医療介護あれこれ 医療実務研究学会2018 に参加して

長 幸美

アドバイザリー

澄み切ったさわやかな秋晴れの土曜日、別府パストラルの研修室にて、医療実務研究学会2018が開催されました。今回は初めて大分開催、しかも、専門学校生にも門戸を開き、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。

図1

 

医療実務研究会は、病院の事務職員のための「医療事務~事務管理職まで幅広い人材育成を目的とした一般社団法人です。私も、病院時代、未収金管理や経理報告、調定まで事細かな事務作業や情報の取り方、発信の仕方等を学ばせてもらい、今現在の礎を築いてもらったといってもいい存在です。通常は病院職員の参加しか認められていませんが、今回は学会形式のため、薬品の卸会社、銀行、システム会社、テレビ局、など、多彩な方々が参加されていました。

 

今回の演題は11題、各病院の取り組みの発表により、勧められ、最後に「特別企画」として専門学校の学生、先生方、医療機関の事務職員のリーダーが対談するという、初めての試みもあり、とても興味深い内容となりました。

 

【第1題 5つの隠し味で読みたくなる広報誌】

広報誌のリニューアルへの取り組みについての発表でした。

5つのエッセンスを取り入れ、「読んでもらう」「楽しみに待ってもらえる」広報誌へのリニューアルプロジェクトについて、「おいしく調理する」という視点で、取り組んだ内容の発表がありました。

これは、「広報誌」の役割を見直すうえでは、医療機関だけでなく、広報誌を作る方々、皆さんが少なからず悩んでいることではないかと思います。

「広報ができることは、まだまだある!」本当にそうだと思います。どのように知ってもらうのか、いざというときに思い出してもらえるような、「記憶に突き刺さる広報」、とても大事なことです。

 

【第2題 施設入居時等医学総合管理料算定までの取り組み】

在宅医療に取り組むうえで、とても大事なことが、「地域での生活を支えること」が求められているということです。いま、「地域医療構想」「地域包括ケアシステム」の中で、「支える医療」という言葉がたくさん出てきています。地域を支える医療機関の事務職員・・・つまり「チームの一員として」どのように取り組み、収益に変えていくかというとても大切な業務の発表でした。

医事課は、先生方の医療行為を収益に変えるとても重要な業務を担っています。このように提案し、収入確保ができる提案は事務職員としての醍醐味だと思います。

 

【第3題 急性期病棟におけるMSWの動きと当院での取り組み】

これは、治療から在宅生活へつないでいく「退院支援」に携わるMSWさんのお話でした。入院期間は徐々に短くなっていく中で、「自宅に帰りたい」という患者の想い、「自宅に連れて帰りたい」という家族の想いを、どのようにつないでいくのか、様々な社会資源を活用して退院支援をしていくMSWさんの実際の業務内容の発表でした。

家族がターミナル期を迎え、どうしたらよいかという不安がある中、このように寄り添い一緒に考えていってくださる方があるのは、本当に心強い思いだろうと思います。

 

【第4題 多職種合同チームによる課題解決への取り組み】

人材育成プロジェクトから人事考課の再構築、体系的研修プログラム作成し、近隣の病院との合同研修やe―ラーニングの導入、人材育成支援室の役割など、一度構築したものもその後の状況に合わせて見直し、変更し、より良い「多職種合同研修プログラム」の構築・実施に向け取り組んでいる内容の取り組み紹介でした。

この「多職種合同研修プログラム」は、各部署のリーダークラス(主任、副主任候補者)に対し、部署の垣根を超えた横のつながりの強化、役職者として必要なスキルを身に着けるために構築されたものです。

基本的な「あいさつ」を身に着けること、「接遇」教育としては「グッジョブカード」を作り、サービスの向上、コミュニケーションの活性化、気付きの習慣化を目的に、リーダー職から渡すそうです。この取り組みにより、周りに目配りをするなど、必要な視点が身につくなどの効果があるとの報告でした。

また、業務改善については「半年で効果が出る内容を見つけ取り組む」こと、合宿研修などにより、取り組んでおられるようで、とても興味深いものでした。

 

【第5題 相殺査定「0件」を目指して】

「相殺査定」とは調剤薬局への処方箋を発行した医療機関が、調剤薬局での薬剤査定について、処方元の医療機関のレセプトから減点され、金額を相殺されるというものです。基本的には「処方した医療機関に責任がある」という考え方です。

この中では査定原因を医事課全体で確認し、査定内容の分析を共有化することで、スキルアップを図っていくことの重要性とともに、その対策内容が妥当であるかどうかの結果を追跡することにより、確認をとることが大事であることが「結果」として明確に出ていることがとても面白いと思いました。

査定はゼロにはなりませんが、「収入のマイナスを防ぐこと」みんなで情報を共有し対策を立てることで、「医事知識の向上」が見込まれ、査定を減少させることができることが実証されていました。

 

【第6題 査定減少へ向けた取り組み】

第5題とともに、医事課のスキルアップについての取り組み報告ですが、こちらの医療機関は「査定率 0.1%以下」という目標をたて、その目標達成に向けた業務改善についての発表でした。

