿命の延伸、人生 100 年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現】
働き手が少なくなるわけですから、これは、医師・看護師をはじめとする医療専門職も同様に手が足りなくなると考えられます。このために「働き方改革」重要となります。
近年「医師事務作業補助者」に対する評価がついてきていますし、急性期医療を評価した診療報酬についても、「医師・看護師の負担軽減」への取り組みが求められてきました。介護の改定においても、「処遇改善加算」については、この一環であろうと考えています。
また、電子カルテ等のIT化が進んでいますが、実は多くの病院でアナログな手順を見直さずに導入し、逆に職員増がおこり、また手順が煩雑になり疲弊している病院様も多くなってきました。根本的な業務内容の見直しを行わなければ、ならない時期に来ていると思います。
技術革新とともに、医療機関は、その規模の大きさを問わず・・・いえ、クリニックや小規模の医療機関こそ、「効率化」「適正化」を進めていく必要があるのではないでしょうか?

【患者・国民に身近な医療の実現】
患者にとって「生活圏の中で医療・介護の提供が受けられる」ということこそ、地域包括ケアシステムの神髄であろうと思います。
「働き手の減少」時代の中で、「医療・介護の需要の拡大」を迎える現代は、効率化だけではなく、「医療サービスの利用の仕方」「介護サービスの利用の仕方」についても同様に考えていく必要性を検討されています。
この取り組みは、「上手な医療のかかり方の普及・啓発」として、今回社会保障審議会の中で「上手な医療のかかり方アワード」という形で、出てきているのではないかと思います。

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(出典:「上手な医療のかかり方の普及・啓発」20191118_社保審医療部会)

 

【(どこに住んでいても適切な医療を安心して受けられる社会の実現、医師等の働き方改革の推進】
2040年の医療提供体制の展望を見据え、地域医療構想の実現が必要であり、実効性のある「医師偏在対策」「医師等の働き方改革の推進」が必要だと考えられています。
つまり、医療機関の周辺状況をしっかりと把握し、自院ができることを冷静に評価し、軸足をどこに置いていくのか、何を実行し、どことつながっていくのかを考えていく必要があります。

【社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和】
制度の安定性・持続可能性を確保しつつ国民皆保険制度を堅持するためには、保険料などの国民負担や物価・賃金の動向、医療機関や経営状況、国の財政にかかる状況等を考慮しつつ、必要なところに効率的に配分できるしくみや医療分野におけるイノベーションの評価も必要であると考えられています。

【改定の基本的視点と具体的方向性】
前回改定では6年に1回の診療報酬・介護報酬の同時改定であり、医療と介護の連携や役割分担、シームレスな連携を双方の視点から改定が行われました。
今回の改定に当たっては、これらの取り組みがさらに推進されるように勧めていくとされています。これまでの流れに、さらに「働き方改革」の視点が入っていくことになるようです。

1.医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進
2024年4月(令和6年)から医師について時間外労働の上限規制が適用される予定であり、各医療機関は院内で「労働時間」を把握していく必要があります。
すでに大学病院等の大病院を中心に「医師の派遣」について再検討をされ、影響を受けている中小の病院様も出てきています。
診療報酬においては、これまで以上にタスクシェアリングタスクシフティングやチーム医療、多職種連携について評価されていくのではないかと考えます。

<具体的方向性の例>
医師等の負担軽減等につながる取組の評価
・ 医療機関内における労務管理や労働環境の改善のためのマネジメントシステム
の実践に資する取組を推進。
タスク・シェアリングタスク・シフティング、チーム医療を推進。
・ 届出・報告の簡素化、人員配置の合理化を推進。
○ 地域医療の確保を図る観点から早急に対応が必要な救急医療体制等の評価
業務の効率化に資する ICT の利活用の推進
・ ICT を活用した医療連携の取組を推進。

2.患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
地域の中で「安心・安全に」暮らし続けるという視点であることは、前回から変わりがないと思われます。その視点を持ちながら「自医療機関の機能を確認し、強みを生かし連携していくこと」を考えていくことが必要ではないかと思います。

