【医療介護あれこれ】「自己診療」と「自家診療」

長 幸美

アドバイザリー

1季節の移り変わりは早いもので、二十四節気の「啓蟄」を迎え、虫たちも活動を始めるころになりました。七十二候では「桃始笑(桃はじめて咲く)」・・・花の競演が楽しみな季節になりました。北九州オフィス近くの到津の森では「ミモザ」が満開となり、春の香りが楽しめる良い季節となりました。

 

 

さて、弊社には様々な医療機関さまや介護事業所さまから、ご質問をいただくことがございますが、今日はその中から「自己診療」と「自家診療」についてお話ししたいと思います。

Q 医療法人で、院長が、自分で診療又は調剤や処方薬の発行は、出来ますか?
⇒回答:保険診療のルール上、医師が自分で自分の診療を行い、保険請求を行うことはできません。

2自己診療」とは、医師本人が自分自身を診察し治療を行うことをいいます。
対して「自家診療」とは、医師の家族や医療機関の職員を診察することをいいます。

 

 

この「自己診療ができない」というものは、どのような根拠があるのでしょうか?

根拠となるものは、健康保険法に基づく医療保険制度において禁止されていることと、医師法により、「医業」という考え方が基にあり、自分自身へ行うものではないという考え方のようです。

①健康保険法等に基づく医療保険制度では、自己診療は保険診療として認められていないため、勤務医師や代診の医師など、他の医師の診療を受けることが必要となります。
②医師法17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」
⇒「医業」とは、「業として、医行為を行うこと」を指しています。
自己診療は医行為ですが、業という点から外れる行為と判断されています。

では、自家診療は如何でしょうか?
ここで一番問題になることは、診療の実態があるかどうか、保険診療のルールにのっとって一部負担金が支払われているかどうか、ということがポイントになります。

基本的には、家族や同じクリニックの職員に対して、または家族に対して、
「先生風邪をひいたので、風邪薬ください」「腰が痛いのでシップください」と言われて、「風邪ひいたの?じゃあPL顆粒出しとくね」「腰が痛い?モーラステープ貼っときなさい」と言って仮に薬を処方したら?どうでしょうか?

これは、「無診察診療」と言って、医師法に違反することになります。
医師法第20条(無診察治療等の禁止)
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

自家診療の場合は、保険者により算定が可能かどうか、ルールが異なります。

各地方厚生局から出されている「保険診療の理解のために」という冊子の中には、以下のように「自己診療」「自家診療」について、記載があります。
保険医療機関の保険医として、また、保険医療機関に勤務する事務職員として適正な保険請求を行う意味でもおさえておく必要があります。

【保険診療の理解のために】
(1) 自己診療について
医師が、自身に対して診察し治療を行うことを「自己診療」といい、健康保険法等に基づく現行の医療保険制度は、被保険者、患者(他人)に対して診療を行う場合についての規定であるとされていることから、自己診療を保険診療として行うことについては、現行制度下では認められていない。保険診療として請求する場合は、同一の保険医療機関であっても、他の保険医に診察を依頼し、治療を受ける必要がある。

(2) 自家診療について
医師が、医師の家族や従業員に対し診察し治療を行うことを「自家診療」という。
自家診療を保険診療として行う場合については、加入する保険医療制度の保険者により取扱いが異なるようである。認められる場合についても、診療録を作成し、必ず診察を行い、その内容を診療録に記載し、一部負担金を適切に徴収するのは当然である。無診察投薬、診療録記載の省略、一部負担金を徴収しない等の問題が起こりやすいため、診察をする側、受ける側ともに注意が必要である。

福岡県の医師国保の場合は、自家診療について、以下の通り規定があります。
https://www.fukuoka.med.or.jp/ishikokuho/01/case09/index.html

都道府県の医師国保の中には、ルール化されていない場合があります。個別の確認が必要になると思います。

【参考までに、「福岡県医師国民健康保険組合」のルール】
自家診療については、組合員各位のご理解、ご協力のもと保険請求を制限していますが、平成22年4月診療分から、「薬剤」のみ保険給付を行っています。
「薬剤」以外の初・再診料、検査料、処方箋料等は保険請求できませんのでご了承ください。

※健康保険法等に基づく医療保険制度では、医師が自身に対して診療を行った場合(自己診療)は保険診療として認められていないことから、当組合の自家診療における薬剤給付についても対象となりません。
ただし、勤務医師や代診の医師など他の医師による診療での医師自身の薬剤給付については対象となります。

対象者:甲種組合員、乙種組合員、家族

<給付する部分>
院内処方の場合は、投薬された薬剤料(内服薬、屯服薬、外用薬)のみ給付します。
調剤料等は認めません。
※急性・慢性疾患、入院・外来を問いません。
院外処方の場合は、薬剤料のほか調剤料、加算料等も給付します。
福岡県内の調剤薬局からの請求に限る

<給付しない部分>
投薬以外の薬剤料は給付しません。
※下記項目に算定される薬剤料は給付対象外
◆在宅医療、注射、処置、手術、麻酔、検査、画像診断、リハビリテーション、精神科専門療法、放射線治療、病理診断、投薬以外の項目は全て給付しません。
院外処方で処方箋を交付する場合の処方箋料も給付しません
給付対象外項目
初・再診料、入院料、医学管理、検査、在宅医療、注射、処置、手術、麻酔、検査、画像診断、リハビリテーション、精神科専門療法、放射線治療、病理診断

<請求>
〇自家診療における薬剤給付についても通常の診療と同様にレセプトにより国保連合会へ請求することとなります。
①院内処方の場合は、医療機関より国保連合会へ請求

・通常通り診療を行い、必ずカルテを作成し、カルテの内容をもとにレセプトに必要事項を転記します。
・基礎データを記載します。
・診療年月・医療機関コード・保険種別・本人、家族・保険者番号・被保険者記号番号・氏名、生年月日・保険医療機関の所在地及び名称・傷病名・診療開始日・転帰・診療実日数
摘要欄に必ず「医師国保自家診療薬剤請求分」と記載してください。
・内服薬、屯服薬、外用薬のそれぞれ投与した項に調剤単位数及び薬剤料の総点数を記載し、その内訳については、摘要欄に薬剤名、投与量及び投与日数を記載します。
・療養の給付欄の請求の項に薬剤料の合計点数を記載します。
・院外処方の場合は、調剤薬局より国保連合会へ請求

②院外処方の場合は、調剤薬局(福岡県内の調剤薬局に限る)からの請求となります。
・医療機関からの請求はできません。
・院内処方の場合と同じく通常通り診療を行い、必ずカルテを作成してください。

<留意事項>
・当組合では適正な組合運営のためレセプト点検を行っています。
自家診療における薬剤給付についても同様にレセプト点検を行っており、疑義が生じた場合は、当該診療内容に関する資料を提出していただくことがありますので、何卒ご了承ください。なお、円滑なレセプト審査・点検を行うため検査結果等を摘要欄に明記いただければ幸いです。

<くわしく教えて! Q&A>
Q 後期高齢者医療制度の被保険者になりましたが、自家診療の給付制限はあるのですか?
自家診療の給付制限は医師国保の被保険者の方のみです。後期高齢者医療制度の被保険者となった方は対象とはなりません。組合員資格を継続した甲種組合員も同様です。

 

<参考資料>
福岡県医師国民健康保険組合の「自家診療について」
 

経営支援課

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