ここでも、「査定内容の分析」の重要性が述べられていましたが、この医療機関は全医事職員がそれぞれに「査定理由を調査」し、意見交換会を行うことで、意識付けを行われていました。

医療機関の査定の約6割から7割は「薬剤」「検査」の査定です。医療機関によっては「リハビリテーション」が加わってくるでしょう。集中的に取り組むことにより早期効果が見込めるものがあることが明確になっていました。

 

【第7題 診断書作成業務について】

医師事務作業補助者の業務レベルアップへの取り組みについて、「診断書の訂正率をゼロにする」ことに対する取組です。

医師事務作業補助者の業務の中で一番ウエイトが大きいのは、「診断書の作成」になると思います。この診断書は、サマリー内容だけではなく、医師の記録、看護記録、検査結果などを読み取り、診断書作成を行います。医師に確認を依頼するときに、訂正が入るだけではなく、その内容に対し、外部からの問い合わせに対応することも必要です。

しかしながら、外部からの電話を医師事務作業補助者が受けることはなく(業務外のため)、「結果、訂正が必要な状況かどうか」というところまで、把握されているところは少ないと思います。その状況をフィードバックしてもらうことにより、意識を高め、訂正をなくしていこうという取り組みでした。働き方改革の中でも、重要な要素があると思いました。

 

【第8題 電子カルテ導入による業務改善化について】

この医療機関は、複数の医療機関と健診センター、老人保健施設などを持たれています。この医療機関すべて一つのIDで管理していくことにより、情報の共有と業務効率化を図るという、とても画期的な内容でしたが、現代のICT化についてはとても有効であると思いました。それにより、受付業務の効率化ができ、計算業務についても薬剤情報の取得が迅速になるなど、効率化が図れた報告が行われていました。

この電子カルテの導入では、受付周りの運用ががらりと変わります。私も経験がありますが、その運用をしっかりと検証する必要もあり、マスタ管理もとても大事になります。しかしながら、作業内容は効率化することができます。その生み出した時間で何をするのか、医療機関さまの腕の見せ所でしょう!

 

【第9題 病床機能報告を使用したベンチマーク】

自医療機関の「強み」「弱み」を、客観的データのベンチマークすることにより明確にし、課題を発見するツールとして活用したという内容のものです。

病床機能報告は440項目余の内容を、人員や患者数、6月のレセプト請求実績をエクセル形式で公開されています。都道府県のホームページなどに公開されており、誰でも活用することができます。すべての項目を比較するのはとても大変です。しかし、その中から、必要な項目をベンチマークすることで、自医療機関の周辺の医療地図も見えてくるかもしれません。とても興味深い内容でした。

 

【第10題 再来患者数の平均化】

予約診療を主に取り入れている医療機関の場合、月間の診療数を平均化することにより、事務職員にも余裕ができてくるでしょう。また、その中で予約外の受付などの許容範囲が広がることが期待できます。業務効率化と標準化はとても重要な業務改革となります。

 

【第11題 ポストアキュート機能としての地域包括ケア病床】

今回の4月改定により、「地域包括ケア病床」の役割が今まで以上に明確化されてきました。この中で「地域包括ケア病床」の運営はとても難しいものになっています。

このハードルをどのようにクリアし、管理運営していくのか、取り組み内容の発表が行われました。

 

第二部は特別企画、「就活対談」です。大分県内3つの専門学校と短期大学の学生と教務課の職員様が参加され、大分県内の医療機関の医事課長クラスが対談形式で実施されました。

学生たちからは、「どのような人材を求めているのか」「どのようなことに気をつけたらいいのか」「どのようなスキルが必要か」という内容の質問がありました。中には、敬語が難しい、どうやって勉強したらいいですか?・・・という声も・・・

敬語については、子どものころ「文法」の教育は受けているはずですが、それを実践しているかどうかは、ひとり一人の育ちの中で成熟してくるものだと思います。けれど、今からでも遅くはない。社会人としては「気づき」から成長が始まります。

 

医療機関側からは、「保険制度の基本的な知識や公費制度の内容まで、教育をしてほしい」「DPCがどのようなものか理解しておいてほしい」というような高度な要望も出ていましたが、「診療報酬検定取得」を目標としている専門学校がほとんどだと思います。学校では検定取得は「終着点」となるのかもしれませんが、医療機関ではそれは「診療報酬点数表の見方がわかる」という基本的な仕事の第一歩と受け取ることになります。一番大事なことは、習得した基礎的知識をどう使用していくか・・・これは医療事務のみならず、どのような業務にもいえることですね。

 

今回、久しぶりに医療実務研究会学会に参加し、医療機関の皆様の頑張っておられる取り組み内容をお聞きする機会を得ました。私は医療機関からは離れてしまいましたが、今度は今の私の立場で、地域包括ケアシステムを支える、医療機関の皆様に寄り添い、「地域とともに歩む”経営のよろず相談屋“を目指して」活動していきたいと存じます。

さあ! 明日からまた頑張りましょう!!

 

 

【参考】

◆医療実務研究会のホームページはこちら・・・

~医療機関による、医療機関のための、勉強会です。

http://www.ijitsuken.com/

 

医業経営支援課

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