<具体的方向性の例>
かかりつけ医・歯科医、かかりつけ薬剤師・薬局の機能
⇒複数の慢性疾患を有する患者、しかも高齢化していけば認知機能にも問題がでて来ると予測される高齢者に対し、「口から食べる」「必要な薬を服薬する」「住み慣れた地域で暮らし続ける」ということに対し、どうサポートできるのか、かかりつけ医はそのコーディネーターの役割も求められている用意思います。
〇患者にとって必要な情報提供、相談支援等の評価
⇒重度化予防の取り組みや治療と仕事の両立に関する取り組みなど
アウトカムに着目した評価の推進
⇒質の高いリハビリテーション
〇重点的な対応が求められる分野
⇒がん、認知症、精神科の地域移行・生活支援の充実、難病、小児。周産期医療、
救急医療の提供
⇒医薬品、医療機器等イノベーションを含む先進的な医療技術
口から食べることへの評価・・・歯科医療の推進
⇒看取り期の在り方も含め、現在全国あちらこちらの在宅専門医の中で「口から食べる」ことに対する効果や「生ききる」ということへの提言が出されていると思います。前回改定でも強いメッセージが出されていました。ここは注目していきたいと思います。
〇薬局の地域におけるかかりつけ機能
⇒院内の薬剤師の役割と地域の調剤薬局の薬剤師の役割が少しずつ分かれてきているように思います。中医協の審議資料を見ていても、薬の飲みすぎ(重複)、飲み忘れに対しては薬剤師のかかわりが評価されているように思います。
〇医療におけるICTの利活用
オンライン診療が主なところになるかと思います。対面診療の情報量よりもオンライン診療ではどうしても少なくなりますが、医療過疎地にとっては、とても有効な活用方法があると思います。

3.医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進
地域の中で、一つの医療機関ですべての医療を提供できるわけではないと思います。
この医療機能の分化・強化については、「自医療機関の実力を知ること」だと考えています。多様な医療提供については限界がありますし、人口も減少する地域が多い現代の中で、今まで通りの医療提供や事業展開をしていては、破綻することが予測されます。自医療機関を守るためにも、地域を守るためにもこの「医療機能の分化・強化」「連携」を考えていくことは重要な視点だと思います。

<具体的な方向性の例>
〇入院医療の評価
⇒看護必要度の見直し・・・患者状態に応じた適切な医療資源の投入の評価
〇外来医療の機能分化
⇒大病院の受診時の定額負担制度・・・400床⇒200床が検討されています。
このように、大病院が中小病院と同じことをしていてはいけないということだと思います。
〇在宅医療・訪問看護の確保
⇒住まいの情況や地域を考え、患者の状態に応じた提供が求められると思います。
地域包括ケアシステムの推進
⇒「ほぼ在宅、時々入院」という生活を中心とした医療の提供が求められていると思います。
また、在宅においても、専門職がかかわる・・・つまり食事に関しては管理栄養士がかかわること、服薬に関しては薬剤師がかかわることが求められています。

4.効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
高齢化や技術進歩が進む中で、効率的な使用、適切な使用というものが求められています。
後発医薬品やバイオ後続品の使用促進
⇒後発医薬品については2020年9月までに80%の使用という目標が掲げられています。
医薬品の適正使用
重複投薬やポリファーマシー、残薬、薬剤耐性(AMR)などの適正使用長期投薬への在り方など
〇費用対効果評価制度
〇市場実勢価格を踏まえた適正な評価
〇医療機能や患者状態に応じた入院医療の評価
〇外来医療の機能分化・重度化予防

【将来を見据えた課題】
2025年問題は今や「2040年問題」として高齢化の進展とともにサービスの担い手が少なくなる超高齢化・人口減少社会の到来に向けて議論が進められています。
前回改定で出てきた「共生社会」への対応についても求められるものが多くなると思います。年々複雑化する診療報酬請求制度ですが、適正な請求を行うためにもしっかりと動向をみていきたいと思います。

<参考資料>
〇第70回社会保障審議会医療部会(20191118)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000210433_00008.html

〇令和2年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)_社会保障審議会医療部会
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000567797.pdf

〇令和2年度診療報酬改定の基本方針_社会保障審議会医療部会
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000567797.pdf

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