【令和2年度診療報酬改定】精神科医療について

長 幸美

アドバイザリー

今回の改定、精神科医療を行う医療機関にとっては、かなり大きな改定になっているのではないでしょうか?

これまで、精神科医療については、「入院医療」が中心で、急性期を受けるか受けないかというところで、大きく差がついていた印象がありました。しかし、一般病院での「急性期⇒回復期⇒慢性期⇒在宅」という流れは、これまで以上に明確になってきていて、精神科領域でもこの流れをしっかりと検討するようにメッセージが感じられます。

精神医療の場合、一般の疾患よりも、より密接に「教育現場」「職場」「行政」とのかかわりをもち、患者及びその家族、地域の住民を支えていく体制を求められているようです。「地域住民を支える医療」の視点を持ち、どこに軸足を置いていくのか、ポジショニングを決めていく必要があります。
細かな内容は、告示後に見ていく必要がありますが、個々では、大きくどのような観点で今回の改定が行われているのか、見ていきましょう!

【医療的ケア児にかかわる主治医と学校医との連携】
診療情報提供料(Ⅰ)において、医療的ケア児が通う学校の学校医等に情報提供した場合の評価が新設されています。家族を支えていくうえでも、医療機関が積極的に学校関係者とコミュニケーションをとり支援することが求められていると思います。

◆診療情報提供料(Ⅰ)の注7・・・月1回に限り算定可能
⇒学校関係者あて、校医(嘱託医)あて、に情報提供した場合
(同一の医師の場合は算定不可)

【精神病棟における退院時共同指導の評価】
一般病棟と同様に精神科においても、退院時共同指導の評価がついてきました。
入院医療を提供する保険医療機関の多職種チームと、地域において、当該患者の外来又は在宅医療を担う保険医療機関の多職種チームが、退院後の療養等について、共同で指導等を行った場合の評価を新設されています。
精神的に不安定な状態にある方、その家族の方は、地域の生活の中でも、より多くの支援を必要とされています。認知症の患者の徘徊に対し、地域住民をあげて取り組みを進められていますが、同様に精神疾患を持った方に対しても、多くの理解者が必要になってくるのではないかと思います。
地域移行加算とともに、地域への退院を促進したい、さらに地域との連携も求められているのだと思います。

◆精神科退院時共同指導料1(外来又は在宅医療を担う保険医療機関の場合)
イ 精神科退院時共同指導料(Ⅰ)1500点
ロ 精神科他院時共同指導料(Ⅱ) 900点

◆精神科他院時共同指導料28入院医療を提供する保険医療機関の場合)700点

【精神科外来における多職種による相談支援・指導への評価】
精神病棟に入院中に精神科退院時共同指導料1を算定した患者に対して、精神科外来において多職種による支援及び指導等を行った場合について、通院精神療法に加算を設けることとされました。
先にあげた「精神科退院時共同指導料1を算定した患者」に対して、精神科を担当する医師の指示のもと、保健師・看護師又は精神保健福祉士が療養生活環境を整備するための支援及び指導を行った場合に加算として評価されました。

◆通院・在宅精神療法 注8_療養生活環境整備指導加算 250点
⇒対象患者:精神科退院時共同指導料1を算定した患者
⇒実施者 :精神科医師の指示のもと保健師・看護師又は精神保健福祉士
⇒実施内容:療養生活環境を整備するための支援及び指導を行った場合
⇒算定期間:初回算定日の属する月から起算して1年を限度。月1回に限り算定
⇒実施要件:以下のいずれも満たすこと
ア 支援方針等について多職種カンファレンスの実施(3月に1回)
イ 患者の状態を把握し多職種が共同して支援計画を作成、診療録へ添付
※「包括的支援マネジメント実践ガイド(精神障碍者の地域生活支援を推進する政策研究班作成)」を参考にする
ウ 医師の記録
① 当該患者の療養生活環境整備支援
② 指導を担当する看護師又は精神保健福祉士への指示事項
エ 当該患者を担当する看護師等又は精神保健福祉士は、イにおいて作成した
支援計画の内容を患者等に説明したうえで療養生活環境の整備のための支援及び指導を行うこと
※カルテの記録⇒担当する患者ごと
療養生活環境の整備のための支援・指導記録を作成当該療養指導記録に指導の要点、指導実施時間を明記する

【精神科在宅患者に対する適切な支援の評価】
精神科在宅患者支援管理料1及び2について、対象患者の要件等を見直すとともに、引き続き訪問診療を行う場合の評価が新設(精神科在宅患者支援管理料3)されました。
また、関係機関の職員等と共同して実施するカンファレンスの開催頻度等の要件の見直しが行われ、初回は対面のカンファレンス、2回目以降についてはウェブ会議(ビデオ通話)等も可能とされています。

◆精神科在宅患者支援管理料3・・・月1回に限り算定
イ 単一建物診療患者1人   2030点
ロ 単一建物診療患者2人以上 1542点

⇒在宅で療養を行っている通院が困難な患者
精神科在宅患者支援管理料1または2を算定した患者であって、引き続き訪問診療が必要な患者が対象
上記1または2の初回算定日の属する月を含めて2年を限度
1・2と3を同月に併算定することはできない。

※1・2についても、算定要件が新設され、「在宅で療養を行っている通院が困難な患者」に対して施設基準を取得している保険医療機関の精神科医師等が当該患者またはその家族の同意を得て計画的な医学管理のもとに定期的訪問診療、または訪問診療及び訪問看護を行っている場合に単一建物診療患者の人数に従い当該患者1人につき月1回に限り算定することとされています。なお、1・2の「ロ」に関しては、初回算定月を含めて6月以内とされています。

カンファレンス(チームカンファレンス)に関しては2月に1回以上は保健所又は精神保健福祉センター等と共同して会議を開催することとされています。
初回のカンファレンスは対面実施し、2回目以降はWeb会議(ビデオ通話)でもよいこととされています。

※経過措置が、令和3年3月31日まで(令和2年3月31日時点で算定している患者)

◆精神科訪問看護基本療養費_精神科複数回訪問加算
⇒1日に2回又は3回・・・それぞれ4500円又は8000円加算
※精神科訪問看護・指導料における精神科複数回訪問加算についても同様

◆訪問看護管理療養費_精神科重症患者支援管理連携加算
⇒チームカンファレンス及び共同カンファレンスの要件について、精神科在宅患者支援管理料と同様に見直す

 

【地域移行機能強化病棟の継続と要件の見直し】    
地域移行機能強化病棟入院料については、当該入院料の算定にあたって要件となっている許可病床数にかかる平均入院患者数の割合を見直すとともに長期入院患者の退院実績にかかる要件の見直しが行われています。
実際にこの病棟は病床数の要件等があり、取得しにくい状況があり、なかなか取得が進まなかったという事情もあるようですが、「精神科の患者の在宅移行について、さらに進めていきたい」「精神障害があっても、地域の中で暮らしていくことを支えてほしいというメッセージが感じられます。

 

◆地域移行機能強化病棟の施設基準

a 精神科の許可病床数にかかる平均入院患者数の割合・・・0.85
b 長期入院患者の退院実績 ・・・2.4%に引き上げ

キャプチャ キャプチャ1

このほか、病床数を「届出病床数の5分の1に相当する数の精神病床を減らしている」ということがありましたが、これは、今回、「算定開始以降、1年ごとに1回以上、当該保険医療機関全体の精神病床について、当該保険医療機関の所在する都道府県に許可病床数変更の許可申請を行っていること。」とされその計算式が、以下のとおり変更になっています。

キャプチャ1

◆地域移行機能強化病棟の人員配置
⇒当該病棟に、専従常勤の精神保健福祉士が1名以上配置され、かつ、専任の常勤の精神保健福祉士が1名以上(入院患者が40名以上の場合は2名以上)配置されていること

【精神科急性期医師配置加算の見直し】
精神科急性期治療病棟入院料1における精神科急性期医師配置加算について、現行の要件である新規入院患者の自宅等への移行率に加えて、クロザピンを新規に導入した患者数の実績によって3つの類型に分けて評価することとされました。

◆精神科急性期医師配置加算(1日につき)
⇒1.精神科急性期医師配置加算1      600点
2.精神科急性期医師配置加算2
イ 精神病棟入院基本料等の場合    500点
ロ 精神科急性期治療病棟入院料の場合 500点
3.精神科急性期医師配置加算3      450点
<施設基準>
〇精神科急性期医師配置加算1
⇒精神科救急医療にかかる実績を相当程度有している
直近1年間当該病棟においてクロザピンを新規に導入した実績を相当程度有している

※算定できる病床(病棟)の入院料が決められているので、十分に確認をしましょう。

※精神急性期医師配置加算3に関する施設基準については、「措置入院患者、鑑定入院患者及び医療観察法入院の決定を受けたものを除いた新規入院患者のうち4割以上が入院日から起算して3月以内に自宅等へ移行(退院)していることが要件に入っています。また、クロザピンの新規導入実績が3件以上、時間外、休日または深夜における外来診療が年間20件以上、うち入院が8件以上など、それなりの救急医療体制、外来の緊急受け入れ態勢なども必要となっています。

【自動思春期の精神疾患等に対する支援の充実】
小児特定疾患カウンセリング量について、「公認心理士」が実施する場合の評価を新設することになりました。また、対象に被虐待児等を含むことを明確化されています。

◆小児特定疾患カウンセリング料  公認心理士による場合 200点
⇒対象診療科は小児科もしくは心療内科
⇒一連のカウンセリングの初回は医師が実施、

治療計画を立てた患者に対し、乳幼児期及び学童期における特定の疾患を有する患者及びその家族等に対して日常生活の環境等を十分勘案したうえで、医師の指示のもと、公認心理士が当該医師による治療計画に基づいて療養上必要なカウンセリングを20分以上行った場合に算定できるものとされました。また、継続的にカウンセリングが必要であると認められれば、3月に1回程度、医師がカウンセリングを行うことが求められています。

【クロザピンを投与中の患者に対するヘモグロビンA1cの測定にかかる要件の見直し】
クロザピンを投与中の患者に対しては、月に1回に限り別に算定できるようにされました。
地域移行機能強化病棟については、病床数の削減がネックになっているということをお聴きしたことがあります。この辺り、かなり慎重に判断する必要もあり、自医療機関の診療機能、入院治療の内容、周辺の医療機関の状況など、総合的に見て判断していく必要がありそうです。3月5日には告示が出るとの情報がありますので、今後、告示を見ながら、自医療機関の役割、何を実施していくのかに応じて、基準の取得を検討されてみてください。

<参考資料>
〇厚労省(中医協):個別改定項目について_20200207
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000593368.pdf

医業経営支援課

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